日本では土用丑の日にウナギを食べるのと同様、韓国では「伏日」(ポンナル)と呼ばれる夏の日の3日間に、夏バテ防止としてサムゲタン(参鶏湯)を食べる風習がある。

サムゲタンは鶏のお腹にもち米を詰め、高麗人参やニンニク、ナツメなどの生薬とともに煮込んだ、栄養満点の料理。
韓国では1000円前後というお手軽な価格で、サムゲタンを一年中食べることができるが、特にこの伏日の日には、サムゲタン屋は行列ができるほどの大盛況となる。
伏日の初日である今年の「初伏」(チョボク、2009年は7月14日)には、ソウルで豪雨注意報が出ていたのにもかかわらず、サムゲタン屋は大忙しだったそう。韓国人にとって伏日にサムゲタンを食べることは、夏の重要イベントなのだ。

ところで本場ソウルには、このサムゲタンをわざわざ男性用と女性用とで作り分けて提供する、一風変わったお店がある。
ただでさえ身体に良さそうなサムゲタンを、男女差を考えて生薬を配合するなんて、さらなる効果がありそうではないか。雨が上がった初伏の翌日、さっそくこれを試しに行ってみた。

訪れたのは、サムゲタンのチェーン店である「智鎬韓方参鶏湯(ジホハンバンサムゲタン)」漢南店。このお店で出す男性用・女性用のサムゲタンは、正式名称をそれぞれ「健康サムゲタン」「美容サムゲタン」という。
ベースとなるサムゲタンはどちらも同じく、黄耆(おうぎ)やハリギリなどの漢方生薬が入ったサムゲタンだが、男性用には「鹿角(ろっかく)」「葛根(かっこん)」といった精力をつける生薬が、女性用には「甘草(かんぞう)」「クコの実」といったお肌に良い生薬が、追加で配合されているそう。
男である私も女性用を注文できるのかと店長に聞くと、まったく問題ないとのこと。実際にお肌を気にする男性が、女性用サムゲタンを食べることもよくあるという。もちろんその逆もアリだ。


出てきたふたつのサムゲタンを比べるが、見た目では特に変わりのない模様。スープを一口飲んでみても、私の舌には味の差はまったくわからない。しかしスプーンで具をすくってみると、説明を受けた生薬が確かに入っており、それを見るだけでテンションが上がる。
その姿を発見して特に興奮したのが、男性用サムゲタンに入っている「鹿角」だ。これは文字通り鹿さんのツノであり、スライスしたゴボウのようなルックスである。お店に貼られている説明によると、「血液循環を促進、汚れた血をなくし、心臓・肝臓の機能を助ける。またカルシウムが豊富で骨を硬くする」効果が期待できるという。
試しに噛んでみたが、鹿のツノそのままに硬い。しゃぶってみても何かの味がするわけでもない。しかし貴重な生薬が、サムゲタンのスープに溶け込んでいるのだろうと納得。鹿さんに感謝しながら、アツアツのサムゲタンをスープまで完食した。

さて、そのサムゲタンを食べたおかげで劇的に元気になったかといえば、そう断言できる自信はなく、一緒に女性用サムゲタンを食べた女性も、「皮膚が良くなったかと言われればそうかもしれないし、そうでないかもしれない」というあいまいな答えであった。
漢方というものは続けるからこそ意味があるのかもしれない。
とはいえ単純な私は、鹿のツノのエキスを摂取したという事実だけで、今年の夏は乗り越えられる気がするのである。

2009年の伏日のうち、残る2日である「中伏」(チュンボク)は7月24日、「末伏」(マルボク)は8月13日を控えている。あちこちの食堂に「サムゲタン」の貼り紙が登場した夏のソウル。町に溢れるイベント気分に乗って、今度もサムゲタンを食べに行こうと思っている。
(清水2000)
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