「教員不足、ここまで来たか」免許なしで合格→後から取得、さいたま市“異例採用”に賛否噴出…「現場ではすでに最悪の事態が」と専門家は指摘
「教員不足、ここまで来たか」免許なしで合格→後から取得、さいたま市“異例採用”に賛否噴出…「現場ではすでに最悪の事態が」と専門家は指摘

各地で次年度の教員採用選考の実施要綱が発表される中、埼玉県さいたま市の選考が話題となっている。同市が新設した「小学校教員プレ・ライセンス特別選考」は、教員普通免許状を未所有でも受験が可能というもので、民間企業等で通算3年以上の勤務経験を有する人が対象だ。

これに対し、SNSなどには懸念の声もあがっている。同市の担当者に話を聞くとともに、専門家の見解を聞いた。

全国的な教員のなり手不足に「危機感を覚える部分もあります」

さいたま市の学校教員採用選考試験で新たに導入された「小学校教員プレ・ライセンス特別選考」。

小学校教員普通免許状を取得していない志願者が、選考合格後に定められた期間内に免許状を取得することを前提として受験できる選考だ。民間企業や官公庁等で通算3年以上の勤務経験を有する人が対象となる。

この選考をめぐり、SNSには「教員不足の深刻さがここまで来たのか」「社会人経験者のほうが視野が広くて生徒にとっていいかも」など、さまざまな声があがっている。

制度新設の背景について、さいたま市教育委員会教職員人事課は次のように説明する。

「小学校教員プレ・ライセンス特別選考は、その免許状取得までの猶予期間を設けるというもので、免許状を取得していただいた後に教壇に立てるという形になります。

今、全国的に社会人登用が重要視されている中で、社会人経験者のスキルや多様な経験を教育現場で生かしてほしいと考え、社会人を経験されている方を広く登用して、教育に携わっていただきたいというところからこの選考を新設しました」

全国的に教員不足が深刻化している状況も影響しているのか。

「さいたま市に関しては倍率的には全国を上回っている状況もあります。ただ、全国的には教員のなり手が不足していますので、広い視野で見て先を見越していくと、やはり危機感を覚える部分もあります」

「小学校教員プレ・ライセンス特別選考」は、選考合格後に免許状を取得することを前提としているが、同担当者によれば通信制の大学で教職に必要な単位のみを取得するなどの形を想定しているという。

「(選考に合格した人が)お仕事をしながら免許状を取得することが前提条件になるため、免許状取得に関して合格者の方の相談なども受けられたらと考えています」

なお、免許状取得には期限があり、令和8年度実施分については、令和11年の3月31日までに取得できなかった場合は採用候補者名簿に登載しないという。

同市ではほかにも「ティーチャー・リターン選考」を新設。

過去にさいたま市で5年以上継続して教職に就き、なおかつ退職後5年を経過していない人を対象に、再度教員として登用することを目的とした選考だという。

「各自治体が危機感を持ってありとあらゆる手段を尽くしています」

賛否両論のさいたま市の教員採用選考について、名古屋大学の内田良教授は次のように話す。

「教員志願者が減っていく中で、思いつく手段はすべてと言っていいほど、次々に緩和策が取られているという印象です。

学部3年生で教員採用の一次選考を受験可能にしたり、普通免許状を持たない人に特別免許状や臨時免許状を授与したりするなど、同様の取り組みは各地で行なわれています。

また、文部科学省は教員採用試験の前倒しも進めています。従来は全国的に7月に実施されていましたが、これを5月に前倒しするよう方針を打ち出しました。人材が民間企業に流れる前に確保したいという意図があります。

ほかにも、秋や冬に選考を実施して追加募集を行なうケースもあります。各自治体が危機感を持ってありとあらゆる手段を尽くしています」

こうした動きに対する懸念として、内田教授は次のように話す。

「そもそも教員採用選考の倍率が1~2倍の自治体は多く、小学校では『受ければ採用される』というような状況です。

また、1年目での離職者も非常に増えていますし、そもそも教科の学力が十分でなかったり、コミュニケーションに課題を抱えたりする人たちが教員採用選考に合格しているという話も聞こえてきています。

こうした中で要件緩和が進むことで、質の保証は大丈夫なのかという懸念があります」

内田教授は「現場ではすでに最悪の事態が起きている」と指摘する。

「なぜこのようなことが起きているかというと、その前提として『教壇に教員がいない』という最悪の事態が起きているからです。

義務教育が提供できないというのは、教育現場の崩壊を意味します。義務教育を維持するために、現場はギリギリの対応を続けているという状況ではないでしょうか」

内田教授が指摘する「二つの課題」とは

教員の志願者を増やし、離職者を減らしていくために重要な課題として、内田教授は「長時間労働の削減」と「保護者対応」を挙げる。

「部活動の指導では土日が潰れることも多く、それを前提とした働き方は問題があります。17時に帰れて、家庭で子どもと過ごす時間も確保できれば、本当に魅力的な仕事になります。

今、現場の先生たちはよく『やりがい』を強調しますが、いっぽうでそれは長時間労働を隠すかのような説明にも聞こえます。そのやりがいが17時までに得られれば素敵だと思いませんか?というのが私の問いなんです」

また「保護者対応」については、特に若手教員に大きな負担をもたらしているという。

「かつては教員という存在は良くも悪くも権威がありました。それが低下した今、若い教員が自分よりも年上の保護者に対応する難しさもあります。

そういう中で、保護者はさまざまな無理を言ってくるケースがあります。

たとえば『スマホの扱い方を子どもに教えてほしい』『ゲームの課金トラブルを起こした子どもに指導してほしい』などと保護者が要求してくるという話は当たり前のように聞きます。

しかし、本来それは家庭の役割です。こうした状況は、もはや学校への『依存』です」

内田教授は、保護者と教員の間には溝があり、お互いの理解を深めることが重要だと指摘する。

「保護者と教員は近いところにいるようで、実はお互いに何も知らないまま、距離感がある状態です。

そうした中で今、PTAが教員の働き方を知ろうとする動きがあります。このような取り組みが現実的な課題解決につながることを期待したいと考えています」

教員の長時間労働の削減と保護者対応の改善の二つが進めば、職場環境の改善と、志願者の増加につながる可能性がある。

「実際、この1~2年で学校から部活がなくなるという自治体がいくつかあります。たとえば神戸市も今年の夏、公立中学校の部活動は完全に終了する予定です。

その話を聞いた教員志望の学生が、受験先に神戸市を選ぶというような動きもあると聞きます。人材が限られている中で、真っ先に取り組まなければならないのは職場環境の改善です」

義務教育制度を守るために各自治体が動きを加速させる中、現場の課題をどのように解決していくのか。さらなる議論と迅速な取り組みが求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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