戦後生まれの象と「かわいそうなぞう」のひみつ
桜の散り際と「かわいそうなぞう」で泣かぬ者は、日本人ではない。

という台詞もあながち嘘には聞こえない。
夏の定番絵本、「かわいそうなぞう」は幾多の日本人の涙を誘った絵本である。
「かわいそうなぞう」は、戦時中の動物園の話である。空襲による危険のため、猛獣類は処分せよとの軍の命令により、上野動物園でも猛獣は残らず処分された。ぞうの、トンキー、ワンリー、ジョンも、えさを与えられずに餓死させられるという、涙なしには語れない物語、いや、史実である。

さて。
東京の井の頭恩賜公園には、一頭の年老いたぞうがいる。名前は「はな子」。
実は、このぞうは、トンキー、ワンリー、ジョン亡き後の上野動物園に、戦後初めて来たぞうなのである。

えっ! と思われる方は多いだろう。「かわいそうなぞう」の話は遠い昔の話みたいだから。
この、ぞうの「はな子」は昭和22年生まれの56歳。戦後間もない昭和24年にタイから日本に寄贈され、昭和25年から二年間、移動動物園で全国を回ったという、まさに戦後の生き証人、いや、生き証ゾウなのだ。
60歳になる筆者の母も、子供の頃移動動物園で「はな子」を見たことがあるという。

「はな子」は高齢のため、鼻も白くなり、他の動物園の若いぞうに比べて、動作も心なしかゆっくりしているように思える。彼女は、その目で何を見てきたのだろう。

「はな子」が生きている限り、「戦後」はまだ終わらないのかもしれない。(バーバラ・アスカ)
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