オーストラリアでは日焼けは幸運・健康の証? 美白を求めがちな日本人との違い
影が少なく日差しの強いシドニー・ハーバー

日本では肌色が白い人に対して、清楚または上品なイメージを持つことが多い。全国展開されているようなドラックストアの店内を見回しても、手頃な美白化粧品が種類も豊富に置いてある。
美白は常に商品コンセプトの中心にあり、そこから乾燥、敏感、オイリーなど自分の肌に合わせて選ぶのが基本だ。

一方でオーストラリアでは少し事情が異なる。オーストラリア人を構成する移民出身者はイギリス系が一番多く、白人、青い目、金髪といった容姿が多い。しかし彼らにとって、「美白」は必ずしも日本のように求められていることではない。

豪で白い肌の印象は「不健康」「体調不良」


まず筆者の周囲の女性に「美白」について聞いてみた。最初に聞いたのは、金髪に白い肌、赤い口紅が印象的なアングロサクソン系の女性。彼女の場合、夏(南半球の夏は12月から2月)はフェイク・タンニング・ローションで日焼けしたような色合いにして、元の肌色である青白さを避けているという。
ビーチに行く時には、日焼け止めクリームは塗るが、日焼けに対して抵抗はない。白い肌に対してどう思っているか聞くと、「青白いと不健康そうに見える」とのことだった。

次に聞いたロシアにルーツを持つ東スラブ系の女性も金髪に白い肌。彼女の場合、一度髪色を黒色にしたところ、肌の色が白いことから顔色が悪く見えたという。会社の同僚たちから「体調が悪いのか」とかなりの頻度で聞かれて嫌気がさしたそうだ。髪色と肌の色はバランスを取った方がいいと考え、今では元の金髪に戻した。
戻してからは顔色が悪いと言われることがなくなったため、現在の髪色と肌色には満足している。

三人目は、インド系コーカソイドのツヤのある黒髪に褐色肌の女性に尋ねた。彼女の場合、肌がすぐに荒れたり、アレルギーを起こしたりするので、敏感肌と自覚している。そのため直接肌に塗るものには、美容カウンセラーのアドバイスをもとに選んでいる。日焼け止め対策については、褐色の肌のため、これ以上黒くならないようにしたいという。冬(南半球の冬は6月から8月)でも日焼け止めをするのか聞いてみると、冬は日焼け止めクリームは塗らず、保湿用のハンドクリームやビタミンCの入ったクリームを塗って乾燥を避けているだけとのこと。
理想の肌色については、日本人のような白過ぎでも褐色過ぎでもない色(黄色)がいいと話してくれた。
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健康的に見える日焼けした肌が豪で不健康をもたらす


オーストラリアでは皮膚ガンの発症率が非常に高い。国家非営利組織(NFP)「Cancer Council」によると、年間2000人が皮膚ガンで亡くなっている。治療のコストは10億ドル(日本円:約800億円)に上るという。皮膚ガン自体は日焼け止め対策をすれば避けられることが多く、Cancer Councilでは、日焼け対策として「全国皮膚ガン対策週間2018」を今年の11月18日から24日に設定し、「#OwnYourTone」を呼びかけている。

この運動では「日焼け除けをする着こなしをする」「SPF30以上の日焼け止めクリームやローションを使用する」「幅の広い帽子をかぶる」「なるべく日陰を探す」「サングラスをかける」という5つのことを推奨する。日本人なら誰もがやっていそうな簡単な対策だが、日焼けした肌に対して要望が高いオーストラリアでは、これら対策が必ずしも受け入れられているわけではない。



どうしてオーストラリア人は簡単な日焼け対策を怠るのか?


オーストラリアの2018年の人口は、約2487万人(出典:World Population Review)だが、その半数が「日焼け」ということに対して、「うまくいっている」「幸運」「健康」の証という強い信念がある。それが普段の生活にも反映されている。

夏になると、自然豊かなオーストラリアではハイキング、バーベキュー、海水浴に行くのが主なレジャーだ。サーフィン、シュノーケリングおよびスキューバーダイビングなどのマリンスポーツも盛ん。太陽の光を避ける方が難しい状況と立地もある。海などの日差しの強いところに行かなくても、バランスよく日焼けできる機械である日焼けサロン(ソラリウム)に通う人は多かった。
どちらにせよ紫外線を大量に浴びることには間違いない。
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外出時にはSFP30以上の日焼け止めクリームまたはローションを!

Cancer Councilのサイトには、ソラリウムを20回以上受けたという女性の経験がある。彼女はメラノーマ(悪性黒色腫)で2007年に亡くなっている。生前、彼女は自身の経験をテレビ広告で語り、オーストラリアにおける日焼けサロンの危険性の周知徹底に貢献した。その甲斐があり、オーストラリア8州のうち6州(ニュー・サウス・ウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州、サウス・オーストラリア州、タスマニア州、オーストラリアン・キャピタル・テリトリー州)では2014年12月31日から商用ソラリウムの使用を禁止にした。

残り2州のうち、ノーザン・テリトリー州では商用ソラリウムがないため対象外だが、残りの1州であるウェスタン・テリトリー州では禁止すると宣言しているもののその具体的な日付は未発表だ。


Cancer Councilは、「フェイク・タンニング・ローションでは日焼け止め対策にならない」「曇りの日にも対策は必要」「日焼けした肌色は幸運、健康の象徴ではない」など、オーストラリアの人々が盲信的に持つ考えを「偽り」であることを解説付きで知らせている。しかし、現在でも科学的根拠に基づいた正しい情報がきちんと周知され、それがオーストラリアの人々の信念を超えて、皮膚ガンの予防対策がきちんと実践されているかは、まだまだ疑問が残る。

上述したオーストラリアの商用ソラリウムの禁止に至るまでには10年以上のキャンペーン期間を要した。人に植え込まれた信念を撤回するのには、とても多くの時間がかかることを痛感させられる。
(青砥えれな)