近所の商店街を歩くと、店先に置かれている何体かの招き猫に出会うことができる。今まであまり気に留めていなかったのだが、ある日夜中にテレビをつけたら招き猫の姿をした妖(あやかし)が出てくるアニメが放送されており、それが妙に可愛かったので、以来、実生活でもやたらと招き猫が気になるようになってしまったのだ。


そんなわけでいつも横目で招き猫の存在を確認しながら商店街を通行しているので、それぞれの店ごとの招き猫の特徴もだいぶ脳裏に刻まれた。そんなある日のこと、出先で蕎麦屋に入ろうとした際、ガラスケースの中の招き猫と目が合った。しかしながら私の記憶の中の招き猫像と、どこか違う気がする。何故?……と思案した結果、猫が左手を上げているからだということに気がついた。近所の商店街の招き猫たちが上げているのはすべて右手である。

友人に話したら「左手を上げているのはメスらしいよ」と言うし、過去のコネタ「豪徳寺にはどれぐらい招き猫が溢れているのか」「猫、48匹集めてみませんか」で紹介されたものでは「左上げは人招き」「左手は家内安全」とある。
招き猫は江戸時代に生まれた庶民的な江戸情緒のひとつで、口伝えのものも含めると由来もいろいろ存在するし諸説あるのだろうとは思ったが、気になったので、『招き猫の文化誌』(勉誠出版)を出版している「日本招猫倶楽部」に話をきいてみた。

「一般的に右上げは金招き、左上げは人招きと言われています。オス・メスについては俗説で、私の知る限り文献での記載はありません。個人的には縁起物は天使などと同じく性を超越した存在と考えています。また、色によっても招くものに違いがあり、三毛や白はスタンダードな開運招福、黒は金運と魔除け、金は金運、ピンクは恋愛成就、赤は病気除けと健康長寿、黄色は風水から金運を招くとされています」

なるほど、歴史あるものだけに奥深いものである。ちなみに日本招猫倶楽部とは1993年に設立された招き猫の愛好サークルで、現在会員数は約1000名。
古い招き猫の保存活動や招き猫イベントの支援活動も行っており、招き猫が好きであれば誰でも参加できるとか。

「私たちは決して“宝くじが当たる”、“良縁に恵まれる”等の現世的な御利益のために、招き猫を愛しているわけではありません。街角で招いている猫を見かけるたびに『ガンバレヨ!』と密かにエールを送り、その日一日を心楽しく過ごせる、おめでたい人々の集まりともいえるでしょう。招き猫を通じて、日々の生活が少しでも楽しく愉快なものになるよう活動を続けています。招き猫にこだわる理由は、招き猫に招かれたからとしか答えようがありません」

最近こんなにも招き猫が気になっている筆者も、もしかしたら招き猫に招かれたのでしょうか。質問に答えてくださった世話役の方は、日本の古いものと猫が好きで招き猫の収集・研究を始め、現在は約5000点のコレクションを愛知県瀬戸市の「招き猫ミュージアム」に寄贈して公開しているとか。


古くて新しく、やさしくて奥が深い招き猫の世界に、あなたも招かれてみませんか。
(磯谷佳江/studio woofoo)