メジャーリーグを見ていて不思議に思うのが、ストライク(S)とボール(B)のカウントが日本と逆だということ。

日本は「S・B」の順だが、メジャーでは「B・S」の順に表示される。
これってなぜなんだろうか。
日本では「投手」目線から野球を観るのに対し、メジャーでは「打者」目線だということ?
ある野球雑誌の編集部に聞いてみたところ、
「あまりに古い歴史なので、正確な理由はわかってないんですよ」とのことだった。

また、別の野球雑誌の編集部でも、
「カウントが逆である理由は、諸説あるんですが、結論から言うと、わかっていません」

そこで、いろいろな資料を調べてみたところ、『にっぽん野球の系譜学』(坂上康博/青弓社)という本のなかに、興味深いこんな記述を見つけた。
「当時の野球は“打者中心のゲーム”であり、打者を三者凡退に仕留めることはきわめてむずかしかった。日本にはほとんどなじみがないが、イギリスやオーストラリアなど旧イギリス連邦で絶大な人気を誇っているクリケットに近いスポーツだったといっていいだろう」
当時は、ピッチャーの投球がワンバウンドしたあとでキャッチャーが受け止めるスタイルだったそうだが、さらに驚くべきは、打者と投手の関係である。
「打者は、自分の目から胸まで、胸から腰まで、腰から膝までの三つのなかから、自分の好みの高さの投球をピッチャーに要求することができた」

野球に親しんでいた正岡子規の『Base−Ball』(『明治文化資料叢書第十巻 スポーツ編』所収)にも、「pitcherの投げるボールも九度を限りとす」という記述があるように、ピッチャーにおいてはボールが9回まで認められていたという。

ただし、当時はストライクゾーンが狭く、打者が空振りしない限りストライクにならなかった一方、「ファールはいくら打ってもファールで、ストライクにはいっさいカウントされなかったが、ただしそれがゴロの場合は、捕球されればアウトとなった」とある(にっぽん野球の系譜学)。

ちなみに、日本に伝播した1872年の時点で、かなり投手有利なゲームになっていたと、『ベースボールと日本野球』(佐山和夫/中公文庫)には書かれている。
実は、日本では「投手有利なゲーム」になり、投手にとって有利な「S(ストライク)」からカウントされるようになった一方で、メジャーリーグだけでなく、ベースボールはもともと「打者中心」のゲームだったため、打者にとって有利な「B(ボール)」からカウントされるのが当然だったということのようだ。

日本では「投手戦」を「引き締まった試合」と感じ、好ましく思うのに対し、メジャーでは豪快な打撃戦が好まれる印象があるが、これは必ずしも偏見ではないのかもしれない。

これはあくまで「諸説」の1つに過ぎないけれど、「カウントの順序」から、野球というものに対しての見方の違いを考えるのも面白いかもしれません。
(田幸和歌子)