7月8日の閉店以来、大阪・道頓堀からくいだおれ太郎の姿が消えて約1カ月が経過。いつもの場所に太郎がいない! ということでさみしさを感じる一方、最近はTVでタレント的な活動をする太郎の姿をよく見かけるようになった。
先日などは、サザンオールスターズのCDプロモーションイベントにDJとして登場する太郎の姿が報道されたばかり。「団塊世代の象徴」ともいわれる太郎の、「第二の人生」に今後もますます注目が集まることは間違いない。

そんな中、遅ればせながら太郎が出版した著書『くいだおれ太郎のつぶやき。』を読んでみた。本書は、なんと人形である太郎の独白形式(!)で書かれているという前代未聞の内容。昭和24年に太郎が『くいだおれ』に就職した当時の大阪の街の様子にはじまり、59年間に起こった様々なできごとがコテコテの大阪弁で綴られている。


これがもー、太郎はただ毎日店頭に立ってタイコを叩いているだけではなかったんだな~、という驚きの内容! 「初めて雑誌のグラビアを飾ったのは『平凡パンチ』だった」などのネタは序の口として、昭和27年には林芙美子原作の映画『めし』に出演、平成20年にはブロードウェイミュージカルの『TRIP OF LOVE』にてミュージカルデビュー、さらに映画『インディ・ジョーンズ』のジャパン・プレミア試写会にはハリソン・フォード直々の招待を受け、レッド・カーペットの上を歩いた経験もアリ、という、並みの芸能人より輝かしい!? 経歴にはビックリ。
 
なお、個人的にツボだったのは平成5年に心斎橋筋にあるお茶屋さん『宇治園』の看板娘、おかめちゃんとひそかにお見合いをしていた、というエピソード。「おかめちゃん」というのは大阪人なら「ああ~、あの……」というほど界隈ではよく知られた着物姿の女の子キャラなのだが、残念ながらこの話はまとまらなかったらしい。
さらに、太郎は目の前にある『カニ道楽』の巨大カニを“永遠のライバル”として意識していたことを激白。「グリコのランナーはんも有名やけど、やっぱり飲食店の看板としては、カニやんに負けるわけにはいきまへん」とのことで、両者のあいだにはCF出演などを巡ってちょっとしたバトルが繰り広げられていたらしい。

さらに驚かされたのが、本書でたっぷりと見ることができる太郎のスナップ写真! そのどれもが人形とは思えないほど実に表情豊かなのだ。
巻末で桂三枝さんが「太郎はあんなおもろい格好してますけど、それゆえに悲哀が漂っている。だからほっとかれへんのですわ」とコメントしているのだが、確かに、おもしろおかしいだけでなく、時おり見せる太郎のさみしげだったり、悲しげだったりするなんともいえない表情、それが他にない独特の魅力となっているのかもしれませんね!?

それにしても読めば読むほど、くいだおれの閉店は大阪にとって象徴的なできごと、という気がしてくる。「日本では80年代以降、乱開発を繰り返してきた。団塊の世代はマネーゲームに走り、何も作ってこなかった。人を失い、情緒を失い続けてきた。『くいだおれ』はその犠牲者であり、『ひとつの大阪が終わった』と言えるのかな」とは、上田正樹さんのコメント。
一見、キワモノ的な本と思わせつつ、戦後から現在にいたるまでの都市論として読むこともできる名著ですよ!
(野崎 泉)

くいだおれ太郎HP
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