今年、芸能生活60周年を迎えたタレントのうつみ宮土理さん(83)。“ケロンパ”の相性で親しまれ、人気を博した。
「今でも子犬と高齢者と5歳前後までの子から人気」
キンケロ・シアターのエントランスは、白を基調とした開放的な空間だ。無駄なものが一切なく、シンプル――随所に設置された額縁のなかで愛川欽也さんの書が確かな温もりを放っていた。
ほどなくして、スポーティーな服装でこちらに向かってくる女性の姿を認めた。姿勢がよく、スレンダーで、スタスタと近づいてくる。「わざわざありがとうございます」。そう言うと彼女はお辞儀をした。うつみ宮土理さん、芸能生活60周年を迎える大ベテランだ。
お茶の間の人気者というイメージが強い彼女が芸能界の入口に立ったのは、まったくの偶然だった。もともと、うつみさんは実践女子大学を首席で卒業するほどの才媛。その後は朝日新聞社が発行していた『This is Japan』の編集者をしていた。
「以前から、文章を書く人に憧れていたんです。
たまたま欠員募集をしていた朝日新聞社に応募したら、400人くらい応募があったなかの最終選考3人に残りました。でも、同じ試験を受けた人のなかにジャーナリストの下村満子さんもいらっしゃって。
当時すでに海外経験も豊富でいらっしゃって、『自分なんか入れるわけない』と思っていたのですが、たまたま論説委員のなかに『頭のいい子ばかりで疲れたから、こういう子もいいんじゃない』と推してくれる人がいて。下村さんと同じく、私も身を置かせてもらえることになったんです」(うつみ宮土理さん、以下同)
当然、最初は下働きの日々。だが上司から命じられた取材先で、運命が大きく変わる。向かった先は、子ども向け番組『ロンパールーム』のオーディション会場だった。同番組は、アメリカ発の幼児向け番組を下敷きとして、1963年から1979年まで日本テレビ系列で放送され人気を呼んだ。
「会場では、若くて美人な方たちを集めて選考を行なっていました。『ロンパールーム』は5~6歳くらいの子どもたちと一緒に出演する番組だったので、その場には子どもたちもいました。
私はいつの間にか、子どもたちとおしゃべりに興じてしまったんです。『お姉さん、どうしたの?』『記事を書くんだよ』なんていって。
子どもが自然と懐き、引き寄せられる。「今でも子犬と高齢者と5歳前後までの子からは人気があるんです」と笑ううつみさんの魅力を、当時の番組スポンサーが見抜いた。
「どうやら、鶴の一声で2代目ロンパールーム先生役に決定したようです。ただ、そのニュースが翌日の新聞に載って、しかもその新聞を会社では私が配ることになったので、ちょっと恥ずかしかったですね」
美人に勝つために母から学んだこと
会社員から芸能人へ。上司からは「ここで政治・経済の下働きをするより、子どもに囲まれているほうが君らしい」と背中を押され、「ホッとして羽ばたけた」。『ロンパールーム』2代目先生を務めた1966年~1969年の3年間を、うつみさんは「いま振り返っても幸せ」と微笑む。
「無邪気で可愛いですよね、子どもは。収録中だけど何でも言うんですよ。たとえばミルクを飲むシーンでも、実際にはミルクがあんまり入っていなかったりすると平気で『少ねぇな』とか言う(笑)。でもそういうときは、『時間があまりないから、残りはおうちで飲んでね』ってちゃんと答えてあげると納得してくれます。やっぱり、頭ごなしに打ち消すのではなく、向き合うことですよね」
ケロンパの愛称で多くの子どもたちに親しまれた
柔和で言葉の端々に体温を感じられるうつみさんだが、海千山千の芸能界を生き抜くのは並大抵のことではない。ときに共演者から露骨な悪意を向けられることもあった。
「『巨泉・前武ゲバゲバ90分!』の収録開始10秒くらい前に、とある共演者から突然『ブス!』と罵られたんです。
その話を母にしたことがあるんです。すると母が、『悪口は本当のことしか言わないからね』と言うんですよ(笑)。思わず『じゃあどうすればいいのよ』って聞き返したら、『美人に勝つには、笑うことだよ』って。それ以降は、『ブス』と言われても『そうですかぁ』と言えるようになりました。
芸能界に限らず、一般社会でもそうだと思いますが、中途半端な人間ほど他人を虐げますね。当時、大きい部屋の楽屋を用意されていた朝丘雪路さんのような一流の方は、人間性も一流なのでそんなつまらないことはしませんでした」
83歳で感じる人生に必要なものとは?
心ない発言にも「そうですかぁ」と受け流す。このやり取りを見ていた一流司会者がいた。前田武彦さんだ。
「あるとき、前田さんに驚かれました。『君は偉いねぇ、あんなにいじめられてもケロッとしているね』って。
うつみさんを“ケロンパ”たらしめたのは、母親の言葉だろう。こんなエピソードもある。
「ある番組で、男性の先輩演者から『おう、うつみ、コーヒー買ってこい』なんて言われて。買ってきますよね。そうすると、それをほかの美人な共演者に渡すんですよ。しかも、こちらにはお金を返してくれないんです。
でも母が『悔しい、羨ましい、は勉強代になるから』と言っていたんですよね。私も雑な扱いをされることで、『自分は同じことを後輩にしてはいけない』と思えるようになったので、そのコーヒー代は勉強代ですね(笑)」
また、“ケロンパ”のマインドを維持できたのは、最期まで連れ添った夫・愛川欽也さんの存在も大きい。うつみさんにとって愛川さんは「常に前向きな言葉をかけてくれる人」。
2007年、うつみさんは韓国語の勉強に明け暮れ、韓ドラにも熱中した。ある番組のレギュラー出演中に3カ月間の韓国行きを申し出たが、番組スタッフからの反応は渋い。だが愛川さんだけは違ったという。
「相談したら、『偉いねぇ、まだ学びたいと思うなんて、本当に偉い』と言ってくれました。そのおかげで、私は韓国へ行くことができたんです」
うつみさんの“韓国好き”は一過性のものではない。むしろ年を重ねるごとに精力的になっているようにさえ感じる。つい2年ほど前にも、舞台を観るために韓国を訪問した。
「『ファントム』は圧巻でした。俳優のチョ・スンウに会うことができたのですが、メイクを落とすのに時間を要するため、仮面をつけての対面で……。横から素顔がちらっとでも見えないかな、なんて思ったのですが(笑)」
取材の最初にみた、いくつになっても快活で好奇心を突き詰められる健康的なうつみさんの笑顔がそこにあった。
うつみさんが挙げる、人生で“良かったこと”――大きな出来事として3つ。芸能人になれたこと、健康でいられたこと、そして愛川欽也さんと結婚できたこと。
取材・文/黒島暁生 撮影/杉山慶伍

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