急激な右下腹部の痛みに、「もしかして盲腸?」と不安に思ったことはないだろうか。

かつて「盲腸(炎)」と呼ばれていた「虫垂炎(急性虫垂炎)」。

盲腸の先の突起部分「虫垂」が炎症を起こしたものだが、急な痛みで「盲腸?」と疑い、全く違っていた……という経験をしたことのある人は多いもの。

では、本当の虫垂炎って、どう違うのか。
独立行政法人まつもと医療センター松本病院外科・救急医療部長の小池祥一郎医師に聞いた。

「『急に右の下っ腹が痛くなった』と言って受診する人は多いですが、『急に痛くなった』という人のは、たいてい違います。虫垂炎は炎症なので、数時間から数日かかかるのが一般的で、痛みの前に様々な前駆症状があるものなんですよ」
なんと、自分で「盲腸?」と診断する人はほぼ100%(!)と違うそうだ。

炎症の程度によっても違うが、前駆症状としては、以下のような症状が見られる。


・風邪っぽい
・みぞおちあたりが痛いとか、モヤモヤする
・食欲がない(おなかが張る、吐き気がする)
・微熱(子どもの場合は、38~39度の高熱になることも)

「虫垂炎の診断は診察と血液検査だけでは難しく、個人のクリニック・医院ではCTなどの検査ができないため、『虫垂炎の可能性がある』と診断されたものでも、実際に虫垂炎である場合は半数ぐらいですね」
なかには、家族などが虫垂炎を経験していて、経過を間近で見ていたことから自分でわかる人もいるそうだが、その前に医師には「風邪」「胃腸炎」と言われて帰されているケースもあるのだそうだ。

「最近はあまり切らないでクスリで散らすんだよ」などとも聞くけど、手術は本当に減っいるのだろうか。
「20~30年前に比べると、確かに手術は減っています。超音波検査やCTによる診断の精度が上がって他の原因のものを切らずにすむようになったのが、理由のひとつですね。昔は『右腹が痛い』というだけで『盲腸だ』とすぐ切ってしまったので、違う原因でも切られていたことがありました。よくわからないまま正常に近い虫垂をとってしまったという人も、50代以上の人には多いと思います」(切除した虫垂の病理検査もしていない)
さらに、手術が減っている理由としては、虫垂炎の炎症の進み具合<カタル性(軽度)、蜂窩織炎性(中等度)、壊疸性(高度)の三段階>によって、抗生物質で治せるものが出ていることもあるそうだ。


ところで、悩ましいのは、虫垂炎を疑う場合、まず何科にかかるかということだ。
「一般的に内科にかかると抗生剤、外科にかかると手術という傾向はありますが、注意したいのは子どもの場合です。まず小児科にかかって、『腸炎だろう』と抗生剤を出しても、子どもは進行が早いため、1~2日で破れてお腹に膿がたまり、39度~40℃という熱が続いて『個人のクリニック→大きい病院の小児科→外科に紹介』というケースが多いんです。大きい病院の小児科から、内科に行くと、そこで抗生剤で時間をかけて治る場合もありますが、その一方でひどい癒着が起こり、不妊などにつながる可能性もあるんですよ」
何科にかかるかはすごく難しい問題だが、「小児科・内科・外科が揃っていて、連携が良いところ」「切るか切らないかのラインを含め、外科・内科どちらにもみてもらうのがベスト」だという。

ちなみに、学童期に多く、ピークは10~20代とはいえ、基本的にはいつまでもなる可能性のある「虫垂炎」。気をつけたいのは「急な右腹の痛み」ではなく、様々な前駆症状と経過を見逃さないことのようです。

(田幸和歌子)