本物そっくり!生後2週間の新生児人形
スーパーのチラシに混じってよく入っているのが、生後6ヶ月くらいの赤ちゃんの人形のパンフレット。あどけない表情で笑っているのもあれば、すやすやと眠っているようなものもある。
作りもしっかりしていて、男の子と女の子とで、微妙に違えているし、少し握った手の細い指のしわの、一本一本まで細かに描かれている。説明によると、大きさも重さもほぼ実物と同じで、抱っこしたとき丁度肩のあたりに頭が乗って、思わず頬ずりしたくなるのだそうだ。更に「お値段はお求めやすい、$29.99の5回払い。あなたのお家にお届けします」とある。

人形コレクターが買うのかな、と納得しようとしたが、なんとなく変。お求めやすいはずの値段も、人形にしてはばか高い$150(約16,500円/$1=110円で換算)だし、なんでそんなにリアルに作る?! マダム・タッソーの蝋人形の館に閉じ込められた、パリス・ヒルトン嬢か? いや、それよりもなんで赤ちゃんなの? そして、この心の奥底に感じるものは、ナニ? 独り悶々としてしまった。

そして後日、更に私をのけぞらせるようなパンフレットを見つけた。
「生後2週間の新生児のお人形。チャーリー」

写真で見ても本物そっくりに作ってあるのが分かる。こんなの抱いて歩いていたら、「あら、いつお産みになったの?」とおせっかいな人に挨拶されそうだし、遊び終わった後、おもちゃ箱に放り投げようなら、近所から幼児虐待で通報されそうだ。専用のベッドに寝かせて、モーツアルトの子守唄でも聞かせてあげなくてはいけないような赤ちゃんのお人形。これは誰が買うんだろう?

もうこれは聞くしかないと、メーカーに問い合わせたところ、顧客情報は公開できないと、冷たい答えが返ってきた。
ほうほうそうか、答えられない訳があるんだなと、いつも頼りにしている近所のおばさんに聞いてみた。
「ああ、好きな人が買うんだよ」なんだ、普通じゃん。

でもこっそり聞いたところによると、子育ても終わり、子供が独立していった後、ふと寂しくなった老夫婦が、もう一度子育てを思い出したいと買うケースや、幼い子供を亡くしてしまった人が、悲しみをまぎらわせるために手に入れる場合もあるらしい。人が子犬やハロー・キティに、かわいらしさや愛らしさを求めるように、罪のない生まれたばかりの命の存在に、心が救われる場合もあるのだろう。本物そっくりの赤ちゃんのお人形は、そんな心の奥底に寂しさを抱えた人たちの、慰めや癒しになっているのだ。

この感覚は、特に年配の女性の方に強く表れるらしく、人形メーカーは、女性の目につきやすいよう、スーパーのチラシの中にパンフレットを折り込んでいるのだそうだ。イノセントのようで、人の弱みにつけこんでもいるような。

そして話を聞いた後、改めて考えてみる。パンフレットを見たときに感じたものは、ナンだったのだろう。う、そうだ、お地蔵様だ。リアルな赤ちゃんのお人形は、まるでお地蔵様のように、優しいお顔をしていたのだった。なーんだ、お地蔵様かー。
そう思うと、生後2週間の赤ちゃん人形も、なんだか親しみが湧いてくるから不思議だな。(チン・ペーペー)
編集部おすすめ