歯に衣着せぬ発言は、ダウンタウン・浜田の持ち味。いや、芸風と言っても過言ではありません。
昔、行われていた『ガキ使』のフリートークでは頻繁に「ピー」音が入り、コンプライアンス違反を犯していることを度々知らせてくれたものです。あの「ピー」音、今考えると絶妙でした。前後の文脈から、一体、何を言っているのか想像を膨らませることが、番組視聴における一つの楽しみになっていたのです。あれのおかげで、大学受験の現代文における空欄穴埋めの設問に強くなったような気が、しないでもありません。

ストレートな発言が騒動の引き金に


そんな「ピー」音が仕事をせず、大事になったことがあります。事件は2000年6月26日放送の、ダウンタウンがかつて司会を務めていたフジテレビ系の音楽番組『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』で起こりました。
問題となったのは、宇多田ヒカルとダウンタウンのトーク部分。
1998年に『Automatic/time will tell』でデビューして以来、飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼女に、浜田はこう言い放ったのです。

「あのさぁ、最近、お前のパクリが出てきてるやん。あれ、どう思う!?」

会場は微妙な笑いに包まれます。観客のリアクション同様、反応に困ったような表情を浮かべる宇多田。さらに、浜田は強めの語気で続けます。「そっくりやねん!真似てんねん!歌とか!」。
場の空気に合わせて、宇多田は乾いた笑い声を上げていました。

確かに似ていた宇多田ヒカルと倉木麻衣


名指しで盗人呼ばわりされたのは、倉木麻衣。おそらく、“宇多田のパクリ”というフレーズだけで、会場の多くが倉木を連想したはずです。それほどまでに当時の2人は似ていました。ティ―ネイジャーであること、歌い手でありながら自身も楽曲制作に携わっていること、デビューにあたってのTV出演・タイアップは一切なしだったこと……。まんま、宇多田の二匹目のどじょうでした。そして何より、宇多田が先ほどの浜田の質問に対して「最初に聞いたときは、あれっ、アタシ!?かと思った」と言うほど、歌声・曲調が似ていたのです。

確かに浜田の言い方はキツイものでした。しかし、世間が思っていることを代弁した発言でもあったのです。

カットするどころか、分かりやすく伝える演出だった


この一連のシーン。結果論ではありますが、番組的にカットすべき場面でした。最悪、誰のことを言っているか分からないようにお馴染みの「ピー」音でごまかすこともできたはずです。けれども、そんなことはされずに、ご丁寧に「倉木麻衣」という字幕と共に彼女の写真がデカデカと表示され、おまけに3rdシングル「Secret of my heart」をBGMで流す始末。「本人ではなく周囲の人間が悪い」と結論付けられたのが、せめてもの救いでしたが……。


事務所が激怒 浜田と宇多田が謝罪する事態に


この放送に倉木はショックを受け、事務所側が激怒する事態に発展。一部報道では、事務所側の依頼を受けて、右翼団体がフジテレビ周辺に押し掛けたとも伝えられています。事の真相は定かではありませんが、その後、テレビ局・浜田はもちろん、同調してしまった宇多田も公式HPで謝罪するまでの騒ぎとなりました。
確信犯的に宇多田を意識したプロモーションを仕掛けたにもかかわらず、過剰反応を示す事務所も事務所ですが、やはりこれはテレビ局側の過失。当時の倉木は高校生。デビューしたばかりで、バッシング耐性などない彼女が、公然とテレビ内で有名芸能人から批判されたらどんな反応を示すのか、推して知るべきというものでしょう。


時を経て数年後、コンサート会場で対面し、すぐに意気投合したという宇多田と倉木。流石は似た者同士ということなのでしょうか。宇多田も人間活動から復帰したことですし、いつかメディアで共演し、当時のことを笑い話として語って欲しいものです。
(こじへい)

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