エドガー・アラン・ポーやエラリイ・クイーン、ウイリアム・アイリッシュ、コナン・ドイル、ジュール・ヴェルヌ、スチーブンスンなど。子どもの頃、海外の推理小説やミステリー、SF、幻想文学などに夢中になったという人は多いはず。


ところで、そんな名作をマンガにしてしまった珍シリーズがあったことをご存知だろうか。
昭和53~54年に刊行された、主婦の友社の「TOMOコミックス名作ミステリー」(全30巻)だ。

現在は絶版になっているシリーズだが、先日、古本屋でこの中の1冊『TOMOコミックス名作ミステリー 黒猫』(原作/エドガー・アラン・ポー、劇画/かどい文雄)を入手した。
巻末にあるラインナップを見てみると、「世界の傑作を厳選・翻訳、一流漫画家がコミック化!」とうたっているだけに、セレクトされている作品は粒揃い。
にもかかわらず、驚くのは、そのラインナップにマンガ家の名前だけが掲載され、ウリになるはずの原作者・海外のSF&ミステリー作家のお歴々の名前が一切書かれていないこと!
この『黒猫』も劇画家の名前ばかりが大きく太く書かれ、ポーはオマケのような扱いである。

さて、肝心の中身だが、「劇画でポーを読む」ということが、ここまで面白いというのは、正直、意外だった。

登場人物がみんなケツアゴだというのも新鮮だが、ポーの詩的で美しい文章、圧倒的な描写力が、劇画によって荒々しく肉感的になっている面白さ。
80年代以降、“劇画調のギャグ”という手法が確立されてしまっている今読むと、木に吊るされた哀れな黒猫の「バーンッ」というおどろおどろしい書き文字や、警察たちの落胆する様子の書き文字「ショボ~ン」などが、内容的に不謹慎ながら、もうギャグにしか見えない。

そして、主人公の語りで明かされる絶望的な結末――。
「妻の死体は半分以上が溶けかかり……その頭の上に……いたんですよ……あいつが……片目でわたしをにらみ……まっ赤な口をあけて……」
これ、まるで稲川淳二ではないですか! もしくは、稲川淳二のモノマネでグルメレポートネタをするBBゴロー!?
そうか、エドガー・アラン・ポーの物語を稲川淳二が語ったら、こんな感じになるのかも?

あまりの面白さに、同シリーズの作品(『地底旅行』『女吸血鬼カーミラ』『黒衣の花嫁』『幻の女』『夜歩く』など)を集めたくなってしまったが、残念ながら、古本屋でたまに見かけるものも高値がついていて、かなり入手困難のよう。

この手法で、いま人気の漫画家さんたちが往年のSF&推理&ミステリーを漫画化してくれたら良いのに……などと願ってしまいます。
(田幸和歌子)