「台湾有事=日本有事」の本当の意味…原油ストップ、半導体消滅、GDP10%消失の“最悪シナリオ”
「台湾有事=日本有事」の本当の意味…原油ストップ、半導体消滅、GDP10%消失の“最悪シナリオ”

高市早苗首相による「台湾有事」の発言をきっかけに、緊張状態が続く日本と中国。実際、台湾有事が起こる可能性はどれくらいあるのか。

もし起こった場合にはどうなるのか。登録者数100万人を超える人気のYouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」を運営するすあし社長に解説してもらう。

 

※本稿は、すあし社長『この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 また、本書は2025年12月時点の日本経済、世界情勢に基づいた内容です。

台湾有事が「他人事」ではない、地政学的な理由

「台湾有事は日本有事である」。

故・安倍晋三元首相(1954年―22年)が発したこの言葉は、日本の安全保障政策の根幹を成す基本方針になりました。

安倍元首相は21年12月、台湾のシンクタンク主催の講演において、「台湾への武力侵攻は日本の国土に対する重大な危険を引き起こす」と明言し、さらに「台湾有事は日本有事、すなわち日米同盟の有事でもある」と断言しました。

この認識を北京、とりわけ習近平国家主席に対しては「断じて見誤るべきではない」と強く牽制したのです。この発言の背景には、中国指導部による「相手の出方を読み違えること」への強い懸念があります。

安倍元首相はどのような意図を含んだ発言だったのでしょうか。

もし中国が「台湾に侵攻しても日本は介入しない。アメリカも及び腰になるだろう」と誤認すれば、無謀な軍事行動に出る可能性が高まります。そのため安倍元首相は「軍事的冒険は経済的自殺への道である」と警告することで、抑止力を最大限に高めようとしました。



また、台湾が自由と民主主義の価値を共有するパートナーであり、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定やWHO(世界保健機関)への参加を支持すべき対象であると述べることで、台湾の国際的孤立を防ぐ意図も示されたのです。

中国の太平洋進出を塞ぐ「蓋」となる台湾

では、なぜ台湾の運命が日本の国土への危険と直結するのでしょうか。その物理的な理由は、地図を見れば明らかです。

日本はエネルギー資源(原油・LNG)のほぼ全量を輸入に依存しており、輸送ルート、いわゆる「シーレーン」は台湾周辺海域に集中しているのです。

台湾有事が発生すれば、これらの海域は直ちに戦闘区域になり、商船の航行は不可能になります。輸送船がインドネシアのロンボク海峡などを経由して太平洋側を大きく迂回する場合、輸送コストの激増と輸送量の激減により、日本の経済活動は数週間で窒息状態に陥ります。

すなわち、台湾の喪失は日本の「経済的生命線」が他国の意志によっていつでも切断され得る状態、言い換えれば生殺与奪の権を握られる状態を意味するのです。

さらに、もし、台湾が中国に併合されれば、中国海軍は太平洋への直接的な出口を手に入れ、日本のシーレーンを完全に掌握することが可能になります。台湾は、いわば中国の太平洋進出を塞ぐ「蓋」のような存在なのです。

中国が台湾統一を急ぐ理由は、単なる「中華民族の偉大な復興」という政治的スローガンだけではありません。そこには、米軍に対抗するための軍事合理性が存在します。
最大の狙いは、「聖域」の確保です。

中国はアメリカ本土を攻撃可能な弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)を持っていますが、現在の拠点である浅い海(黄海や東シナ海)では、高い対潜能力を持つ日米の哨戒(しょうかい)網に捕捉されやすく、太平洋に出る前に封じ込められてしまいます。



しかし、台湾の東側(太平洋側)は、海岸からすぐに水深数千メートルの深海が広がっています。もし台湾を手中に収めれば、中国の原潜は誰にも探知されることなく深海へ潜り、太平洋のどこからでもアメリカ本土を狙えるようになります。

これにより、中国はアメリカに対して「もし中国を攻撃すれば、確実にアメリカ本土も核報復を受ける」という恐怖を突きつけ、アメリカの介入を躊躇させることができるのです。
つまり、中国にとって台湾を獲ることは、アメリカと対等な核超大国になるための最終条件なのです。だからこそ、習近平政権はリスクを冒してでも、この「蓋」をこじ開けようとしているのです。

GDPの約10%の損失が発生する恐れも

台湾有事が起こったさい、経済的な衝撃も計り知れません。

米インド太平洋軍で情報司令官を務めたマイケル・スチュードマン退役少将は2024年10月、「中国が台湾を物理的に占領できると判断すれば、(日本は)10兆ドル(約1520兆円)の富が失われる」と述べています。これは世界44の国内総生産(GDP)の約10%に相当する規模です。

また、財務省も経済的影響について言及しています(広報誌『ファイナンス2025年1月号』)。全面的侵攻・戦争が発生した場合、台湾はGDPの40%減、中国は16.7%減、日本は11.5%減、アメリカは6.7%減という試算を紹介しています。台湾海峡封鎖の場合でも、台湾は12.2%減の損失が見込まれるとされています。

野村総合研究所は22年8月、台湾有事によって日本と台湾との貿易が途絶した場合の試算を公表しています。

日本から台湾向けの輸出が停止すれば、日本の名目GDPは直接効果だけで0.90%押し下げられます。

さらに、台湾からの半導体輸入が停止し、高性能半導体を用いる8分野(自動車部品、ゲーム機、パソコン、携帯電話、家電、液晶パネル、医療用機器、ロボット)の生産が33%減少し、日本の名目GDPは0.48%押し下げられます。

これらを合計すると、GDP押し下げ効果は年間1.38%となり、さらに、10%の円高進行を加味すると、日本のGDPは1.84%減少すると試算されています。

これはリーマンショック級の衝撃に匹敵し、日本経済の構造そのものを破壊しかねない数値です。日本の潜在成長率が0%台前半から半ば程度であることを踏まえると、この打撃は日本経済を一気に景気後退に陥れるのに十分な規模です。

さらに、台湾有事が中国との貿易にも悪影響を与え、また、米中間で経済制裁の応酬がなされるような場合には、日本もその影響を大きく受ける可能性が高くなります。
貿易総額の約20%を占める中国との間の貿易が大きく縮小すれば、日本経済に破壊的な打撃を与えることになるでしょう。

ミサイルだけでなく「法の隙間」を突いた攻撃も

地理的な距離感もまた、日本が「他人事」でいられない決定的要因です。

日本の最西端である与那国島から台湾までの距離はわずか約110㎞にすぎません(東京から高崎までが約100㎞)。現代のミサイル戦や航空戦において、この距離は侵攻可能の範囲です。中国が台湾への着上陸侵攻や海上封鎖を行う場合、台湾周辺の海空域における優勢確保(航空優勢・海上優勢)が必須となります。

その作戦範囲は必然的に日本の排他的経済水域(EEZ)や領空と重なり、自衛隊の活動領域や米軍基地(嘉手納、佐世保など)が攻撃対象になる可能性も高いのです。

しかし、私たちが警戒すべきは、ミサイルが飛んでくるような「有事」だけではありません。より現実的で厄介なのが、平時と有事の境目が曖昧な「グレーゾーン事態」です。



例えば、武装した漁民(海上民兵)が「避難」を名目に尖閣諸島や与那国島に上陸したり、海底ケーブルが「事故」に見せかけて切断され、通信や金融インフラが麻痺したりする事態です。これらは国際法上の「武力攻撃」と即座に認定されにくいため、自衛隊は防衛出動ができず、警察権(海上保安庁・警察)のみでの対応を強いられます。

相手はこの「法の隙間」を突き、戦わずして日本の社会機能を麻痺させる「ハイブリッド戦」を仕掛けてくる可能性が高いのです。

戦域が日本の領土・領海を含み、さらに社会インフラまでもが標的になる以上、日本が中立を保つことは軍事地政学的にも、現代戦の性質上的にも、極めて困難です。法的な手続きを経るか否かに関わらず、日本は構造的・物理的に紛争の当事者として巻き込まれざるを得ない立場にあります。

台湾有事はすぐそこまで迫っている

では、台湾有事が仮に起こった場合、果たして戦争になり得るのでしょうか。日本国際問題研究所(JIIA)が実施したシミュレーションは、外交交渉の限界と軍事的エスカレーションの冷徹なシナリオを提示しています。

紛争勃発後の外交交渉は極めて難航し、中国側が提示する停戦条件は、日本とアメリカにとって到底受け入れ難いものになります。

第1回交渉では、中国は停戦の条件として「台湾問題への不介入」を要求。その一方、日米へは「海上封鎖の解除」と「損害の補償」を求めますが、双方の主張は平行線をたどり、交渉は決裂します。

戦況が進むにつれ、中国側の要求はより強硬になります。シミュレーションでは、中国は「台湾、および周辺海域からの米軍部隊の無条件かつ一方的な撤退」を要求し、さらに日米に対して「台湾に中国の全面的な主権が及ぶことを承認」するよう迫ります。

これは実質的に南西諸島(沖縄県)周辺からの自衛隊および在日米軍の排除を意味し、日本の主権放棄に等しいものです。



したがって日本は外交的妥協の余地を失い、軍事的対応を強化せざるを得なくなります。日米の対応としては、東シナ海、および台湾東部海域での海上優勢の確保が最優先課題になります。これは、南西諸島の防衛とともに、米軍が台湾へアクセスするためのルートを確保し、台湾軍への補給や米軍部隊の展開を支援するためです。

さらに、日米側の対抗措置として、停戦を受け入れなければ「台湾を国家として承認する」という政治的なカードを切るシナリオも想定されています。

これは中国にとって最大のレッドライン(譲れない一線)であり、紛争が全面戦争へと拡大するトリガーになり得ます。

このシミュレーションが示すのは、一度紛争が始まれば、「局地的な衝突」で収束させることは極めて困難であり、日米中を巻き込んだ総力戦の力学が働くという現実です。
台湾有事は、日本にとって単なる外交問題ではなく、国家の存立そのものに関わる構造的な危機なのです。

そして、23年2月に米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は「(中国の習近平国家主席が)27年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」という見方を示しました。台湾有事が遠い先の話ではないことがよくわかります。

文/すあし社長 写真/shutterstock

この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図

すあし社長
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この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図
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【目次】
序章 失われた30年の清算
1章 〈経済〉 好景気な不景気は、いつまで続くのか
─なぜ、日本は、海外から「安く」買われるのか
─なぜ、日銀は「金利」を上げられないのか
─なぜ、「株価」と「不動産」だけが上がるのか
─なぜ、「給料」が上がらないのか

2章 〈軍事・防衛〉 ――果たして、戦争に向かっているのか
─なぜ、「台湾有事」は、「日本有事」なのか
─なぜ、防衛費を倍増したの
─なぜ、防衛DXが最重要課題なのか
─なぜ、日本の「自主防衛」は進まないのか

3章 〈貿易・産業〉 ――「日本製」という強みは、今
─なぜ、「グローバル・サウス」に、世界の焦点が当たるの
─なぜ、製造業に復活の兆しがあるのか
─なぜ、日本は「モノづくり」で勝てなくなったの
─なぜ、日本の「食料自給率」は低いままなのか
─なぜ、「アニメ・ゲーム」「インバウンド」に可能性があるのか

4章 〈人口動態・社会〉 ――スクラップ・アンド・ビルドを実現できるか
─なぜ、「少子化対策」が不発なのか
─なぜ、「高度成長の遺産」が、リスクになったのか
─なぜ、「人」に投資できないの
─なぜ、経済大国なのに「幸福度」が低いの

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