
「忖度」の意味とは? 流行のきっかけから忖度関連のエピソードまで紹介
「忖度」という言葉を耳にする機会がここ1年で一気に増えたのではないだろうか。以前はこの言葉自体を知らなかったという人もいるかもしれないが、いわゆる森友問題で、学校法人森友学園の籠池元理事長が使用したことにより認知度は上昇したはずだ。「忖度」という言葉自体が流行している一方で、政治の影響もあり悪いイメージの言葉だととらえ、その正確な意味や使い方を把握していない人も意外といるのではないかと考えられる。
忖度とは
忖度は相手の気持ちを推測する行為
コトバンクで忖度の意味を調べてみたところ「他人の心をおしはかること。また、おしはかって相手に配慮すること」と出てきた。「忖」にも「度」にもはかる、という意味合いが含まれており、忖度は簡単に言うと相手の気持ちや考えを推測する行為であるといえる。
例えば友人や家族の心情を推測することも忖度だといえるし、仕事上でクライアントの意向を推測することも忖度なのだ。もちろん、忖度が話題となるきっかけとなった政治における上の立場の人の意向を推測するということも忖度の1つだ。
詳しくは後述するが、政治での問題で忖度という言葉が使われたことがきっかけで多くの人がこの言葉を耳にするようになったこともあり、おそらくほとんどの人はこの言葉に対して悪い意味で使われる言葉である、といいイメージを持っていないはずだ。
ジャーナリストの池上彰氏は近年の政治情勢の中でつかわれる忖度という言葉を踏まえ、その意味を以下のように示している。
「一般社会では気配りと評価されるが、官僚社会では政治家に裏切られることも。」
文春オンライン池上彰「WEB 悪魔の辞典」
本来の意味とは異なるが、昨今のニュースを見てイメージする「口利きがあったのではないか?」という意味での忖度は上記のようなものなのではないだろうか。
しかし、実際の意味は先述の通り、相手の気持ちをおしはかること、相手の気持ちを推測することである。このこと自体は決して悪いことではなく、むしろ良いことであるし、おそらくほとんどの人が仕事や学校、近所づきあいなどの日常生活の中で取り組んでいる行いであると考えられる。
空気を読むことが、さまざまな場面で求められる日本においては、忖度は実に日本的な言葉なのだ。
また、この忖度という言葉は、古くから使われていて、中国の古典に出てくるほか、日本においても10世紀ごろには使われているなどその歴史は古い。
類語はある?
相手の気持ちをおしはかるという意味を持つ忖度だが、類語はあるのだろうか?
weblio類語辞典で調べてみると以下のような言葉が出てきた。
・推測
・臆測
・推察
・推しあて
・推考
上記はあくまでも一例だが、「推」や「測」という言葉が使われていることからそのニュアンスは理解できるのではないだろうか。
しかし、例えば推測は「ある事柄や情報に基づいて、おしはかって考えること」、臆測は「確かな根拠もなくいいかげんに推測すること」(いずれもweblio辞書より)と細かい部分では違いがある。
また、意味から考えると「察する」や「空気を読む」も忖度に近いものであると考えられる。
英語では何という?
「空気を読む」に近いニュアンスの言葉ともいえる忖度。空気を読むことは日本では当たり前のように感じられるが、自分の意見を率直に言う文化のある外国人にとっては忖度という行為はなかなか理解しがたいものかもしれない。
実際にダイヤモンドオンラインでは忖度の意味が理解できないという外国人が取り上げられている。
では、忖度は英語ではなんと表現されるのだろうか?
このことを理解するのに役立つのが忖度が注目されるきっかけとなった森友学園元理事長の籠池泰典氏が日本外国特派員協会で行った会見における通訳の解説だ。この通訳は忖度に関して、以下のように話している。
「通訳からの情報として付け加えますが、「忖度」という言葉が英語通訳で少々混乱を招いているようです。何通りかの言い方がありますが、「conjecture(推測)」「surmise(推測する)」「reading between the lines(行間を読む)」「reading what someone is implying(誰かが暗示していることを汲み取る)」などがそれに当たります。」
ハフィントンポスト
また、Google翻訳を使って忖度を調べてみたところ「guess(推測、推量、想像、推察など)」という言葉が出てきた。
このように、忖度の英訳はいくつかの言葉が挙げられる。いずれも間違ったものではないはずだが、さまざまな表現ができるぶん、外国人にとっては忖度がどのような意味を持つ言葉なのかを理解するのが難しいかもしれない。
ちなみに、先ほど触れたダイヤモンドオンラインの記事では最終的に外国人は忖度を以下のように表現している。
「わかったよ。忖度というのは英語で言うと……」
「イエスマンのことだな。600人のイエスマンに乾杯!」」
ダイヤモンドオンライン
忖度を使った例文
外国人はもちろん、日本人にとってっもわかりづらい言葉である忖度だが、実際にはどのように使われるのだろうか?
例としては
「母の心を忖度する」
「彼の行動の意図を忖度してみた」
BuzzFeedNEWS
といった表現が挙げられる。
なかなか見慣れない文かもしれない。
忖度流行のきっかけ
先ほどから少し触れているが、忖度という言葉を多く耳にするようになったきっかけは森友学園への国有地払い下げ問題である。
また、その後の加計学園の獣医学部設置に関する問題においても便宜が図られたのではないかと、忖度が疑われることになった。そこで、ここではこの2つの問題の概要を改めて確認してみたいと思う。
森友問題
森友問題は、学校法人森友学園に国から購入した国有地の価格が安すぎることに端を発した問題だ。
この国有地は、不動産鑑定士による鑑定では9億5,600万円であり、本来なら購入するのであればこの金額を支払わなければいけない。しかし、土地にごみがあったとしてその撤去費用の8億2,200万円を差し引いた1億3,400万円で森友学園は購入している。
このごみの撤去費用が8億2,200万円となっている根拠は明らかになっていない。
森友学園の理事長である籠池泰典氏は、国有地を購入する際の交渉時に安倍首相夫人である昭恵氏と交流していることをアピールしていたことから、総理や夫人の影響によってごみの撤去費用として不当に土地が安くなったのではないかと疑われている。
忖度という言葉が使われたのはこの一連の問題の中で2017年3月に行われた籠池氏の証人喚問においてだった。
籠池氏は証人喚問のなかで、土地の売却価格が安いことに安倍総理の影響があるのかと聞かれて「口利きはしていない。忖度をしたということでしょう」と発言した。
この発言がきっかけとなり忖度という言葉に注目が集まるようになったのだ。
加計問題
一方の加計学園に関する問題は、それまで50年以上にわたって新設されることがなかった獣医学部を加計学園が運営する岡山理科大学が新設することになったことに端を発した問題だ。
久しぶりに獣医学部が新設されただけなら問題にはならないが、獣医学部の設置が国家戦略特区事業という政府の事業によって行われていること、そして加計学園の加計理事長が安倍総理と長年の友人関係にあるということから、何かしらの便宜があったのではないかと疑われている。
この加計問題に関しても、国会の集中審議の際の総理への質疑において「忖度」というワードが使われるなどしている。

忖度が流行語大賞に
政治のあまり良くない場面で注目を浴びることになった忖度という言葉は、2017年の流行語大賞ににノミネートされた。
流行語大賞を受賞
毎年さまざまなワードがノミネートされる流行語大賞だが、2017年は「忖度」が候補としてノミネートされた。各種メディアで取り上げられることの多かった言葉ということもあり、ノミネートは当然といえば当然。
しかし、驚くべきことに忖度は年間大賞を受賞した。この受賞に「忖度が働いたのでは?」と疑った人もいるかもしれない。
ちなみに、忖度とともに「インスタ映え」が年間大賞を受賞している。
年間大賞およびトップテンは以下の通り。
・インスタ映え(年間大賞)
・忖度(年間大賞)
・35億
・Jアラート
・睡眠負債
・ひふみん
・フェイクニュース
・プレミアムフライデー
・魔の2回生
・○○ファースト
政治関連のワードが流行語になったことも
実は、2017年の「忖度」のように政治が関連した言葉が流行語大賞にノミネートされたケースは数多くある。
例えば、記憶に新しいのが豊田真由子氏による「ちーがーうーだーろー!」だ。国会での立ち居振る舞いとのギャップに驚いたほか、これと同時に発せられた歌なども注目を集めた。
また、小泉純一郎元総理による「小泉劇場」や「小泉語録」といった言葉は年間大賞を受賞している。
このほかにも、「集団的自衛権」、「都民ファースト」、「1億総活躍社会」、「オスプレイ」、「毒まんじゅう」といった言葉がノミネートされているなど政治と流行語の関係は意外と深いといえる。
授賞式に現れたのは
忖度が年間大賞を受賞したことで、籠池氏や安倍総理の授賞式への登場を期待した人もいるかもしれない。
しかし、式に現れたのは稲本ミノル氏という、オリジナル商品の企画・制作・販売を手がけるヘソプロダクションの社長だった。
このヘソプロダクションでは、「忖度まんじゅう」というまんじゅうを企画販売している。流行に乗っかった感が強い忖度まんじゅうであるが、日常のコミュニケーションの際に行われる忖度のお供として発売され、流行語の影響もあり、大ヒットしたそうだ。
稲本社長は大賞受賞にあたって以下のようなコメントを残している。
「このたびは大きな忖度をして下さりありがとうございます。日本文化を表すすてきな言葉をこれからも大切に使っていきたい。まんじゅうは売れまくりました」
朝日新聞デジタル



さまざまな忖度
政治や忖度まんじゅうのほかにも、「忖度」という言葉を見かける機会があった。どのようなものなのか確認してみよう。
忖度ジャパン
忖度ジャパンはサッカー日本代表に対して使われた言葉だ。
2018年のFIFAワールドカップロシア大会を戦うメンバーがベテランばかりとなり、注目の若手選手や活躍中の選手が選ばれなかったことから、ベテラン選手やスポンサーへの忖度ではないのか、となり忖度ジャパンと呼ばれることになった。
しかし、同大会では決勝トーナメント進出という下馬評を覆した結果を残している。
忖度御膳
「忖度」の流行を受けてファミリーマートは忖度をテーマにした「忖度御膳」を2017年12月から数量限定で発売した。
これは、同じく2017年に流行した「けものフレンズ」と「忖度」の投票数が多い方を商品化するという企画の結果生まれた弁当だ。当初はファンの多い、けものフレンズが勝つのではないかと予想されたが、結果は忖度の圧勝だった。
御膳の中身は金目鯛やのどぐろといった高級食材をはじめとして、野菜、肉、魚がバランスよく取り入れられている。話題性は十分な弁当だが、価格はファミリーマート史上最高額の弁当となる798円(税込)。その価格の高さがネックとなり販売に苦労している、廃棄せざるを得ない、といった話題も見られた。

まとめ
政治問題から注目を浴びることになった「忖度」だが、悪事を働く際に使用する言葉ではないし、その歴史は非常に古い。今回注目を集めている忖度はあくまでも使い方の一例でしかない。一方で言葉の知名度は間違いなく飛躍的に向上し、弁当やまんじゅうなどビジネスにも発展している。言葉だけが独り歩きしてしまいがちだが、ぜひ今一度「忖度」という言葉の本来の意味を把握してみてほしい。