「ボルドー周辺には三つの川が流れています。ガロンヌ川とドルドーニュ川。そして二つの河川が合流してジロンド川になります。それら三本の河川により運ばれた土壌が、ブドウ栽培に適した砂利などが多く含む水はけの良い土地を作りました。また大西洋岸のボルドー周辺は温暖な海洋性気候です。これもブドウ栽培に好適です」
そもそも地理的な条件がそろっていたのだ。ところで、ボルドーと言えば「五大シャトー」。これは世界的に有名なフランスにある五つのワイナリーを指しているのだが、どんな経緯で決まったの?
「元々、五大シャトーは四大シャトー(ラフィット・ロートシルト、マルゴー、ラトゥール、オー・ブリオン)でした。そして発端は1855年のパリ万博にさかのぼります。政府が万博でボルドーワインを出品する際、ボルドー商工会議所は500以上あるメドック地区内のシャトーから選りすぐりのものを決めたのです。格付けとはブドウを栽培する畑の格付けなので、下がることはありません。
“五大”シャトーになったのは結構最近なのですね。ではボルドーのワイン生産をおこなうシャトーも、日本の農業のように家族経営が多いのだろうか?
「ボルドーの場合、家族経営は少なく主に大資本によって運営されています。そしてワイン産業以外の資本がシャトーを持っている例も多いです。例えば五大シャトーのラフィット・ロートシルトやムートン・ロートシルトを所有するのはユダヤ系金融財閥ですし、ルイ・ヴィトンやシャネルといったファッションブランドが取得したシャトーもあります。日本はサントリーなどがシャトーを持っています」
なるほど。様々な産業がボルドーワインを支え、フランスのワイン文化を育てたのか。
「じつはフランスだけとは限りません。そもそもボルドーはイギリス領だった時期もあります。はじめフランス王妃だったアリエノール・ダキテーヌは、フランス王ルイ7世との離婚後、1152年に後のイギリス王ヘンリー2世と結婚します。結果、アリエノールとともにボルドーはイギリス領になりました。そしてフランス領に戻るまでの約300年間、ボルドーは気候的にワインをつくれないイギリスへの重要なワイン供給地となり、大いに栄えたのです」
奥が深しボルドーワインの歴史! 背景を知りつつ飲んだら、さらにボルドーワインが好きになりました。
(加藤亨延)