犬が救急車の音を聞いて鳴くのは、なぜ?
可愛く切ない犬の習性「遠吠え」。聞いてるこっちも、応えてあげたくなります。
犬を飼ったことのある人なら、知っている人も多いと思うが、救急車の音を聞くと、悲しそうに鳴く犬が多いことは、昔からの疑問だった。

小3の頃から社会人になる手前まで飼っていた犬は、救急車の音が聞こえてくると、それまでどんなにはしゃいでいても一転、物憂げなムードになり、「アオ〜」と上を向いて、それはそれは悲しそうに鳴いた。

近所には大型犬、中型犬、小型犬と、種類の違う犬が何匹もいたが、ちょうど実家が病院坂にあったこともあり、救急車が通るたび、あちこちから「ワオ〜ン」「アオ〜ン」「ウォ〜ン」と聞こえてくるのは、さながら犬の悲しい合唱のようでもあった。
ときには、犬が涙を流しているように思えることすらあった。

そんな犬の姿がどうにも不憫で、いとおしく、切なく、でも、実はその悲しそうな顔を見るのがちょっと好きで、救急車の音が聞こえてくると、外に飛び出して犬の顔を眺めたりもしたものだ。

なぜ救急車の音で鳴くのだろうか。何が悲しいのだろうか。
その理由、しくみについて、ドッグテックジャパンの「家庭犬行動セラピスト」山田夏子さんに、聞いた。

「救急車のサイレンの音は、犬の遠吠えの響きに近いため、呼応して遠吠えする犬がいるようです。野生の狼は遠く離れた個体同士、遠吠えによって存在を確認するといったコミュニケーションをとります。家庭犬はオオカミを家畜化したという進化の過程がありますので、この本能を強く残している個体が遠吠えをすると考えられているんですよ」
「遠吠え」ということは、じゃ、悲しくはないのですか?
「悲しそうに見えるのは人間の感覚であり、犬は悲しくて泣いているわけではありません。一生懸命遠くにいる仲間の呼び声に応えようと声をあげているのです。本能に駆られてとっている行動だと思いますよ」
ちなみに、これはもともとオオカミがとっていた行動の名残なのだとか。

ところで、田舎に住んでいた頃はよく聞いた、この「遠吠え」、東京に来てからはあまり聞かないけど、地域や時代でも変わってきてるんでしょうか。

「東京でも田舎でも救急車に遠吠えする犬はいますよ。田舎の方が屋外に置かれている犬が多いため、そのように感じるのではないでしょうか? 他に、人の歌声や楽器の音、地域放送の音などで遠吠えする犬もいます」
では、犬の種類にもよりますか?
「種類は問いません。遺伝的にオオカミに近いといわれている犬種(ハスキーやマラミュートなど)は遠吠えすることが多いように感じますが、統計的なものはわかりません。また、イヌ科の動物(コヨーテやワイルドドッグ)ならするかもしれませんが、それ以外の動物は『遠吠え』という行為自体をしないのではないでしょうか」

結局、悲しくて鳴くわけではないことはわかったけど、救急車の音を犬の遠吠えのように感じ、「遠くにいる仲間に一生懸命応えようとして鳴く本能」なのだと聞くと、ますます切ないなあと思うのでした。
(田幸和歌子)