自販機の「あったか〜い」とかいう、アレ
「〜」の存在は、それなりに大切なようです。
木枯らしが吹きすさぶ季節、外にいると、飲み物の自動販売機がかなりありがたい。小さな缶を全身で握り締めながら、その温かさに、ついニヤける。
自販機のおかげで、何度生き返ったか分からない。

ところで、そんな温かい飲み物を買うとき、“あたたか〜い”とか“あったか〜い”っていう表示を見ることが多いと思う。自販機特有の“〜”って伸ばす言葉。結構な割合で、この“〜”がついている。

一体どうして“あったか〜い”って、さまぁ〜ず・キャイ〜ン方式をとるんだろうか。いくつかの飲料メーカーに聞いたところ、始まりは分からなかったけど、似たような答えが返ってきた。

「推測ではありますが、お客様に、より温かさを感じていただくためではないかと思います」
そりゃそうか。“あたたかい”って書かれてるよりも、“あったか〜い”の方が惹かれる。自然とそういった工夫が生まれたんだろう。

ところでこの表記、“あったか〜い”じゃなくて“あったたか〜い”とか“あったか〜〜〜い”、つまりどんなでもいいんだろうか。日本自動販売機工業会に聞いた。
「特に表示についての決まりはありません」
――ということは、例えば“あったかいかい”でも“THE あったか〜い”でもいいんでしょうか?
「はい……規則はありませんので……」
――THEは母音の前なのでジと読みますけど、それでも大丈夫でしょうか?
「……規則はないです」
まあ、メーカーに売る気がある限り、そんな表記にはならなさそうだ。


そして、温かい飲み物が赤、冷たい飲み物が青っていう表示にも決まりはないんだとか。赤い中に“つめた〜い”と書いて、青い中に“あったか〜い”と書いても、規則としては問題ないらしい。結果、クレーム殺到で問題にはなるだろうけど。

ポッカによると、自動販売機に温かい飲み物が登場したのは1973年。缶コーヒーをホットで飲めるようにと、同社が世界初の「ホットオアコールド自動販売機」を開発。夏は冷却して冷たい飲み物、冬は加熱して温かい飲み物を飲めるようになった。

そしてこの基本技術をもとに、数年後に今と同じようなタイプの「ホットアンドコールド機」が登場。温かい飲み物も冷たい飲み物も、1台の自動販売機で買えるようになった。これをキッカケに、日本の清涼飲料水市場は大きく伸びたという。

ちなみに世界初の「ホットオアコールド機」が登場したとき、ホットの表示に書かれていたのは「あったか〜い」じゃなくて「あたたかいお飲み物」。初めてのホットドリンクなだけあって、丁寧な説明だ。

55度前後で温度設定されることが多い、自販機の「あったか〜い」。

ただその数字以上に、僕らは“〜”で温かさを感じてる。

“〜”は、飲み物があったか〜いことだけじゃなく、身体があったか〜くなれそうってことを、もたらしているんだろう。
(イチカワ)