トランプのイラン攻撃迷走に習近平の笑いが止まらない…怯える日本・台湾「歴史的大取引の恐怖が迫る」孤立主義を深める米国
トランプのイラン攻撃迷走に習近平の笑いが止まらない…怯える日本・台湾「歴史的大取引の恐怖が迫る」孤立主義を深める米国

トランプ大統領の“迷走”が、思わぬ形で中国に利益をもたらしている。中東から手を引き、同盟国よりも国内政治を優先する姿勢は、東アジアに「力の空白」を生み出した。

その隙を突くように、中国の習近平国家主席は着実に布石を打っている。大豆取引の裏側で何が起きているのか――米中首脳会談を前に、世界のパワーバランスが静かに動いている。

トランプ大統領の迷走、習近平国家主席に大きな利益

トランプ大統領の迷走は、中国に東アジアの覇権と戦略的優位をもたらし、習近平国家主席に大きな利益を与えている––––。

中国の巨大な港湾施設に、太平洋を渡ってきた貨物船が次々と入港する。クレーンが金属音を響かせ、船から陸地へと降ろしていくのは、膨大な量の「米国産大豆」である。無数の粒はうずたかく積まれ、巨大な山を作り上げていく。

時間を少し遡り、米国政府が世界に向けて発信した方針を読み解いてみよう。

「中国は2025年の最後の2ヶ月間に少なくとも1,200万メートルトンの米国産大豆を購入し、2026年、2027年、および2028年のそれぞれにおいて少なくとも2,500万メートルトンの米国産大豆を購入する。

また、中国は米国産ソルガムおよびハードウッド・ソフトウッド原木の購入を再開する」(米国ホワイトハウス『ファクトシート:トランプ大統領が中国と経済貿易関係で合意』2025年11月1日)

態度が劇的に変化している米国

異常な規模の大量購入約束の裏には、米国で今年11月に迫る中間選挙の存在があった。トランプ大統領にとって、自らを支持する農業州の有権者を喜ばせることは、最重要課題だった。

農家の怒りを鎮め、票を確実に固めるためには、わかりやすい成果が必要だったのだ。外交の目的が、大統領自身の国内における政治基盤を延命させることへと、すり替わってしまった瞬間である。

視点をアジアから中東へと移してみる。イラン周辺の情勢は予断を許さず、不安定な状況にある。

かつての米国であれば、圧倒的な軍事力を背景に、中東の秩序維持に汗を流していたはずだ。しかし、現在の米国の態度は劇的に変化している。

「長年の放置の後、米国はモンロー主義を再主張・執行し、西半球におけるアメリカの優位性を回復し、祖国と地域全体の主要地理へのアクセスを守る」
「この“Trump Corollary to the Monroe Doctrine”(トランプによるモンロー主義の補足)
は、アメリカの安全保障利益に合致した、常識的で強力なアメリカのパワーと優先順位の回復である」(米国ホワイトハウス『国家安全保障戦略(NSS)』2025年11月)

イラン情勢の迷走は、中国経済にも致命傷になるはずが…

モンロー主義とは、アメリカ大陸の内側の出来事だけに専念するという古い外交方針である。多大な犠牲を呑み込んできた中東の争いに、米国はもう耐えられない。自国の血と税金をこれ以上海外の紛争に注ぎ込むことを拒否するという意思表示である。

しかし、アメリカという超大国が世界の舞台から降りるという決断は、世界各地に巨大な力の空白を作り出す。真空状態が存在しないのは、国際政治の世界でも同じである。

米国が内向きな姿勢を強めることは、中国にとって千載一遇の好機となる。東アジアにおいて米国の存在感が薄れることは、中国が地域全体に影響力を広げるための道を切り開く結果をもたらす。

中東の不安定化は、通常であればエネルギーを輸入する国にとって最大の脅威となる。イラン周辺の緊張が高まれば、石油輸送の生命線であるホルムズ海峡の安全が脅かされ、世界経済は大きな打撃を受ける。

中国もまた、中東の石油に大きく依存する国家である。イラン情勢の迷走は、中国経済にとっても致命的な弱点になるはずであった。

しかし……。

中国は決して無防備ではなかった

「中国の中東湾岸からの輸入は海上供給の50%強を占めていた。中国はまた、純海上原油輸入の120日分に相当する大量の商業用・戦略的備蓄を保有している。ホルムズ経由で輸出される中東原油の主要アジア買主は中国である」(国際エネルギー機関(IEA)『石油市場レポート』3月12日)

分析データが示す通り、中国は決して無防備ではなかった。120日分という途方もない量の石油を、静かに備蓄し続けている。さらに中国は、ロシアからのパイプライン輸送を拡充し、アフリカからの調達ルートを開拓するなど、中東以外の選択肢を周到に準備してきた。

エネルギーの調達先を多様化することで、中東の危機が直撃するリスクを分散させている。米国の迷走がもたらすホルムズ海峡の危機は、中国経済を揺るがすほどの破壊力を持たない。事態を収拾できずに右往左往する米国の姿は、国際社会における威信を大きく傷つけ、相対的に冷静な中国の地位向上に繋がっているのである。

来月、5月の14日と15日の二日間、北京において米中首脳会談が開催される予定である。世界中の視線が北京に注がれる中、同盟国の人々の間には、期待よりもはるかに大きな不安が広がっている。

大統領の行動原理は「損か得か」「選挙に勝てるかどうか」

会談の席に着くトランプ大統領の頭の中にあるのは、世界の平和や民主主義といった崇高な理念ではない可能性が高い。大統領の行動原理は明確である。損か得か、そして11月の中間選挙に勝てるかどうかである。

日本・台湾を含む周辺国から恐れられているのは、歴史的な巨大な取引が行われることである。トランプ大統領は、農業州の有権者を歓喜させるために、中国に対してさらなる大豆の大量購入を迫るだろう。しかし、中国の指導部が無条件で米国の要求を呑むはずがない。当然、見返りを求めてくる。

中国が提示する条件とは何だろうか。米国が課している重い関税の全面的な引き下げかもしれない。あるいは、台湾の安全保障問題が取引される可能性もある。

台湾は東アジアの安定に欠かせない防波堤である。万が一、台湾の安全が脅かされれば、すぐ隣にある日本も深刻な危機に直面する。

しかし、不動産取引の経験に裏打ちされた大統領の目には、台湾も日本との同盟関係も、交渉を有利に進めるためのカードに過ぎないのかもしれない。大豆を買ってもらう代わりに、台湾への軍事的な支援を弱める。関税を下げる代わりに、東アジアにおける米国の軍事的な存在感を薄れさせる。

大国同士の密室の取引が進められていく恐怖

目先の経済的な利益と引き換えに、地域の安全保障の根本が売り渡されるようなことがあれば、世界の秩序は崩壊する。米国は、イランで手痛い迷走を繰り返しており、米国内からの批判に晒されている。

イラン情勢がどのような形で決着しても、トランプ大統領が今後積極的に世界情勢と関わるモチベーションはどう考えてもない。

日本や台湾がどれほど強い危機感を抱き警鐘を鳴らしたとしても、選挙の勝利だけを見つめる大統領の耳には届かない。同盟国の不安を置き去りにしたまま、大国同士の密室の取引が進められていく恐怖は、決して杞憂ではない。

大国の指導者が、国家百年の計ではなく、明日の選挙の得票数だけで動くとき、国際政治の舞台は、近視眼的な取引の場へと成り下がる。大豆の輸出量を増やし、一時的な歓声を得たとしても、引き換えに失うものはあまりにも大きい。世界の安定に対する責任を放棄し、同盟国の信頼を裏切るような取引は、長期的には米国の孤立を深め、衰退を早めるだけである。

米国の迷走が続く限り、笑いが止まることはない

習近平国家主席はそんなトランプを見てほくそ笑んでいるだろう。世界地図の上で起きている現実を繋ぎ合わせれば、北京の執務室の奥深くで何が起きているのかは、容易に想像がつく。

米国の大統領は、中東の複雑な現実から逃避し、イラン政策で迷走を続けている。そして、国内の支持率を維持するためだけに、同盟国の安全を危険にさらすかもしれない危うい取引に前のめりになっている。

自ら作り出した東アジアの空白地帯に、中国の勢力が静かに、しかし確実に広がっていくことにも気づかないままに。

エネルギーの安全保障を固め、万全の態勢で会談を待ち受ける中国にとって、現状はこれ以上ないほど有利に展開している。

目先の利益だけを追い求める大統領の姿を見つめながら、長期的な視野で世界の覇権を見据える中国の指導者。米国の迷走が続く限り、笑いが止まることはない。

文/小倉健一

 

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