魚釣りができるレストラン「ざうお」が米進出 姿盛りに驚く客も
北米ならではロブスターの刺身

日本でも人気の海鮮料理屋「釣船茶屋ざうお」の海外第1号店「ZAUO(以下ざうお)」が、10月15日にニューヨークのマンハッタンでオープンした。ざうおは、店内のいけすで客自らが釣りを行い、その場で釣った魚を自分の食べたいスタイル(刺身、煮つけ、揚げ物など)で店員に調理してもらえるレストランだ。


アメリカで釣りといえば、スポーツやレジャーとしての意味合いが強く、食べることを目的として釣りをする人は少ない。ニューヨークのざうおは「飲食店の中で釣りができるというアメリカでは斬新過ぎるコンセプト」「日本的な釣りの紹介」「アメリカでも人気の日本食」という点で、オープンの1年以上前から海外メディアでも報道されてきた。開業後もメディアから個人まで幅広い層の注目を集めている。

同店の立ち上げにはどのような苦労や挑戦があったのか。日本でざうおを展開する株式会社ハーバーハウス代表取締役副社長、および米国での運営を担う現地法人ZAUO INC.社長である高橋拓也さんに話をうかがった。
魚釣りができるレストラン「ざうお」が米進出 姿盛りに驚く客も
毎日店頭に立つZAUO INC.社長の高橋さん


最初は定食屋なども検討していた


――2014年にアメリカへ出張をされた時からニューヨークにざうおの出店を検討していたとか。どういった経緯でニューヨークに決めたのでしょうか? 

高橋 実は最初はざうおを開くことまでは想定しておらず、主に市場調査の目的でニューヨークを訪れていました。店を開くとしても、ざうおと同じ業態でなければならないとはまったく考えていませんでした。私たちが日本で展開している業務のうちの何かをやれたらという気持ちで、当初は定食屋なども検討していたぐらいです。

ただ、すでに展開されているニューヨークの飲食店などを回っていて、ここで何かを始めるならば、自分達がもっとも強みを持っているざうおを展開したいと気持ちが固まりました。ニューヨークという街にひかれた理由は、この街の持つ多様性です。さまざまな出身、文化を受け入れてきているこの街が、ざうおという新しい概念をもっとも受け入れてくれると思いました。
魚釣りができるレストラン「ざうお」が米進出 姿盛りに驚く客も
店内にあるいけす


――ニューヨークにはすでに日本食レストランもたくさんあります。
どのような印象を持ってざうおの出店を決めたのですか?
 

高橋 おっしゃる通りニューヨークにはかなりの日本食レストランがあります。そのなかでもレベルが高い日本食は、かなりかっちりしている気取った雰囲気を持ったお店が多いという印象を受けました。もちろんそういったお店は必要なのですが、自分達はもっと敷居の低い、「ここなんだろう?」という気持ちでも入ってきてもらえるようなお店を作りたいと思いました。釣りがきっかけで入ってもらってもいいし、日本食のマナーに詳しくなくて高級店に入る自信がない人でも、ざうおに来てもらって少しずつ日本食を知ってもらったらいい。そう考えています。

企画書を見せて「何を考えているんだ」という反応をされる


――今お店では日本と変わらないシステム、サービスを提供できるようになっています。ここまでの道のりは大変だったのではないでしょうか? 魚一匹にしても生きたまま飲食店に常時運ぶのはアメリカでは珍しいですよね。

高橋 物件を決める前から業務内容の企画書を作成して、取引先などさまざまな人たちと交渉を始めましたが、確かに最初は誰からも「え? 何いってるの?」という反応をされました。生きた魚をタンクに入れてお客に釣らせるなんて何を考えているんだと(笑)。しかし、ざうおの米国進出は取引先などの関係者に賛同してもらえないと始まらないビジネスです。ビジネスプランの説明やリスクの洗い出しを丁寧に行った結果、周囲の一体感を作りあげることができたと思っています。
魚釣りができるレストラン「ざうお」が米進出 姿盛りに驚く客も
店内で釣りに熱中する現地の人たち


――当初はざうおは昨年オープン予定だったと聞いています。そのあたりにも苦労はあったのでしょうか。


高橋 今となっては過ぎた話ですが、特にライセンス関係などはスケジュール通り行きませんでした。ガスの工事だけで5カ月遅れ、その影響で当初採用予定だったスタッフたちの勤務開始日もまったく合わなくなるなど残念なこともありました。開店が遅れた間は、他の準備やニューヨークの飲食業界の調査など、それでもできることを頑張ってきました。


ニューヨークで感じた日本の客との違いは?


――オープン時の店内も拝見しましたが、皆さん本当に楽しそうですね。日本のざうおよりも、さらお客さんのリアクションが積極的で大きいように感じます。高橋さんは、日本のざうおのお客さんとの違いはどのあたりに感じますか?

高橋 メニューに関していえば、日本では8割のお客さまが刺身など生食での提供を希望されるのに対して、こちらのお客さまは生食と熱加工の比率が半々ぐらいですね。刺身は姿盛りで提供しているのですが、魚の頭をみて驚いてしまうお客さまもいらっしゃいました。刺身でオーダーしたけれども、普段刺身を食べなれていらっしゃらないからか、提供されたものの「やっぱり刺身は食べられない……」と言ってくるお客さまもいらっしゃいました。その時はもう一度こちらで天ぷらにしてお出ししました。楽しんでいただきたいので、わたしたちも結構何でもやります(笑)。
魚釣りができるレストラン「ざうお」が米進出 姿盛りに驚く客も
姿盛りの様子は慣れないアメリカ人客には衝撃を与えることもある


――刺身をオーダーしたけれども刺身を食べられない、という展開は日本だと珍しいですよね。でもお客さんがしっかり要望を伝えてくる感じは、実にアメリカ的な気もします。


高橋 お客さまからの反応、ご意見はニューヨークのお店の方がずっと多いです。日本ではお客さまが口に出さなくても何を考えていらっしゃるか読み取る力が求められますが、こちらだとお客さまがきちんとフィードバックをしてくるので、我々のように新しいことを手探りで進めている場合にはありがたくもあります。お店はオープンしてからまだ1カ月しか経っていませんが、すでにメニューはいろいろ変わりました。今も、お客さまのお刺身以外のニーズに応えつつ、寒くなるニューヨークの冬に丁度いいメニューを作ろうと考えています。お魚のしゃぶしゃぶとか。

――日々フル回転ですね。オープンしたばかりですが、アメリカの他の地域への店舗展開は検討していますか?

高橋 今のところないです。取引先やスタッフを含めた皆のロイヤリティを高めていくことがざうおの信念なので、出店ペースを上げることは全く考えていません。まずはお客さまが楽しいと思うことが最優先です。時間はかかっているかもしれませんが、一体感を作ることを重視したせいか、私自身もこちらでネガティブなことがあってもよく周りに支えられているように思います。
(迷探偵ハナン)
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