いまや男女の出会いのツールとして定番化しつつあるマッチングアプリ。恋活や婚活、セカンドパートナー探しなどさまざまな目的別アプリがあり、特殊な目的では「同じ本を読んだ者同士」や「性癖が合う者同士」、「既婚者同士」なども。
まさか自分がそんなだまされ方をするなんて…
外資系企業に勤める独身女性の相田さん(仮名)は、大手広告代理店勤務の30代男性Aを相手に損害賠償を請求する裁判を起こし、昨年12月8日に勝訴した。
東京地裁はAに対し「既婚者であることを意図的に隠したのは貞操権の侵害にあたる」ことを認め、約150万円の賠償を命じた。だが相田さんは複雑な思いに悩まされている。
Aは相田さんに好意を寄せ“責任を持つ”と言って避妊をしなかったり、性感染症をうつすなど“非道”な行ないを繰り返したにもかかわらず、口頭弁論中に反省の弁を述べたり謝罪の言葉を口にすることはなかった。
相田さんは2023年初頭に「結婚前提とまではいかないけど、将来も考えて交際できる人と出会えれば」と独身者向けのマッチングアプリを始めたところ、同年5月に既婚者で2人の子どもを持ちながら“独身で彼女なし”と説明をするAと出会った。
そして、2023年5月から10月まで交際を続けていたが、旅行の約束を控えていた10月12日、Aの妻に相田さんとの不倫がバレたことで一方的に音信不通に。驚いた相田さんが同年11月から12月に探偵に調査依頼したことでAに妻子がいることが発覚した。
相田さんは弁護士間で任意交渉を求めるも、Aは謝罪もなく解決金20万円を提示し続け、2024年10月に訴訟提起した。
そもそも相田さんとAはどのように出会ったのか。
相田さんはプロフィールで「既婚者NG」「既婚者の都合の良い不倫相手にされるのが最も嫌い」と意思表示をし、Aにもその旨を再三確認していた。しかしAは「独身で彼女もいない」と説明し、相田さんの信頼を得るために嘘を重ねた。
「Aは朝から晩まで私を慕ってLINEしてきたり、Aが住む街から移動に2時間近くかかる私の自宅方面まで平日、休日問わず会いにきたりと、既婚者のような生活リズムではありませんでした。
それに私から仕向けたわけではないのに『家を買ったら一緒に住もう』とか『ウェディングドレス姿が見たい』『一緒に楽しく長生きしよう』などと将来を匂わすような話題も度々してきて、彼が既婚者だなんて微塵も思いませんでした」
Aの前職が「地方銀行員」だったことも相田さんがAに信頼を寄せる要因となった。
「私の両親も真面目で堅物の銀行員だったので、まさかAがそんな嘘をついてるとは思いませんでした。だから2023年10月12日の昼、いつもなら朝から来るLINEが来ず、私のメッセージが既読にならずブロックされていることに気づいた時は何が起きたかわからなかったし、Aの安否を心配しました。
その後の探偵調査で妻子がいるとわかった時は目の前が真っ暗になり、『まさか自分がそんなだまされ方をするなんて』と、膝から崩れ落ちそうでした」
「『将来のパートナーとして考えていたからこそ』受け入れたことでした」
その後、相田さんは適応障害を発症し、現在も心療内科に通院。同時に帯状疱疹を発症し数日間、激しい痛みに耐える日々が続いたという。
さらに外資系企業で働く相田さんの収入は成果報酬が占める割合が多く、Aの独身偽装が発覚以降、心身の不調により仕事のパフォーマンスが急落し、収入も激減した。
「妻子がいると判明した今、おぞましく感じるのはAの性欲が異様なほど強かったことです。責任を持つからと膣内射精されたり、性感染症をうつされただけでなく、一晩で10回以上も求められることがあり、性交痛を感じて出血したこともありました。ホテル滞在中のAからリモート勤務中にもかかわらず行為を求められたり、Aが仕事中に自らの自慰行為中の写真や動画をLINEで送られたこともあります」
Aのリモート勤務中の行為には相田さんも躊躇したが、Aの誘いを断りきれなかったのだという。また、今回の独身偽装の判決が記事に取り上げられるたびに心無い言葉を浴びせられると相田さんは話す。
「Aは私との性交渉の様子をLINEのノート機能に詳しく記していました。その数は200回以上にも及びましたが、判決のことが報じられると『騙された方が悪い』『そんな回数してたら体目当てだと気づくだろ』などの言葉を浴びせられ、深く傷つきました。
私は過去のパートナーとのセックスレスで悩んだこともあったことから、求められることへの嬉しさももちろんありました。でも、それはAが結婚には体の相性が大事だと言っていたことや、私も『将来のパートナーとして考えていたからこそ』受け入れたことでした」
Aには約150万円の賠償命令が下ったが、「まだ手ぬるい」と相田さんは肩を震わせる。
「Aの独身偽装が発覚してから2年以上経ちますが、仕事のパフォーマンスが戻ったかといえば完全ではありません。日常生活の中でふとAとの思い出がよぎって困惑することもあります。異様な回数にも及ぶ性行為を受け入れた自身を責め涙することさえも。
男性不信に陥り、もう二度と男性に対して結婚はおろか交際したいと思うことも、子どもがほしいと思うこともないと考えると、ひどい仕打ちをされたと思います。裁判でAから反省の弁もありませんでしたし、なにより謝らなかったことが許せません」
「ここ5、6年で独身偽装事件はかなり増えています」
なぜAは妻子がいながら独身向けのアプリを使い、相田さんに独身だと偽ったのか。マッチングアプリに詳しいライターの倉田達也氏はこう解説する。
「既婚者同士のマッチングアプリも存在しますが、基本的に男性の既婚者で出会いを求める方は“スレてない女性”を求めてスリルを味わう傾向にあり、“自分と同じ不倫目的の女性”には魅力を感じないことが多い。独身偽装の被害に遭うのはほとんどが女性で、男性が被害に遭ったというケースは聞いたことがありませんね」
独身偽装事件を多く扱い、男女間トラブルに詳しい弁護士の川面武氏は「独身偽装事件は裁判所が認定する慰謝料水準が非常に低額にとどまることが多いのが問題だ」と言う。
「日本では不貞相手のみを対象にした損害賠償請求事件の判決では遺憾ながら100万円を超える事件もザラですが、独身偽装事件は判決になると20万円から100万円程度のものが多いです。かなり被害者がひどい扱いを受けているケースも多いのに慰謝料水準が低過ぎるのは問題で、より被害に見合った判断がされるように認識が高まると良いと思います。
また、ここ5、6年でマッチングアプリによる独身偽装の相談件数は増えていると実感します。こうした事案については『既婚者◯◯』が『独身者◯◯』であるとあえて人格の同一性を偽ってプロフィール表示している点で文書偽造などの刑事罰の対象にすべきであると思います」
相田さんは最後にこう付け加えた。
「私はAが既婚者だと知っていたら会うこともなかったし、性交渉にも同意しませんでした。200回以上にも及んだAとの行為は性的搾取に他なりません。Aがホテルでリモート勤務する前に部屋を出ようとした私を引き止め、Aは取引相手の会社名やその取引内容を私に聞かせました。その会社名はもちろん誰もが知る大手企業で商談規模もかなり大きなもので、完全にコンプラ違反です。そんなAは社内で懲罰がくだることもなく、会社名や実名が出ることもなく、社会的制裁が一切加えられないことには疑問を感じます」
判決文にはこうある。
「被告は部屋でリモートワークを行いながら、陰茎を扱うなどした。また、被告は、同日、被告のリモート会議の予定時間になっても、原告との性行為を継続した」
今後、独身偽装は厳罰化されるのか――。
取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班

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