次にメジャーへ渡るのは誰だ? 佐藤輝明が“最大の注目株”とされる理由…MLBが野手に求めるのは守備力でも走塁力でもない
次にメジャーへ渡るのは誰だ? 佐藤輝明が“最大の注目株”とされる理由…MLBが野手に求めるのは守備力でも走塁力でもない

「盗塁で1点」か「ホームランで1点」か。勝ち方の発想が違えば、選手の“評価”も変わる。

日本では走攻守三拍子やユーティリティ性が高く評価される一方、MLBはなにより長打力。日本の社会人野球を見た米スカウトが驚いた、ある発言こそ、そのギャップを象徴している。

次なる渡米候補・佐藤輝明を軸に、日米の価値観の差をメジャーで日本人最長となる国際スカウト歴を持つ大屋博行さんがひもとく。新刊『メジャーで通用する選手の条件 スカウトは予言者であれ』より一部抜粋・再構成してお届けする。

今後メジャー移籍が予想される注目選手

近年は海外フリーエージェントだけではなく、ポスティングシステムを利用したメジャー移籍が増えてきました。

2025年のシーズンオフには、すでに本章で触れた村上選手(シカゴ・ホワイトソックスと契約)と岡本選手(トロント・ブルージェイズと契約)が、ピッチャーでは埼玉西武ライオンズの髙橋光成投手(西武に残留)と今井達也投手(ヒューストン・アストロズと契約)が、メジャー移籍を模索していました。

今後、バッターでメジャー移籍が予想される選手の中でも、最大の注目株は先にも触れた阪神タイガースの佐藤輝明選手が挙げられるでしょう。

将来的にはメジャーに挑戦したいという意向がニュースなどでも報道されている佐藤選手は、アメリカでも十分に通用するパワーヒッターで、2025年シーズンはインコースの対応も格段に良くなりました。

また、以前に比べて「ボールを長く見る」ことができるようになってきたと思います。手元までしっかり引きつけてボールを見極めることで、打率も四球数もデビューした2021年以降、年々向上しています。いまの状態で彼がポスティングを利用すれば、間違いなく激しい争奪戦になるはずです。

メジャーではホームランバッターが最も評価されます。ホームランを打てる選手であれば、三振数の多さや多少の弱点は問題にされません。

「自分のツボに来た球を確実にスタンドへ運べるか」が最大の評価基準になります。

日本では守備に優れ、内外野どこでも守れて足も速いユーティリティープレーヤーが高い評価を受けます。メジャーでもこうした選手は一定の需要がありますが、日本からわざわざ獲得する選手として考えたとき、守備と走塁だけではそこに高い価値が見出されることはありません。

日本から野手を獲得するにあたり、メジャーが重視するポイントを順に挙げるならば、打力(特に長打力)、守備力、走力の順になるでしょう。しつこいようですが、野手に求められるのはまず長打力です。その次に守備や走力が続きます。守備が多少粗くても、足がそれほど速くなくても、長打力があれば帳消しになる面があるのがメジャーの価値観です。

ドジャースの外野手であるテオスカー・ヘルナンデスが、その代表例かもしれません。彼は2025年のポストシーズンで、ライトの守備において初歩的なミスを何度か繰り返していました。でも、ホームランを打つ打力とチーム随一の勝負強さがあるため、そうしたミスも許容され、スタメンで起用されていました。

日米の野球の違いを表すエピソード

日本に来る助っ人外国人選手を思い浮かべれば、理解しやすいと思います。助っ人の野手は総じてバッティングに優れ、守備の名手というタイプはあまり多くありません。メジャーでも考え方は同じで、選手に求められるのはまず打力であり、守備力や走力は二の次、三の次という位置づけになります。



かつてのオジー・スミスのような守備のスペシャリストがメジャーで減ってきている理由は、野球の戦術や評価基準の変化にあります。現代のメジャーでは攻撃力がより重視され、打球速度や飛距離、ホームラン数などの指標が高く評価されるようになりました。チーム全体の得点力向上が最優先事項となっているため、守備力が高くてもバッティングに期待できない選手は出場機会を得にくくなっているのです。

日米の野球の違いを表すエピソードを、ひとつご紹介しましょう。アメリカ人スカウトが日本の社会人野球を視察すると、その多くが「なぜこんなに足の速い選手ばかり揃っているんだ」と驚きます。社会人野球では「走攻守三拍子揃った選手」が好まれ、スタメン9人のうち5~6人が「盗塁可能」というチームも珍しくありません。

2025年9月に沖縄で開催されたU18の世界大会を見ても、日本の選手は他国と比べ、高い走力を持っていました。これは日本の高校野球に根づく「負けたら終わり」の野球観が影響していると私は考えています。

勝つためには、ひとつでも先の塁を狙い、機動力を用いたスモールベースボールで1点を取りにいく必要があります。その流れが社会人野球やプロ野球にも影響し、走攻守三拍子揃った選手や守備力、走力に秀でたユーティリティープレーヤーが重宝されるのだと思います。

しかし、アメリカで勝負するとなると、この日本的な野球観は通用しません。アメリカでも勝利は求められますが、その1点を「盗塁で取る」のか「ホームランで取る」のかという違いがあります。


アメリカは後者を選ぶ文化です。従って、守備より打力、とくに長打力が求められます。シングルヒットを積み重ねる巧打ではなく、スタンドまで運ぶ圧倒的な打力が必要になるのです。

文/大屋博行

『メジャーで通用する選手の条件 スカウトは予言者であれ』(竹書房)

大屋博行
次にメジャーへ渡るのは誰だ? 佐藤輝明が“最大の注目株”とされる理由…MLBが野手に求めるのは守備力でも走塁力でもない
『メジャーで通用する選手の条件 スカウトは予言者であれ』(竹書房)
2026年2月20日1,870円(税込)224ページISBN: 978-4801948259

国際スカウト歴
日本人最長28年の眼力!

日本人が世界最高峰の舞台で
活躍するためには何が必要なのか?
現在過去にアメリカで結果を残している選手のほか、
日本で活躍中のプロ野球選手や高校球児たちの
具体的なポイントも示しながら、
メジャーを知り尽くした男が徹底解説!

著者は、以下のように述べています。

本書では、28年に及ぶ私のスカウト経験に基づいて、日米の野球文化や育成環境の違い、メジャーではどんなバッターやピッチャーが求められているのか、どんな選手が活躍できるのか等について、お話をしていきたいと思います。さらには過去から現在まで、「あの日本人選手はなぜメジャーで活躍できたのか?」という私見を、現役では大谷翔平選手やダルビッシュ有投手、今永昇太投手、菊池雄星投手、引退した選手では野茂英雄投手やイチロー選手、松井秀喜選手、松坂大輔投手などを例に挙げながら紐解いていきます。また、スカウトとしてピッチャーやバッターを見るポイントや、アメリカで伸びる選手と伸びない選手の違い、いまだから言えるメジャー移籍に関する裏話といった話題まで、長い経験から積み重ねた私なりの考えや分析を述べさせていただくつもりです――本文より

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