部下の活躍に「嫉妬」する上司の恐怖「課長になってから勘違いでもしているのかな」その心理と対処法
部下の活躍に「嫉妬」する上司の恐怖「課長になってから勘違いでもしているのかな」その心理と対処法

大手企業で同期最速の課長に昇進し、目覚ましい成果をあげていた片岡さん(仮名)。強い信頼関係があったと信じていた直属の部長の態度が約9か月後に一変、重要プロジェクトから突然外された……その背景にあったのはなんと嫉妬?

官公庁などでカウンセリングを行なう心理学者の舟木彩乃氏の著書『あなたの職場を憂鬱にする人たち』より一部抜粋・再構成して、職場にいる迷惑な人の実例をお届けする。

大きなプロジェクトから突然外されて…

大手企業に就職し、同期で一番早く課長に抜擢された片岡さん(仮名、男性30代・企画営業部)は、人を笑わせるのが得意な明るい性格であることもあり、営業成績は常にトップでした。直属の上司にあたる部長からは特に可愛がられ、若くして課長に昇進できたのも部長の推薦のおかげでした。

課長に昇進してからの片岡さんは、仕事が軌道に乗っていくのを実感していました。新規プロジェクトを企画したり、大きな契約を取ったりして、目覚ましい成果をあげていきました。

もちろん、昇進に導いてくれた部長は、誰よりも自分の仕事ぶりを喜んでくれていると思っていました。それまで部長を尊敬し、折に触れていろいろと相談もしてきたので、強い信頼関係で結ばれているとも思っていました。

しかし、課長になってある程度の裁量権を持たされるようになってからは、次第に自分の裁量で物事を決めることも多くなり、以前のように部長に相談することも少なくなっていきました。これは、片岡さんが意識的に部長に相談しなくなったわけではなく、管理職に就いたがゆえの自然な流れでした。

しかし、昇進から9か月ほど経った頃、片岡さんは、部長が中心になって動いていた大きなプロジェクトから突然外されてしまいました。

このプロジェクトは立ち上げ当初から片岡さんが部長を補佐してきた案件だったので、驚いて外れた理由を聞いたところ、「君も課長になって忙しいだろう」という取って付けたような返答でした。

その頃から片岡さんは、部長の態度になにか違和感のようなものを覚えはじめます。

その違和感が決定的なものとなったのが、各部門長が参加する月例の営業企画会議でした。会議では新規の企画について自由に発表する時間があり、以前、部長の後押しで片岡さん発案のヒット企画が生まれたこともありました。

この会議で、片岡さんが課長昇進以来温めてきた新企画を発表したとき、真っ先に反対したのが部長だったのです。

その場で反対の理由を聞いたのですが、「新規性に欠ける」「コスパが良くない」などという曖昧な言葉しか返ってきませんでした。これまでも部長に反対された企画はありましたが、「こうすればいいんじゃないか」という具体的なアドバイスがあったので、今回は明らかに様子が違いました。

「課長になってからなにか勘違いでもしているのかな」

そこで片岡さんが案を引っ込めようとしたとき、部門長A氏が「その企画、面白いよ。次回もう少し詳しく聞かせて」と言い出したのです。A氏の言葉に喜んだ彼は「ありがとうございます! もっと内容を詰めてご相談させてください」と答えました。

しかし、そのとき怒ったような顔つきで片岡さんをじっと睨む部長の顔に気づき、ハッとしたそうです。

会議の後、片岡さんは部長のところへ行き、事前に相談せずにいきなり新企画を発表したことについて謝罪しました。片岡さんは“部長が反対したのは事前相談しなかったからだ”と考えたからです。

しかし、部長からは「私を飛ばしてA部門長に相談していたとは。君のしたたかさに驚いたよ。それとも、課長になってからなにか勘違いでもしているのかな」と皮肉を言われました。

片岡さんは、会議前にA氏に相談していたわけではありませんが、なにを言っても無駄だと思ったそうです。

このケースで、部長の態度の心理的な背景にあるものは“嫉妬”でしょう。部長は、課長になってからの片岡さんの活躍ぶりをみて、心の中で「今まで引き立ててやったのに…」と思いながら嫉妬していたのかもしれません。

その推測が正しければ、彼の活躍を阻むという行動に出たことは頷けます。さらに、片岡さんが部長よりも職位が上の部門長と通じることになれば、自分のポジションを脅かす存在にもなりえます。

嫉妬は誰でも持ち合わせている感情ですが、「部下に嫉妬する上司」には、自分のことを慕って褒め称える部下は可愛がる一方で、自分を否定したり将来的に下剋上を起こしたりしそうな部下に対しては攻撃を加える傾向があります。

上司から嫉妬されている状況というのは、部下の立場にある者としては、想像しにくいシチュエーションかもしれません。上司と信頼関係を築いてきたと信じている場合は、なおさら想像が難しいでしょう。たとえ信頼関係があっても、部下が上司を超える能力を持っていたりした場合は、嫉妬心が信頼を超えていくこともあります。

このような「部下に嫉妬する上司」から不当な扱いを受けず、うまくやっていくにはどうしたらよいでしょうか。

まずは、嫉妬の背景には、自分の幸福(地位や業績、人気など)を奪われるのではないかという“不安”や“恐怖”があることを知っておくことが重要です。

そのうえで、言葉は良くないですが、戦略的に面従腹背を意識することで、上司を冷静にさせるような対応が可能になるでしょう。

たとえばポイントポイントで「うまくいったのは、なにより部長のおかげです」などと言って上司を立て、自分は決して下剋上を起こさないという姿勢を見せることなどです。

文/舟木彩乃 サムネイル/Shutterstock

『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(インターナショナル新書)

舟木彩乃(著)
部下の活躍に「嫉妬」する上司の恐怖「課長になってから勘違いでもしているのかな」その心理と対処法
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