“行きたくない場所”だったアフリカへ…先入観を謝罪しに渡航した女性が、ルワンダで牛糞アートに人生を変えられた理由
“行きたくない場所”だったアフリカへ…先入観を謝罪しに渡航した女性が、ルワンダで牛糞アートに人生を変えられた理由

「アフリカは貧しくて危険な場所」――そんな先入観を抱いていた女性が、大学時代に先輩の一言をきっかけに価値観を覆された。自らの偏見を“謝罪するため”に訪れたケニア、そして移住先のルワンダで出会ったのは、牛糞を使って描く伝統アート「イミゴンゴ」。

その不思議な魅力に取り憑かれた彼女は、いまや現地で調査や発信を行うまでになった。先入観が崩れた瞬間と、人生を変えた“出会い”の全貌を聞いた。『世界へ飛び出た100人の日本人』(集英社インターナショナル)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

アフリカへのステレオタイプ

プロフィール
ルワンダ〈2017年から居住〉
伝統アート調査 masakoさん
女性、青森県→キガリ

――アフリカには昔から関心があったのでしょうか?

いえ、むしろ逆です。大学に入るまでは、アフリカに対しては「貧しい」「争いをしている」といった先入観を抱いていて、いま考えたら本当に恥ずかしいのですが「ああいうところには行きたくない」なんて平気で口にしていたんです。

――なんと……! 先入観が変わったきっかけとは?

ある日、そんな私を見て、大学の先輩が「おまえはアフリカに行ったことはあるのか? 行ったこともないのにそういうことを言わないほうがいい」と怒ってくれたんです。しかもその場で「いまのままじゃダメだから、来週からこの授業に出ろ」と、現代アフリカについての授業を勧められたんです。

――素晴らしい先輩ですね。授業はどうでした?

ニュースでよく見る紛争や貧困だけではなく、文化や経済、国々の発展など、活気あるアフリカの姿を見せてくれました。そして、知りもしない場所についてあんなに悪く言っていた自分が本当に恥ずかしくなり、「自分勝手だとわかってはいるけれど、謝罪の気持ちを表したい」と、翌年にケニアを訪れました。

先入観を謝罪しにアフリカへ

――律儀……! 実際に行ってみていかがでしたか?

もともと抱いていたネガティブな面と、授業などを通して知ったポジティブな面の両方が混在していることを肌で感じました。「行かなければわからないことが多い」ということを教えてくれた気がします。あと不思議ですが、「好きになった」とか「絶対またここに来る!」というものとはまた違う、「いつか住むことになりそうだな」という感覚を抱いたんですよね。

――大学卒業後はどうされたんですか?

機会があればアフリカに住んでみたいと思っていたので、海外勤務の可能性がありそうな国際チェーンのホテルに就職しました。

でも、アジア内での異動はあるものの、アフリカへの異動は難しいことがわかり……。さてどうしようかなと思っていたところ、夫が勤務先のルワンダ支社に異動することになり、それについていく形でアフリカに住むことになったんです。

――不思議な流れですね。当時、ルワンダの印象は?

最初は場所すら知りませんでした。地図を見て「ケニアの隣なら文化とかいろいろ似てるかも」と思った程度です(笑)。

牛糞のアート「イミゴンゴ」に魅せられて

――現在は、ルワンダの伝統アート「イミゴンゴ」の調査や紹介をされているとのことですが、そもそもイミゴンゴとは?

イミゴンゴは200年以上続く王家発祥の牛糞を使ったアートで、ルワンダでは非常にポピュラーです。子牛の糞と灰を混ぜ、それを木の板に指でのせながら幾何学模様を描きます。

このイミゴンゴの柄をルワンダの空港で初めて見たとき、吸い込まれるように惹かれたんです。でも、惹かれ過ぎて逆に怖くなってしまって、その後1年半ほどは作品をまともに見られませんでした。推し活と同じで、「尊過ぎて近づけない!」みたいな(笑)。

それでも頭から離れず、夢にまで出てくる始末だったので、「さすがにちゃんと向き合おう」とイミゴンゴについて調べはじめたのですが、書き言葉で残された資料がなかなか見つからず、情報が少なくて……。それならとイミゴンゴの発祥地と呼ばれる場所で、昔のことを知っていそうなご高齢の方を訪ねて調べていくという活動に変わっていきました。

――どんなことを調べたのでしょうか?

たとえば、イミゴンゴのたくさんある模様にはどんな意味合いがあるのか。

実際に「この模様は何と呼ばれているの? どんな意味?」と聞いて回りました。でも、そこでわかったのは、人によって模様の名前も意味の解釈も違うということ。発祥地ですら一つの模様に複数の名前と意味がある。そんな状態で200年も続いてきたアートだったんです。

――おもしろいですね! ちなみに、どうして牛糞が画材に?

諸説ありますが、一つはルワンダでは牛は豊かさの象徴で、牛から取れるものはすべて恵みだからという説。あと、昔から牛糞が壁の修繕などに使われてきたことも関係あるかもしれません。

ただただ波に乗るような生き方

――ルワンダ生活で驚いたことはありますか?

ルワンダは紅茶の輸出が盛んで、私もよく飲むんですが、ある日に現地の友人を家に招いてストレートティーを出したところ、「あなたの家は貧しいの?」と真顔で聞かれました(笑)。

じつはルワンダでは紅茶はミルクを入れるのが基本。牛は豊かさの象徴なので、牛乳を入れることで「お客をきちんともてなしている」ことになるんです。逆に、ストレートティーには「貧乏人の紅茶」というニックネームがついてます。つまり「ミルクを入れられないほど貧しい」というニュアンスになるんです。

――なるほど……予想外なトラップですね(笑)。今後のご予定などはありますか?

自分でなにかを決めるというより、ただそこに来た波に乗る感覚で生きています。

移住して1年ほどで、長期的な目標を立てるのをやめました。代わりに波が来たらすぐ乗れるように心構えをしているという感じでしょうか。今後、日本に戻るかもしれないし、別の国に行くことになるかもしれないし、ルワンダに残るかもしれない。そのときの流れ次第ですね。

文/おか けいじゅん
写真提供/masakoさん

『世界へ飛び出た100人の日本人』(集英社インターナショナル)

おか けいじゅん
“行きたくない場所”だったアフリカへ…先入観を謝罪しに渡航した女性が、ルワンダで牛糞アートに人生を変えられた理由
『世界へ飛び出た100人の日本人』(集英社インターナショナル)
2026/4/62200円(税込)320ページISBN: 978-4797674798世界で生きる日本人100名にインタビュー! アメリカで活動中のゆりやんレトリィバァさん大推薦! 「たった一度の人生、飛び出しちゃえばいい! 世界より未来の方が広い!! レッツゴー!!!」 北欧の建築家、インドの映画監督、小泉八雲の子孫、メキシコでバズった無職、パリのタトゥーアーティスト、ガーナのからあげ屋さん、コールドプレイと共演する人形劇作家、電子国家のエンジニア、ゴミを拾うウルトラマン、日本文学を広める編集者、カリブのDJ、内戦下の日本語教師、東南アジアで売れたお笑い芸人、東欧の空手家、牛糞アートの伝道者、アマゾンの雑貨屋さん、ナポリのスーツ職人、オーストラリアの三味線奏者、シングルマザーを支える社会起業家、南米のタンゴダンサー、ギリシャの料理研究家、etc……百様百様! 笑いあり涙ありの海外生活のリアル!
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