6年間飼育していた巨大な金魚が、とうとう他界してしまった。
奇しくもその2週間ほど前に、我が家にやってきたゲンゴロウ。
行きがかり上、我が家の第二の長寿ペットを目指すことになったのだが、早々にぶつかったのは、エサ問題である。

水生昆虫と魚を比べるのもナンセンスだが、尾を振ってエサをねだり、エサを投入するとド迫力で食らいつく金魚と違い、ゲンゴロウのはかなさときたら。

水中に煮干しなどを入れると、しばらく微動だにせず、反応するのは早くて20~30秒後。しかも、気づいた後も、ただグルグル回転したり、あさってのほうを泳いで探し回る。
気の毒に思い、手渡ししてみると、いったんつかんだは良いが、すぐに落下。今度は落とした場所がわからず、再びグルグル泳ぎ回って、ときにはとうとう見つけられず、諦めて寝てしまうという有様だ。


そんな姿を見るにつけ、どうしても抑えられないのは、「どれだけ目も鼻も悪いんだ!?」という疑問だ。
都内の野生のゲンゴロウが絶滅したニュースが先日報じられていたが、ペットとして安全を約束されている彼ですら「大丈夫か?」と問いたくなる。
ゲンゴロウはどうやってエサを認識しているのだろうか。昆虫館でゲンゴロウを飼育する多摩動物公園教育普及係に聞いた。

「エサの種類や状態にもよりますが、ゲンゴロウは水中ではほぼ嗅覚(鼻はないので触角を使っています)のみでエサを探しています。主に獲物の体液や死臭などで嗅ぎ分けます。
そのため、目の前にエサがあろうとも、水の流れなどで匂いが漂ってこなければなかなか気が付きません」
また、肉食昆虫はたいてい数日おきにエサを食べるので、ゲンゴロウも満腹時やエサが気に入らなければ寄ってさえ来ないという。ちなみに、昆虫園での飼育下では、エサを投入すれば1分以内には反応していたそうだ。

そもそも視力はどうなのか。
「視力(認識できる距離)については、そもそも昆虫全般が非常に悪いようです(『見える光、見えない光』日本比較生理生化学会編/共立出版)。ゲンゴロウに関しては、生活に必要な明暗の感知には敏感ですが、視力そのものはあまり良い方ではないと思われます。ただし、昆虫は眼が退化している・ほとんど使用していないグループも多いので、眼を使っている部類での比較ですが」
同じ水生昆虫同士の比較では、タガメやミズカマキリたちの方が若干良いように見えるものの、彼らも獲物を捕らえる際、水の振動なども利用しているので、眼だけに頼っていることは稀なのだとか。


では、嗅覚・聴覚は?
「人間とは体の構造が全く異なるため、嗅覚は頭部の触角に機能が集約され、耳については、音をコミュニケーションに用いる昆虫では発達していますが(頭部ではなく脚や胸部などにある)、大半の昆虫は、全身もしくは全身に生えている微毛で空気の振動を感じとれるので、持っていないことが多いです。ゲンゴロウも、普段は水中生活をしており、また、特定の音を聞き分ける必要がないため、聴覚は発達していないと思われます」

魚との比較については……。
「魚の反応が早いのは、視力が良い以外にも、『飼育しているから』という点も大きいと思います。魚は慣れてくると、エサのタイミングや人の動きを覚えてしまうので」

知らないことだらけのゲンゴロウ。じっくりつきあっていきたいです。
(田幸和歌子)