長芋のとろろを前にした時、日本人ならそこに醤油を少し垂らし、アツアツの炊きたてご飯にたっぷりかけて、ガツガツとかきこみたいもの。まぐろの刺身にかけたり、牛丼にかけたりもするけれど、そのポジションはあくまでおかず、というのは日本人の共通認識ではなかろうか。


一方こちら韓国では、「伝統茶屋」と呼ばれる昔ながらの喫茶店で、コップに入った長芋のとろろが出されることがある。
「マジュプ」「サンマジュプ」と呼ばれるこのメニューは、価格表を見るとユズ茶や緑茶などとともにしれっと並んでおり、扱いはまさにドリンク。これは一体どういうことか。

周囲の韓国人に聞いてみるとこのマジュプは、主に年配の方が朝に飲む健康飲料、という位置づけにあるよう。
調理法は基本的に、皮をむいた長芋をミキサーにかけるだけ。好みによって生卵やハチミツ、バナナやイチゴなどのフルーツや、ナッツ類を入れることもある。
しかしご飯にかけたりということはないようで、やはりおかずではないことが伺える。
なお、話を聞いた20~30代の韓国人の中には、このマジュプが苦手な人、飲んだことのない人が結構多かった。ドリンクとしての長芋のとろろは、現地の人にも強烈な存在のようだ。

そんなマジュプに、先日私も挑戦してみた。場所はソウル市庁近くにある伝統茶屋。お昼過ぎにお店を訪れると、スーツ姿の中年やお年寄りの団体が机を囲んでいるが、一般的なカフェとは違い若者の姿は見られない。

メニュー表に「精力」という漢字が添えられ、存在感をみなぎらせるマジュプ6000ウォン(約450円)を注文。やがて私のテーブルに、泡立った白い液体がなみなみと入った、透明なボールが登場した。
日本のとろろに比べ液体に近いようだが、聞くところによるとこのお店では、長芋だけでなく牛乳をブレンドしているそう。これはまさに「とろろオレ」ではないか。

両手のひらでボールを包み、ぐいと一口。やや、これは……、何とも表現しがたい味である。
主張のない淡白な味わいに、クリーミーかつ粘り気のある未知の食感が際立つ。その奥で、長芋の香りがくすぶる感じ、とでも言おうか。
何より「とろろをドリンクとして飲む」という行為自体が、私の中で違和感があったが、三口ぐらい飲むと慣れてきて、ひんやりとした物体が喉を通過する感触が、むしろ快感になってきた。

「マジュプは味がないから、初めて飲むならこれを混ぜたらいいですよ」と、お店の人が持ってきてくれたのが、なんと“りんごシャーベット”だ。
マジュプを半分ぐらい飲んだところで、さっそくこれを投入してみたところ、ものの見事に、「とろろオレにりんごシャーベットを混ぜたもの」と言う説明がしっくりくる味となった。さっきより飲みやすいと言えなくもないけど、個人的には混ぜないほうが好きです(とはいえ、この「何でも混ぜてみる」食べ方が、ピビンバを生んだ韓国ならではと妙に納得してみたり)。


お店の人によると、マジュプは胃に良い飲み物だということ。韓国旅行の際、辛い食べ物を食べ続け胃が疲れてしまったら、パンなど洋風の食べ物に逃げるのもいいけれど、あえてこのマジュプに挑戦して、韓国料理の深い森へずぶずぶと突き進んでいくのもいいかも。
(清水2000)