煮ない、とじない、「ソースカツ丼」講座
揚げたてのカツを、とんかつソース+お砂糖の甘めソースにからめるのが我が家流。熱々カツが、ソースの中でジュワーッと音をたてると、いてもたってもいられなくなり、早くごはんにのっけたくなります。
「ソースカツ丼? トンカツにソースかけてごはんに盛るだけでしょ? フツウじゃん」
なんて言っちゃうアナタ、大きな誤解です!
カツ丼といえば、煮カツを卵でとじたものが、一般的なイメージ。
でも、ソースカツ丼は、煮たりとじたりしない。
熱々の揚げたてカツを、どっぷりとソースで味付けする、まさに「ソース命」のカツ丼なのだ。
私の出身の長野では、「カツ丼」といえば、このソースカツ丼を指すのが当たり前で、特に発祥の地として名乗りを挙げている県内の駒ヶ根・伊那の両市では、それぞれ「駒ヶ根ソース丼会」「伊那ソースかつどん会」を発足し、「ソースかつ丼パイ」や「ソースかつ丼まん」を作るなど熾烈なPR合戦(?)を繰り広げているという。

ソースカツ丼の誕生は、
「大正10年に早稲田高等学院生の中西敬二郎氏らが考案、周囲の食堂から全国へ広まった説」
「明治時代にドイツ留学した高畠増太郎氏が、大正2年に東京の料理発表会で発表し、後に早稲田鶴巻町の自分の食堂のメニューとした説」
などがあり、長野の他にも、福井や群馬、福島などに「ソースカツの地」を謳う町はある。

さて、肝心のソースだが、店では自家製を使うところが多いほか、各家庭でも「ソース+砂糖」「ソース+醤油+砂糖」「ソース+醤油+みりん」など、味はそれぞれ。さらに、千切りキャベツを敷く場合もあったりなど、細かいバリエーションはいろいろあるが、共通していえるのは、ちょっと甘めのソースがよくしみていることだろうか。

食べ方にも個々にこだわりや流儀が結構あり、私の周りでは、「カツを一度ひっくり返して食べる」方式が多い。

というのも、ソースのよくしみたかつは当然美味いが、「ソースしみしみ」の恩恵を、カツだけが独占するのはもったいない。せっかくなら、カツを裏返し、表面に光る余剰ソースをごはんにしみこませてあげ、一般ごはんまでも立派な「ソースしみしみごはん」に変えてあげようという理由である。
また、「ソースしみしみごはん至上主義」の友人などは、白飯と白飯の層の間に、ソースカツを敷き詰めるという秘技を行っていた。
一見「真っ白なご飯」をめくると、しみしみソースカツと、カツの周り中に、しみしみごはんが……まるで宝探しのような心境である。

もちろんカツを主役として、惜しげなく食べるのも良い。
味が濃厚なので、フツウのトンカツや卵とじカツ丼に比べ、冷めても美味しく、カツサンドにもピッタリ。

「卵とじ派」な人も、一度試してみて欲しい。ソースかつの魔力に、きっとハマるはずだから。
(田幸和歌子)