〈2026年外食展望〉「高くても行く店」と「もう行かない店」の境界線は?  値上げ疲れで大手外食チェーンが選んだ“客単価”と“体験価値”の生存戦略
〈2026年外食展望〉「高くても行く店」と「もう行かない店」の境界線は? 値上げ疲れで大手外食チェーンが選んだ“客単価”と“体験価値”の生存戦略

2022年から続く飲食店の値上げ攻勢はまだまだ続きそうだ。2026年もコメの価格高騰が予想されていることや、円安でアメリカ産の牛肉など食材費も上がっていることに加え、人件費負担も重くなっているからだ。

 

しかし、値上げ疲れで消費者がうんざりしている様子も見られ、価格に見合った価値提供が求められる時代になりそうだ。

デジタルの仕組みを整えたマクドナルドは消費者への浸透がテーマに

強気の値上げを続けてきた象徴的な会社が「マクドナルド」だ。ただし、2025年はやや慎重な姿勢を見せた。3月12日に価格改定を実施し、ハンバーガーを170円から190円に引き上げたが、同じタイミングでハンバーガーを500円台で楽しめるセットをラインナップに加えた。

ハンバーガーとサイドメニュー、ドリンクMがついたセット価格は500円。10年ぶりにハンバーガーの500円セットが復活した。マクドナルドの3月の客数は前年同月比4.8%、4月は0.4%と増加しており、値上げをソフトランディングさせることに成功している。

度重なる値上げで、マクドナルドの価格が相対的に高くなっているのは間違いなさそうだ。

ハンバーガーのようなファーストフード・日常食の基準になるのが、国民食であるラーメンの価格動向である。総務省は小売物価統計調査で、各都道府県の県庁所在地や人口15万以上の市の「中華そば(外食)」の価格を調査している。

それによると、本格的な値上げが始まる前の2021年11月における各都市のラーメンの価格は606円で、2024年11月は692円、2025年11月は721円だった。およそ19%上昇している。

マクドナルドの2025年11月の客単価は2021年同月比で24%の増加だ。

2021年はビッグマックが390円だった時代である。この商品はリーマンショックが起こった2008年に一部地域で300円台になった。つまり、2020年に入ってもデフレ時代の影を引きずっていたわけだ。しかし、24%もの価格の上昇はその影響を加味しても力強い。

2025年3月の値上げでハンバーガーのセットを500円で販売していたことを考えると、ここからの値上げが綱渡りであることを相当意識しているはずだ。これ以上、単純な値上げを重ねるのは現実的ではないとすれば、顧客体験を向上させる取り組みが必要になる。

マクドナルドはモバイルオーダーやタッチパネル式注文端末の導入、駐車場で商品の受け取りができるパーク&ゴーなど、顧客のニーズに合わせたデジタルサービスをすでに進めている。しかし、それが消費者に浸透しているとは言い難い。モバイルオーダーがあっても、特に郊外型店舗を中心にドライブスルーが混雑しているからだ。

中期経営計画では3年間で100店舗以上の純増を計画しており、デジタルの浸透と店舗網の強化で混雑を解消。客数の増加へと繋げる取り組みが必要になりそうだ。

ココイチはM&Aでカレー以外のチェーン化に挑む年に

客数を犠牲にして、単価増に振り切ったのが「カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)」だ。

ココイチの2025年度上期における客単価は1257円。

2021年度は983円だった。およそ28%上昇している。リクルートが調査する都市部の有職者のランチ(外食)の平均額は1250円で、ココイチのカレーはそれを上回った。もはや高級路線ともいえるほど様変わりしている。

値上げの影響でココイチの客数は2024年度が前年度比1.5%、2025年度上期が5.4%それぞれ減少している。しかし、客単価の増加が奏功して売上は堅調に増えた。

同社は国内店舗の8割以上がフランチャイズ加盟店によるものだ。フランチャイズ店は客離れを引き起こした際に施策を行なう余地が少なく、ここまでの値上げは経営陣の胆力を感じさせる。いっぽう、ココイチはトッピングが豊富で、カスタマイズする楽しさを盛り込んだ飽きさせない商品設計で、リピーターを引きつけているブランドだ。新規客が離れても、リピーターが訪れることをある程度は予見できたのだろう。

2026年以降のココイチは、海外展開と別業態による成長が加速しそうだ。海外店は2025年8月末の213から、2027年2月末までに300、2030年に500店舗を目指している。

国内ではジンギスカンやラーメン、もつ鍋店などの買収を完了しており、今後はカレー以外の業態も拡大させる見込みだ。

国内のココイチは客数の減少で出店余地は失われつつある。エリアの横展開をしつつ、新業態で次なるチェーン展開の種まきを行なっているのだ。

庶民の味方「日高屋」はちょい飲み需要獲得が奏功

まだ値上げ余地がありそうなのが「日高屋」だ。

日高屋の2025年11月の価格は2021年同月比で18%の増加だった。総務省によるラーメン価格の調査は19%増で、それを下回っている。

日高屋は2024年12月に「中華そば」を390円から420円に引き上げた。いよいよ看板メニューにも手をつけたわけだが、それでも競合よりは値上げペースが緩やかなのだ。

10円から20円のわずかな値上げに着手しつつ、ちょい飲み需要を獲得して客単価の向上を図ってきた。生ビールとハイボールがそれぞれ20円安くなる「生ビールvsハイボール祭」を実施した、2025年7月~9月は客単価は3%以上アップ。

キャンペーン効果で客数は10%近く上昇した。手頃な価格で顧客にドリンクを出してちょい飲み需要を獲得。結果として客単価も客数も上がった。

正に「損して得取れ」戦略である。

運営するハイデイ日高屋の営業利益率は回復しているが、コロナの影響を受ける前の2019年2月期の水準までは達していない。今年はいかなる方針を示すのか、注目すべき企業の一つだ。

いっぽうで、客単価が20%増加しているのが「餃子の王将」だ。強気の値上げでも客離れを起こさない稀有な会社だが、その背景にあるのが脱合理化とも言える人材力の強化だ。2023年に「王将アカデミー」を立ち上げ、店舗運営能力や接客スキル、調理技術などを統合した人材育成システムを構築した。

しかも、王将は餃子のレシピを毎年改めて味の向上を図り、調理研修を徹底していることもあって品質管理が行き届いている。それがリピーターを中心とした顧客を引きつけているわけだ。

飲食店のあるべき姿を体現する会社だが、この戦略は優秀な人材あってのものだ。飲食業界全体で人材不足が深刻化し、同時に店舗網を拡大するという難しいかじ取りが迫られる。今後は従業員のモチベーション維持が一つのテーマになりそうだ。

なお、餃子の王将と真逆の戦略を進めるのが大阪王将である。

一部店舗で調理ロボットを導入し、店舗運営の合理化を進めている。この2社の行く末も興味深い。

ついで買いで客単価増を図るサイゼリヤ

大企業の中で唯一無二とも言えるのが、値上げしない宣言をした「サイゼリヤ」だ。

ただし、2025年の国内の客単価は844円で、2021年比で13%増加した。1人あたりの皿数が増えたことが要因だが、これこそドンキ・ホーテなどディスカウントストアが得意とする「ついで買い」の飲食店版だ。

サイゼリヤは他のファミリーレストランと比べて価格が安い。ついつい他の料理も食べたいと、衝動的に注文してしまう。インフレが生み出した飲食店の新たな消費動向と言えそうだが、極限までコストカットするサイゼリヤの戦略を真似できる会社はそう多くないだろう。

サイゼリヤの肝は海外店で、多くは上海や広州など中国エリアが中心だ。日中関係の悪化や中国景気の低迷が心配である。海外事業の収益性に影が差すと、戦略転換を迫られる可能性もありそうだ。

競合のすかいらーくの客単価は王将と同じく20%上昇している。

ガストを中心にメニュー開発などを進めているが、今後のキーブランドになるのが2025年2月に都内に初出店した「資さんうどん」だ。

資さんうどんへのリブランドを図ることで、店舗の収益改善を図ることができる。同じすかいらーくグループのガストやバーミヤンなどとは全くの別業態なので、顧客の食い合いも解消されるというわけだ。

ココイチやすかいらーくのように、M&Aで別業態を引き入れるというのは、値上げが一服した企業のトレンドの一つとなりそうだ。牛丼の松屋や吉野家がこぞってラーメン店を買収する背景にも、同一ブランドでの成長に限界が見えてきたからだろう。

インフレが飲食業界の新たな方向を示し始めている。

取材・文/不破聡

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