脳は10歳までどんどん大きくなって、その後は萎んでいく? 腸から生まれた脳の成長メカニズム
脳は10歳までどんどん大きくなって、その後は萎んでいく? 腸から生まれた脳の成長メカニズム

私たちの脳は生まれてから10歳ぐらいまではどんどん大きくなる一方、その後は緩やかに萎んでいくという。25歳をピークに完成する脳の発達メカニズムとは?
脳神経外科医の東島威史氏が脳への刺激と癒しについての最新知見を初めて語りつくした『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

腸管の先っぽにできた脳

「腸管の先っぽにできた脳」という表現をご存じだろうか?

進化論・発生学から出てきた比喩で、脳の起源や構造、さらには脳と腸の深い関係を示す言葉でもある。

原初のアメーバには脳がなかった。その後、初期の多細胞生物、たとえばヒドラなどの刺胞動物に進化していく。ヒドラには脳がないが、神経系は腸管の先っぽ「口の周辺」に集中して発達した。

つまり「食べる」という生命維持において最も重要な部分に、神経というセンサーを作ったということだろう。会社でも重要プロジェクトに精鋭を配置するように。

神経というセンサーは、餌があれば感じて見つけ、チャンスがあればすかさず食べる。さらに神経系が刺激に反応するなかで、やがて判断に近い選択行動が生まれた。これが「脳」の始まりだ。

より高度な生物へ進化する過程で、腸(消化管)の前方に脳、つまり神経細胞の集積ができていった。

餌という「刺激」に対応する精鋭として誕生したのが脳であり、覚醒の機能が脳である。このことからも「脳は刺激を処理するための臓器」という説はうなずけるだろう。

大脳は後ろから前に発達する

人間などの哺乳類には脳が備わっているが、胎児の脳はどうできていくのだろう?

残念ながら、「必要なものを必要なだけつくる」という効率の良い成り立ちではない。最初はでたらめで、「質より量!」とばかりに、とにかくやたらと細胞が増えていく。

ホテルの朝食ビュッフェをイメージしてほしい。

あつあつの卵料理もサラダもチャーハンも肉も焼きそばもプリンもクロワッサンも、「とにかく目についたものをお皿にてんこ盛りにする」というタイプの人がいるが、まさにあんな感じだ。

だが、「多すぎる料理=良い朝食」ではない。

でき立ての熱いオムレツの隣のサラダはしんなりしてしまうし、チャーハンと焼きそばとクロワッサンを一度に食べたら胸焼けする。そこで大人になるにつれ、いらないものは削ぎ落として、「おいしい朝食」にふさわしいものだけ厳選するようになる。

脳も同じだ。まずは大量に細胞を増やしてから、いらないものを削ぎ落としていく。細胞はやたらと量だけあるより、必要なものが必要なだけあったほうが、機能を獲得しやすいのだ。

先ほど「重要プロジェクトに精鋭を配置する」と述べたが、いくら精鋭であっても30人もいたら、意見をまとめるだけで一苦労となり、かえってプロジェクトは混乱するだろう。

こうして胎児期にでたらめに細胞が増えながら、脳は出生後、後ろから前へと発達していく。
「後頭葉→側頭葉・頭頂葉→前頭葉」──こんな順番だ。

後頭葉には、目に映るものを処理する「視覚野」があり、生まれて初めて「光」刺激が入ったときから発達が始まる。

次に発達するのは「側頭葉」と「頭頂葉」だが、これははっきりとは順番はつけられない。右と左でも発達の早さが違うからだ。

脳は「削ぎ落とされて」完成する

音程やリズムを理解する右側の側頭葉の発達は比較的早く、胎児の頃からある程度発達が進んでいると言われている。左側の「音の意味≒言葉」を理解する領域は生後ゆっくりと発達していく。

頭頂葉には「感覚野」があり、「触覚刺激」により発達していく。触った感触はもちろん、手足を動かしてどのくらい動いたかなどの「関節位置覚」なども、動かせば動かすほど急速に発達していく。

そして最後に発達するのが「前頭葉」だ。まずは前頭葉の中でも一番後ろにある「運動野」が発達し、筋肉を動かし始める。それより前には「計画」、「予測」、「共感」といった、人間ならではの「高次脳機能」が「眠って」いる。

運動野まではある程度自然に発達していくが、それより前の前頭葉の発達には、生きていく中での「刺激」が不可欠だ。

最後に完成する前頭葉は、動きと情緒を司る部分だ。3歳から思春期にかけて発達を続け、完成するのは25歳くらいだと言われている。

どの段階の発達においても脳はさまざまな機能を獲得していくが、それは「細胞の増大」ではない。

大量に盛り付けた朝食ビュッフェが選び抜かれたものに変わるように、「必要ないものを削ぎ落とす」ことで脳は完成する。丸だけの石を用意して削っていき、体積を減らして美しい彫刻を作り出すように脳は完成するのだ。

そのため、10歳くらいまでは脳はどんどん大きくなるが、その後、ゆるやかに萎んでいく。いらないものを削る「仕上げの段階」に入るということだ。

筋肉を過剰につけすぎるのではなく、美しくバランスのとれた体を目指す「フィジーク」という競技があるが、脳はまさにそれだ。いらないものが削ぎ落とされることでバランスの美しい脳になっていく。

不夜脳 脳がほしがる本当の休息

東島 威史
脳は10歳までどんどん大きくなって、その後は萎んでいく? 腸から生まれた脳の成長メカニズム
不夜脳 脳がほしがる本当の休息
2025/9/241,650 円(税込)240ページISBN: 978-4763142481

「寝ないと脳に悪い」は、ウソだった?
“脳の老廃物”は「起きていても」掃除できる――。
脳神経外科医による、「脳の休息」の常識を覆す1冊。


「健康な脳には睡眠が必要」と一般的に言われますが、
実は、睡眠と脳の活性化には明確な因果関係がないことが分かってきました。
「体の維持」には睡眠は重要ですが、
「脳の健康」には休息より“継続的な刺激”こそ重要――。

そう語る東島医師は、脳神経外科医として、
日々、人の「脳波」を見つつ、大学に研究員としての籍も置く医師。
臨床と研究との二足のわらじ生活のなかで
◎「脳の老廃物除去に必ずしも睡眠は必要なく」
◎「起きているときでも脳は老廃物を除去できる方法がある」
ことを見つけます。


24時間営業のコンビニが閉店せずとも清潔さを保つように、
人間の脳も「店を閉める」ことなく、老廃物は除去でき、機能を維持できるのです。

脳の老化に対抗するために重要なのは睡眠以上に、
「適切な刺激」を継続的に与えること。
では、その「適切な刺激」とは!?
まさに、脳への刺激と癒しについての最新知見を初めて語りつくします。

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【目次より】
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◎「脳のために睡眠が必要」は本当か?
◎「眠り」の役割と「不夜脳」
◎脳の掃除は「寝ていないとき」でもできる
◎認知症と睡眠不足の「都市伝説」
◎脳は体を「寝かしつける」保育士
◎脳は刺激不足で老化する
◎たっぷり眠ると「集中力」が上がる本当の理由
◎「脳疲労」の正体はバランスの偏り
◎記憶に必要なのは「忘却の能力」のほうだった

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