かつて阪神ファンにとって“屈辱の数字”だった「334」。ところが今では、それをあえてネタにして笑い合う文化が根づいています。
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』(集英社)より一部・抜粋再構成してお届けする。
阪神ファンに伝わる「334」
突然ですが、皆さんは「334」という数字を見て、思わずクスッと笑ってしまいますか? それとも「なんのこと?」と首をかしげますか?
笑った皆さんは、ほぼ間違いなく「阪神ファン」か、かなりツウの野球ファンでしょう。なぜならこの数字は、阪神ファン自身、あるいは「野球界隈(野球好き)」の人々が、タイガースを茶化す際に「お約束」のようによく使うからです。
きっかけは05年、千葉ロッテマリーンズと対戦した「日本シリーズ」。タイガースにとって悲願の「20年ぶり日本一」がかかっていましたが、初戦は「10対1」の濃霧コールド負け。続く第2戦、第3戦も「10対0」「10対1」とあり得ないスコアで大敗しました。
最終戦こそ「3対2」と1点を争う好ゲームでしたが、終わってみれば合計スコアは「33対4」(4連敗)と、プロ野球史上に残る惨敗ぶりを記録したのです。
その後、10年にもマリーンズは日本シリーズに進出。阪神はというと、14年の和田豊監督時に、リーグ2位からCS(クライマックスシリーズ)を突破するまで進出できませんでした。
すると、テレビ番組などでくり返し、05年のシリーズを振り返る映像が流され、ネット上には阪神ファンを茶化す「334(33対4)」ネタが溢あふれかえりました。そこで、古傷をえぐられた阪神ファン(と思しき誰か)がネット上で放ったひと言が、「なんでや! 阪神関係ないやろ!」。
以来、阪神ファンや野球ファンの一部は、「334円」や「3時34分」など「334」という数字を見ただけで、「なんでや! 阪神関係ないやろ!」とセットで切り返すのが通例になりました。要するに、かつて古傷だったはずの「334」が、その後、阪神ファンのあいだで「笑い(冗談)」へと転換されたのです。
少し真面目に語ってしまいますが、人は、逆境や困難な状況が発生した際に、意図的に気持ちがなごむような言動をしたり、状況を「笑い」に換えたりすることで、ストレスを減らそうとする傾向があります。
これが、ユーモアコーピング(コーピング=ストレス軽減などへの対処)と呼ばれるもの。とくに支援的ユーモアと呼ばれる概念が、様々な効果をもたらすことがわかっているのです。
「あかん阪神優勝してまう」
支援的ユーモアの目的は、自身が直面したピンチや嫌な出来事などを、あえて「笑い」に転換することで、自分や他者(友人など)を励ますこと。実際にもこうした行為によって、直面した問題・課題が軽くポジティブに思えてきたり、不安や抑うつが低減されたりすることが判明しています。
また場合によると、血圧や痛みの改善など、身体的健康にも寄与する可能性がある、とのこと(Martin, R. A.,(2001),“Humor ,laughter, and physical health” ,Psychological Bulletin,127(4),pp.504–519 ほか)。
そして近年では、そのことが「主観的幸福感(ウェルビーイング)」を高める可能性が、数多くの研究で指摘されているのです。
まさに、先ほどの「334」「なんでや! 阪神関係ないやろ!」が、その一例でしょう。そのほか、21年に登場した「あかん阪神優勝してまう(してしまう)」も、タイガースが好調で「優勝するかもしれない(でもダメかもしれない)」など、阪神ファンが葛藤する際に使われる支援的ユーモア。
同じく21年、途中まで首位をキープしていたタイガースの好成績に乗じて、大阪のテレビ局(朝日放送)が「あかん~」と題した関西ローカルの応援番組を放送すると、直後からタイガースの成績は急降下、結局は2位に終わりました。
以来、ファンは「今年は優勝できる? できない?」など、自身の内面に心の乱れ(ざわつき)やストレスが生じた際、「あかん阪神優勝してまう」「それ、禁句(またしても優勝できない)やで」など、ファン同士のやり取りでユーモアに換えることで、自分たちを落ち着かせているのです。
こうした言動は、職場でもある程度有効です。複数の研究でも、メンバー間のコミュニケーションを促進したり、社会的距離を縮めたり、さらには業務パフォーマンスの向上にも有効だとする結果が示されています(Holmes, J.,(2006), Sharing a laugh ,Journal of Pragmatics,38, pp.26-50 ほか)。
皆さんも仕事などで「ちょっとした失敗」、たとえば会社の業績を著しく悪化させるような深刻なミスでなく、「やっちゃった」「次から気をつけます」程度の失敗をした際はぜひ、単純なダジャレでもいいので、自身や仲間を励ますユーモアコーピングを活用してみませんか?
文/牛窪恵
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
牛窪恵
【野球でなく「幸せ」に関する本です!】
★「おひとりさま」「草食系」など数々の流行語を世に広め、「ホンマでっか!?TV」ほかテレビのコメンテーターでもおなじみのマーケッター・牛窪恵さん。大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。
★みずからも熱狂的な阪神ファンで、毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係。本書を読むことで、阪神ファン自身も気づいていない「幸福感」に繋がるヒントが、数多く得られるはずです。
★本書ではそうした実践的ヒントを、著名なマーケティング理論や女性ファン(TORACO)約3000人への調査・取材を通して独自分析し、わかりやすく展開します。
【効果と法則はこんなこと!】
■報酬の予測誤差=「ダメな子ほど可愛い」が喜びをもたらす
■プラシーボ効果=前向きな「思い込み」こそが幸運を呼ぶ
■ファンベース効果=「熱狂」こそが幸福度を高める
■サンクコスト効果=「今後も私(僕)がいなきゃ」が愛着を生む
■幸せの損益分岐点=「小さな幸せ」の積み重ねが、幸福度を高める
■PERMAモデル=「没頭」こそが、幸福持続の源泉に

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