ベトナムといえば、バイクだらけの町、キッチュな雑貨、フォーに代表されるベトナム料理などをイメージする人が多いだろう。日本人にもポピュラーな旅先だが、ベトナム北部の山奥に住むオシャレな少数民族のことを知っている人はほとんどいないのでは?

中国との国境にも近いラオカイ省のサパは、標高1600メートルの山岳地帯。
もともとはフランス人が避暑地として開発したところで、いまではベトナム人にも人気の高原リゾート。周辺には多くの少数民族が暮らしており、町なかには日常的に民族衣装姿の女性が歩いている。ハノイやホーチミンのような都会とはまったくちがう、秘境感たっぷりのエリアなのだ。

ベトナムには50以上の民族がおり、サパ周辺には赤ザオ族、黒モン族、花モン族などが住んでいる。彼らはその暮らしぶりや文化も独特だが、なかでも目を引くのが美しい民族衣装。民族ごとに服のデザインがちがうため、着ているものを見ればどの民族か一目でわかる。ちなみにサパに多いのは、藍染めの衣装に身を包んだ黒モン族。素朴な雰囲気ながら、ジャケットなどに施された繊細な刺繍は芸術的ともいえるほど。

もともと自分たちの衣装作りのために培われた高い織物技術であったが、最近はバッグや小物など観光客向けの土産物を作る人も多い。少数民族の人たちにとっては、土産物を売ることも立派な収入源のひとつになっているからだ。

当然、町や村を歩いていると、「買ってよ」と声をかけられるシーンも多いのだが、なかでも積極的な攻勢をかけてくるのが、頭に巻いた赤い布が目印の赤モン族。彼らが住むタフィン村を訪れたときは、車から降りるやいなや、村の女性たちが一斉に集まってきて、
「名前は? どこから来たの?」
「私からお土産ひとつ買って」
など畳みかけるようにアピール開始。
フレンドリーを超越した意欲的な接客にタジタジとなったが、このたくましい商魂は立派。同行の男性陣などは10人近い女性に囲まれ、はたから見るとまるでアイドルさながら。商売のためとわかっていても、この村では思わず鼻の下が伸びてしまう男性もいるかもしれない。

そして個人的に世界一オシャレだと思ったのが、花モン族。彼らが一堂に会するバックハーという町のサンデーマーケットに行ってみると、そこは目がチカチカするほど鮮やかな色の洪水! ピンクを基調とした花モン族の衣装は派手でかわいく、子どもからお年寄りまで誰にでも似合うざっくりしたスタイル。もちろん、畑仕事のときなど別の服を着るというし、マーケットに来るからいつもより着こなしに気合いが入っているとはいえ、基本的にはこれが彼らの普段着だというからスゴイ。

ちなみにこのマーケット、食料品から日用品、糸や民族衣装まで、生活に必要なものはなんでもそろい、市場脇の店では携帯電話を物色している人もチラホラ。少数民族といっても、そこまで原始的な暮らしをしているわけじゃない。村には電気もあるし、テレビもある。ベトナムの携帯事情はよく、かなりの田舎でも電波は良好だ。

その一方で、マーケットから見渡せるのはまさにベトナムの原風景ともいえるのどかな山里。マーケットでは水牛や豚、犬なども売られており、買った水牛をひとりで村まで引いて帰る女性も。
ちなみに水牛1頭700~800万ベトナムドンで、日本円にして3万円前後だとか。

マーケットはショッピングに加えて外食の場でもある。お昼時ともなれば市場内の食堂は超満員。フォーなどのローカル料理はもちろん、アイスクリーム屋台なども盛況。
「おいしいものは市場に来ないと食べられないから、みんな楽しみにしているんですよ」
とは現地ガイドさんの弁。なるほど。

自分たちの文化を守りながらも、現代社会とうまくミックスしながら生きる少数民族の人たち。オリジナリティあふれるファッションセンスは真似できるところもありそうだし、女性なら美しい刺繍が施された土産物選びにも熱が入ってしまいそう。

サパへのアクセスは、日本からベトナム航空の直行便でハノイまで約6時間。そこからは寝台列車で約8時間半、さらに車で1時間。決して近いとはいわないが、欧米人観光客も多く、旅行しづらい場所ではない。

リアルな少数民族の姿に会えるベトナム・サパ。
秘境好きにも、オシャレ好きにもオススメだ。
(古屋江美子)

取材協力: ベトナム航空
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