婚礼業界が2026年に大きな転換期を迎えそうだ。結婚式場の施行件数が軒並み減少し始めたのである。
格安でも有名結婚式場でカジュアルに結婚式を挙げられるスマ婚は、コストパフォーマンスを重視するZ世代を中心に消費動向を見事に捉えている。これからの結婚式場は、新たな消費者意識のニーズに合わせた生き残り策が求められるだろう。
なぜ「スマ婚」の人気は衰えないのか?
結婚式場運営の最大手テイクアンドギヴ・ニーズの2025年度上期の施行件数は、前年同期と比べて5.5%減少した。
ゲストハウス型ウエディング「ベストブライダル」のツカダ・グローバルホールディングも2025年1-9月は0.6%減少。九州地盤のアイ・ケイ・ケイホールディングスのような中堅も2025年度は8.0%減った。東海地方に強みを持つブラスは今期第1四半期は4.6%減少し、赤字でのスタートとなっている。
多くの結婚式場はコロナ禍の反動があった2023年から2024年にかけて施行件数を伸ばす傾向にあったものの、2025年に入って軒並み縮小し始めた。
背景には価値観の変化がありそうだ。
「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」によると、結婚式を挙げた理由で「以前から憧れていたため」と回答したのは2023年が53.4%で、2024年が43.5%である。10ポイントも減少したのだ。「二人の記念にするため」「親・親族に感謝の気持ちを伝えるため」などさまざまな回答があるなか、10ポイントも低下したのはこの項目だけである。
結婚式は、もはや憧れの対象ではなくなってしまったのだ。
この価値観が広がった理由は2つある。1つはコロナ禍を経て結婚式をする意味が問われたこと。そしてもう1つはコストパフォーマンスを重視するZ世代にとって結婚式は割に合わないと感じることだ。
Z世代は90年代中盤以降に生まれた人たちを指し、ちょうど結婚適齢期を迎える世代である。現在ブライダル業界で、この世代にど真ん中のサービスを提供しているのが“格安結婚式”を謳った「スマ婚」だ。2024年度の施行件数は前年度比4.9%増加。2025年度上期は24.9%増えたのだ。
スマ婚は自社で会場を持たずにホテルやゲストハウス運営会社と提携し、結婚式をプロデュースするサービスだ。格安で提供しているために、新郎新婦の負担が少ない。
一般的な結婚式場で、結婚式を挙げた場合の平均単価は344万円ほどで、通常は200万円程度のご祝儀が見込まれる。よって、140万円前後が新郎新婦の持ち出しだ。しかし、スマ婚の「会場別見積例」によると、自己負担額50万から80万円程度で人気のホテルやゲストハウスで結婚式ができる。
スマ婚は融通が利きづらい部分もあるが、コストパフォーマンスは圧倒的にいいわけだ。コスパ至上主義のニーズを巧みに取り込むことに成功した。
じつはこの「スマ婚」、結婚相談所「パートナーエージェント」を運営するタメニー株式会社に買収されている。Z世代は恋愛が面倒だという価値観が浸透していることで知られているが、結婚したいと感じた30歳前後の人にとって、パートナー探しから結婚式場の手配までをしてくれる一気通貫型のサービスは最適なのだ。
全体の3割は赤字という窮地に立たされた運営会社
施行件数が減る結婚式場の多くは、急場を凌ぐように婚礼単価を引き上げている。業界最大手のテイクアンドギヴ・ニーズは2024年度の単価が2.3%増加して400万円を突破した。ツカダ・グローバルホールディングも2024年度は6.8%増えて同じく400万円を超えている。
婚礼単価はゲストの人数を増やして引き上げるのが王道だが、披露宴の少人数化がトレンドとなっている今、単価をアップし続けるのは難しい。帝国データバンクの調査によると、結婚式場の3割は赤字だという。結局のところ、コストアップ分を価格転嫁できない運営会社が大半なのだ。
さらに結婚式場は特殊な会場設計になっているため、施設を別の用途に転用することが難しい。駅から離れた郊外型の結婚式場も多く、企業宴会の獲得やレストラン営業も容易ではない。
つまり、結婚式場の建て替えを行なわないかぎり、ブライダルビジネスの十字架から逃れることはできないのだ。
2026年以降、結婚式場が進む道は3つに集約される可能性が高い。1つ目はこれまでの経営スタイルを貫く道。2つ目はスマ婚のように低価格、わかりやすさでコスパ重視のニーズを拾う道。3つ目は新郎新婦が思い描くオリジナルウエディングの実現へと徹底的に振り切って数から質への転換を図る道だ。
3つ目のオリジナルウエディングは、1987年以降に生まれた「ゆとり世代」が結婚適齢期を迎えた2010年代にトレンドの1つになった。この世代は個性を重視し、独創的なアイデアを持ち、異なる意見を尊重する一方、自分のビジョンやイメージを押し通そうとする姿勢が強いと言われている。
テイクアンドギヴ・ニーズは、新郎新婦の希望に完璧に沿った結婚式をプランニングする「オートクチュールデザイン」を2011年に立ち上げた。オリジナルウエディングを専門的に扱う株式会社CRAZYの設立が2012年である。しかし、このニーズの変化に適応できた会社はわずかだった。
新郎新婦からのヒアリングを通して結婚式のテーマを見出し、会場装飾のデザインやオリジナル料理をプランニングすることなど、ごく一部のプロフェッショナルしかなしえないからだ。
トキ消費を重視するアルファ世代を見据えた経営が必要
オリジナルウエディングはコスパ重視時代で鳴りを潜めたかに見えた。しかし、2026年以降に再び日の目を見ることになりそうだ。
テイクアンドギヴ・ニーズの運営する日本屈指のウエディングプロデュースチーム「オートクチュールデザイン」は2024年度の受注残が前年度比で50%近く伸びた。海外富裕層の顧客から、日本で行なう結婚式の問い合わせが急増。1組当たりの単価は1000万円を超えるという。
足元ではインバウンドという新たな需要が生まれているのだ。そして、Z世代の次にやってくるアルファ世代の消費動向も見逃せない。
アルファ世代は2010年以降に誕生した人たちで、コト消費よりもパーソナライズ化されたトキ消費への志向が強い。トキ消費はその瞬間を逃すと二度と手に入らない感動や体験を求めるものだ。結婚式という特別な儀式との相性が抜群の世代なのである。
そもそも、Z世代はコストパフォーマンスを重視するが、高額なサービスを嫌っているわけではなく、価格に見合う価値の提供を求めているだけともいえる。結婚式場はオリジナルウエディングのニーズを丁寧に拾って、数から質への方針転換が必要であり、ビジネスモデルそのものを変えていく必要があるだろう。
多くの結婚式場は、団塊の世代の次に人口が多い団塊ジュニア世代の結婚式に最適化した。
この世代は詰め込み教育の影響を色濃く残し、バブル崩壊や阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件など世紀末の激動の時代を経て自分探しを模索した世代でもある。90年代後半から市場を席捲したゲストハウスのプライベート空間は、自分らしさを表現する格好の舞台だったわけだ。そして、新郎新婦は非日常空間での結婚式の後、終わりなき日常へと足を踏み入れていたのである。
このゲストハウス型のビジネスモデルはプライベート空間を提供することに強みがあり、宴会場を高稼働させる原動力となった。いっぽうで、「プライベート+オリジナルウエディング」を求めたゆとり世代のニーズには多くの会社が最適化できなかった。高稼働させることが主目的になっていったからだ。
いっぽう、テイクアンドギヴ・ニーズのように、先駆者たちがまいた種が今、芽を出し始めている企業もある。
数から質への転換は労働力が減る日本の状況にも適しているだろう。投資回収が完了した結婚式場がフリーウエディングプランナーなどと提携し、会場貸しに徹するというのも、結婚式場の生き残り策の1つになるかもしれない。
取材・文/不破聡

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