「子どもたちの居場所は学校しかないの?」学校での朝食提供に広がる波紋…共働き世帯1200万超時代“朝ごはん危機”の現実と学校の限界
「子どもたちの居場所は学校しかないの?」学校での朝食提供に広がる波紋…共働き世帯1200万超時代“朝ごはん危機”の現実と学校の限界

新年度が始まり、多くの人が新たな生活をスタートさせた。なかでも子育て世帯にとっては、慌ただしい日々の幕開けでもある。

そうした中、いま「学校での朝食提供」という取り組みが少しずつ広がりを見せている。

 

しかし、この動きに対して保護者からは「学校がそこまで担う必要があるのか」といった声も上がる。一方で、一定割合の児童生徒が朝食を欠食しているのが実情だ。現場では何が起きているのか。自治体や民間団体に話を聞いた。

「学校での朝食提供」に対してSNSでは賛否両論

4月2日、学校での朝食提供の動きが広がっているという報道に対してSNSには次のような声が上がった。

「子どもたちの居場所は学校しかないの?」
「根本的な原因は柔軟に働けない日本の企業体質なのに」
「仕事をセーブできる環境作りが必要」

こうした議論の背景には、共働き世帯の増加や子どもの朝食欠食の問題がある。

厚生労働省の資料によれば共働き世帯数は増加を続け、2022年に1262万世帯にのぼった。

また、農林水産省の令和4年度(2022年)食育推進施策によれば、「朝食を毎日食べている」かの質問に小学6年生で5.6%、中学3年生で8.1%が「あまりしてない」「全くしてない」と回答している。

こうした状況のもと、学校での朝食提供に取り組む自治体は少なくない。

東京都足立区では、教育委員会を中心に取り組む「健やかな子どもの育成事業」の一環として、モデル指定校である足立入谷小学校で学校、地域との連携による朝食会「学校で朝ごはん」を実施している。

朝食の大切さを伝えるとともに、望ましい生活習慣の定着を図ることが目的だ。

事業の経緯について、足立区子どもの貧困対策・若年者支援課の担当者は次のように説明する。

「平成28年、区内に支店を置く自動販売機の株式会社八洋の会長から、子どもたちの朝食支援のために使ってほしいと間接的に寄附の申し出がありました。会長がひとり親家庭で育ったこともあり、家庭の状況にかかわらず子どもたちにしっかり朝食を食べさせたいとの思いから、寄附の申し出をされたという経緯があります」

朝食を欠食する子どもが一定数いることを受け、学校、地域と連携した朝食支援の検討を始めた。

朝食会は6月から12月まで月に一度、足立入谷小学校の児童を対象に、家庭科室で実施される。事業経費は支援者の寄付金を財源としている。1回につき50名程度が参加し、令和7年度は全6回で延べ338名が参加した。

児童からは「家で食べられなくても学校で食べられるからうれしい」「おいしい」「この事業をきっかけに、家で朝ごはんをつくってくれるようになった」といった声が寄せられているという。

子どもたちからは「学校に行くのが楽しい」といった声も

また、大阪府泉佐野市では「こども朝食堂」事業に取り組んでいる。市のこども部子育て支援課の担当者は次のように話す。

「令和4年度のタウンミーティングにおいて、通学の見守りを行なう地域の方々から『家の事情で朝ごはんを食べずに登校する子がいるので、なんとか食べさせて学力や体力をつけさせてほしい』との声が寄せられたことを受け、こどもの成長と学習を支えることを目的にこども朝食堂事業を開始しました」

現在、市内の小学校13校全てで実施。各小学校の家庭科室で基本は週2回、始業前の時間帯に児童へ朝食を提供する。参加費は無料だ。委託事業者は公募型プロポーザル等で選定し、現在5団体が実施運営している。

市の担当者は「人件費や食材費、その他容器代などの物価も高騰しているなか、算定根拠の見直しが必要であると考えております」としたうえで、令和8年度以降も継続して実施する方針だと話した。

さらに広島県でも、平成30年度から「朝ごはん推進事業」に取り組んでいる。

「もともとは平成30年度から事業を実施しています。当初は全県へ拡大していく予定でしたが、コロナ禍を挟み、モデル校3校のうち2校で活動再開が難しくなってしまいました」

担当者によればそれから1校のみで継続していたが、昨年度新たにもう1校が加わったという。

実際の活動は地域のボランティアの協力が前提となるため、県の意向だけで全県的に拡大していくのは実質的に難しいのが実情だという。

だが、取り組みによって着実に変化がみられるという。

「アンケートを実施したところ、子どもたちからは『学校に行くのが楽しい』『友達と一緒に朝食を食べるのが楽しい』といった声がありました。保護者からも、子どもが『こんなものを食べたよ』と話し、家庭でも同じメニューを試すなど、朝食の大切さを子ども自身が意識するようになったという声が届いています。

また先生方からも、遅刻が減ったとか、授業への集中力や発表の頻度が高まったと感じるといった意見が寄せられています」

県がホームページで公表している子どもたちの朝食欠食の現状によれば、小学5・6年生が朝食を食べない理由として「食欲がない」という回答が51.7%を超え、朝食が用意されているにもかかわらず「生活習慣の乱れ」が朝食欠食の背景にある可能性が指摘されている。

県は今後、「子どもの居場所づくり」として分野を広げ、朝ごはん事業に限らず、子どもが安心して過ごせる居場所の拡充を目指すとしている。

「最初に学校へ相談したときは断られました」

朝食提供の動きは小学校に限らず、欠食率の高い中学校にも広がりつつある。

沖縄県石垣市で活動する子育てサポート団体HUGs(ハグス)は、市内の中学校で朝食提供事業を行なっている。担当者は次のように話す。

「私たちは2024年から沖縄県から委託を受けた『寄り添い支援事業』の一環としてヤングケアラーや困難を抱える世帯への支援に取り組んでいます。支援活動の中で、より地域と連携した形を取りたいと考え、始めたのが朝ごはんの提供です」

当初は自治会でスタートしたが、学校とのつながりも作りたいと考えた。学校に依頼したところ、石垣中学校の校長が小学校での実践経験を持っていたこともあり、「中学校でもぜひやりたい」と意気投合。

団体と学校、石垣市、地域ボランティアなどが課題や目標を共有しながら取り組みがスタートしたという。

運営は地域企業からの食材提供や、HUGsの事業費の一部を活用して行なわれている。

「毎週1回の実施で、平均50人ほどの生徒さんが参加しています。企業から提供されるシリアルのほか、ごはんやスープ、いただいた野菜があればチャンプルーにしたり、冬ならおでんにしたりして提供しています。

部活の朝練後に参加できて助かるとか、みんなで朝ごはんが食べられるのが楽しいといった声が聞かれます」

運営にあたっては苦労もある。

教員やPTAらへは協力を求めない方針とし、HUGsと企業、ボランティア、民生委員が中心となって毎週の活動を支えている。目下の課題はマンパワーの確保と仕組み作りだという。

「子どもたちのために何かしたいという大人がいるんです。最初に学校へ相談したときは断られましたが、石垣中の校長先生が受けてくださったことでガラッと学校の受け方が変わりました。

『うちでもやってほしい』という依頼や、離島からの相談も寄せられています」

担当者は、今後も改善を重ねながら続けていきたいと話した。

取材を通して見えてきたのは、こうした朝食提供は、大人たちの思いやりから始まっているケースが少なくないという点だ。

朝、子どもと一緒に食卓を囲めるゆとりが社会に求められていることは確かだが、朝食欠食にはさまざまな要因がある。

子どもたちが健康な生活を送るためには何が必要なのか。社会全体での議論が求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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