男の子なら雑に扱っていいのか…男子運動部に今なお残る「しごき」と「体罰」問題に潜む日本独特の慣習
男の子なら雑に扱っていいのか…男子運動部に今なお残る「しごき」と「体罰」問題に潜む日本独特の慣習

日本ではこれまでほとんど語られてこなかった「男性学」。だが、さまざまなコンプライアンス意識が高まる昨今においても、部活動、特に男子運動部ではいまなお、しごきや体罰が当たり前のように残っており、2025年もニュースを騒がせた。



書籍『名著でひらく男性学』より一部を抜粋・再構成し、部活動におけるしごき問題を考察する。

杉田俊介(すぎた しゅんすけ)1975年生まれ。批評家。『非モテの品格』『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』ほか著書多数。

西井開(にしい かい)臨床社会学研究者、一般社団法人UNLEARN理事。著書に『「非モテ」からはじめる男性学』がある。

川口遼(かわぐち りょう)社会学修士。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。共著に『私たちの「戦う姫、働く少女」』など。

天野諭(あまの さとる)保育士。立命館大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中。著書に『保育はジェンダーを語らない』がある。

「男の子が雑に扱われる問題」─部活の「しごき」をどう捉えるか

杉田 「男の子が雑に扱われる」問題を議論の入り口にしましょう。差別やハラスメント、また「男らしさを維持するコスト」といった問題とは微妙に違うところに、男性の身体が「雑」に扱われたり、あるいは「男性」として雑にまとめられてレッテルを貼られたりするという問題がある、そうした話ですね。

天野 「雑問題」というのは、女の子のほうが大切にされていて男の子のほうが差別されている、という単純な対比の話ではないということがまず前提にあると思います。確かに、社会全体を見渡すと女性差別的な構造は依然として根強く存在する。

でも、ここであえてマジョリティとして下駄を履いているはずの男の子にフォーカスしてみると、その扱い方がどこか雑というかぞんざいで、配慮の行き届いていない状態がある。

男の子という性別について、マジョリティすぎるがゆえにそもそも議論する機会が少なかったのではないか、ということです。それから、個々の保育者の対応が良くないという話をしたいわけじゃない。もっと俯瞰的に、理論的に考えてみると「男の子とはこういうもの」「男の子なんだから恥ずかしくないだろう」などのジェンダー・バイアスが、保育や教育の現場にも構造的に組み込まれているという点を指摘したいのです。

昨今、過剰な「しごき」は暴力やハラスメントの文脈で語られ、理不尽なものとして捉えられています。女子学生から聞こえてくる「しごき」体験は、例えば「パイプ椅子を目の前で床に投げつけられた」など威嚇や怒鳴りによる八つ当たり、あとは罰走などでした。どれも酷い体験だなと思いますが、間接的な暴力・ハラスメントが中心でした。

興味深いことに、「しごき」について、女子学生の一部から肯定的な意見も聞かれました。「厳しくしごかれたことが、今では人生のプラスになっている」「倒れるギリギリまで追い込まれたことで精神力が鍛えられた」など、自身の経験を前向きに捉えているのです。



一方で、男子学生からは肯定的な意見がほとんど出なくて、「首を絞められた」「集団でビンタされた後に一人ずつ『ありがとうございました!』と言わされた」「殴られて骨折した」など、直接的な暴力が語られました。その語りの中にはルサンチマン的なニュアンスも感じます。

この違いを見て、男子が部活動の「しごき」において、より身体的暴力に晒されやすい可能性を考えました。「しごき」体験における質的な違いが、男女にあるのかもしれません。プライベートパーツだけに限らず、男子の身体が「雑」に扱われているのです。

否定したくないという話なのか

杉田 今のお話、男子学生に関してはわかりやすいと思うんです。細かい論点はいろいろありますが、基本的には自分がしごかれたり、死ぬ気でやれみたいに言われるのは嫌だっていう感じですよね。

それに対して、女子学生たちの心理はどういうものなんでしょうか。ハラスメントや性差別はもちろん嫌だけど、体育会系の部活やしごきに関してはいい思い出であり、それは否定したくないという話なのか、何かまたそれとも別の話なんでしょうか。

天野 今の時代は、ちょっと頭をポンとされたくらいでも、暴力やセクシュアルハラスメントとして問題視されるケースが増えており、男女問わず身体接触にはより慎重になっています。

しかし、教育現場では、大人と子どもの権力非対称性も手伝って学校独自の雰囲気や価値観が作用し、指導者の支配的状況ができ上がりやすい特徴があります。男子学生たちの暴力被害が、今でも身近に起きていることには驚きでした。

また、一部の女子学生の肯定意見に関しては、現代の暴力やハラスメントに対する厳格な感覚とは一見相反するようにも思えますが、そこには女子特有の学校における対人関係の構造があるのかもしれません。



身体的暴力はなくても、理不尽な追い込まれ方をされていることは多いでしょう。それがポジティブに読み取られるということは、暗黙に暴力を受け入れている状態でもありますので、女子にとって危険なことです。さらに深く知りたい部分です。

身体接触に伴う複雑な感情

西井 一応補足しておくと、被暴力経験がある若い男性が「体罰」に賛成する傾向にある一方、同じく被暴力経験のある場合でも若い女性のほうは「体罰」を否定する傾向が強いことをアンケート調査から実証している研究があります。

20年以上前の調査なので、変化してきた可能性はありますが、それでもまだ体罰を肯定的に捉える男子も存在していると思います。

例えば2022年12月、長崎県の私立高校バドミントン部の顧問が、部活動中に生徒を蹴ったり髪をつかんだりする事件が発覚しました。その際、体罰を受けていた男子部員が「自分たちを強くするための指導だと思う」と言っていたという報道がありました。

川口 天野さんの話は、保育を専攻している男子学生ということで、ある種の─表現が難しいですけれど、例えばそういった体罰的なものを嫌悪している学生が集まっている可能性はありますね。

天野 おっしゃる通りですね。みんな今時の子たちですけども、やはりマッチョな感じではなく、どちらかというと「男らしさ」とは少し距離があり、おっとりした子たちが多いように見受けられます。

西井 体罰を肯定するか否かにジェンダーが関わっているかどうかという問いとは別に、スポーツを媒介にすることによって、子どもたちを雑に扱ってもいい、暴力的な扱いは許容されるという価値観がずっと残り続けるという問題がありそうですね。

杉田 あまりうまく言えるかわからないんですけど、教師からの身体接触イコール体罰で絶対悪、みたいな話に対する違和感は自分にもちょっとあるんですよね。自分が中学生のときには、忘れ物をすると体育教師が棒でお尻を叩いたりとかって普通にあった。

もちろん今ではアウトなんでしょうけれど、でもそれは僕の中ではそれほど嫌な記憶ではない。

むしろ嫌だったのは、職員室に呼び出して、自分が悪いと謝るまで許さない音楽教師とかのほうでした。「自分が悪い」と認めるまで、絶対に職員室から出さない。その代わり殴ったり叩いたりはしない。そっちのほうがすごい屈辱というか、嫌な暴力の記憶として残っていて……。

だから叩いていいって話でもないんだけど、身体接触=体罰=悪ということに対して、それで何かが逆に見えなくなっていないかなっていう疑問を抱くことは、一つの角度としてあってもおかしくないと思うんです。

難しいですよね。例えば最近、ケア論や感情史のような、感情や情動についての学問がいろいろ出てきています。ケアは他者に対する配慮や心理的共感、またはシンパシーとエンパシーなど、割と心理面で捉えられがちです。

けれども、やっぱりケアとか保育って、身体接触が常にあるから、それに伴うもろもろ複雑な現象が生じていると思うんですよね。身体接触を伴うから、完全にセクシュアルなものを消し去れない側面があるし、ハラスメントか否かで分けきれないような複雑で微妙なものが生じやすいような気がして。

つまり、身体の面倒くささ、厄介さ、細やかさのようなものが割と置き去りにされちゃっている面があるのかな。

名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える

杉田俊介、西井開、川口遼、天野諭
男の子なら雑に扱っていいのか…男子運動部に今なお残る「しごき」と「体罰」問題に潜む日本独特の慣習
名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える
2025年10月17日発売1,089円(税込)新書判/240ページISBN: 978-4-08-721385-0

〈男〉はそれほどわかりやすくない――。対話で学ぶ、はじめての男性学。
日本では1990年代にいったん注目を集めた男性学が、近年再び盛り上がりを見せている。家父長制による男性優位の社会構造を明らかにするフェミニズムに対し、その理解が進む一方で、アンチフェミニズム的な声も目立つ。また一枚岩的に男性を「強者」として把握できない実像もある。構造の理解と実存の不安、加害と疎外のねじれの中で、男たちはどう生きていけばいいのか。本書は、批評家、研究者、実践者など4人が集まり、それぞれの視点から男性学の「名著」を持ち寄り内容を紹介・解説した後、存分に語り合った。多様で魅力的な男性学の世界にようこそ。

◆目次◆
序章 男性学とは何か――西井開
第一部 名著で読み解く男性学
第1章 ギーザ『ボーイズ』[発表・天野 諭]
第2章 セジウィック『男同士の絆』[発表・西井 開]
第3章 彦坂 諦『男性神話』[発表・杉田俊介]
第4章 コンネル『マスキュリニティーズ』[発表・川口 遼]
第二部 対話編 今、男性について何を語るべきか

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