去る年末の「紅白歌合戦」を、筆者も家族や親戚たちといっしょに見た。「マル・マル・モリ・モリ!」が始まると、大ハシャギするチビッ子たち。
小学生の甥はAKB48に、中学生の姪はNYCなるアイドルグループの出番に大興奮。30代である筆者の妻は、長年ファンである浜崎あゆみの歌に見入る。

だが、50代、60代の、筆者の両親および叔父・叔母連中は、それらにあまり興味を示さない。演歌歌手の川中美幸が歌い始めてようやく、テレビに目を向け始めた。その後も両親たち50~60代は、演歌の出番になるとテレビ、演歌以外の時はテレビから離れて会話などを楽しむ。逆に、子供たち、それに20代~30代の連中は、演歌以外のときはテレビ、演歌になるとテレビから離れて別のことをする、というのを繰り返した。

なぜ、中高年世代は演歌が好きなのだろう。若年層は、なぜ演歌に興味が無いのだろう。このまま時代が移り変わり、いまの若年層が中高年になる頃には、演歌は衰退しきってしまうのか。そもそも、演歌とはいったい何なのか。

その問いに、鎌倉を拠点に歌手・作詞作曲家として長年活動している、「よかにせどん」の本田修一さんが答えてくれた。

「演歌とは、“演ずる歌”と書きます。
約3分間の曲と詞の中に、人生や情愛、情念、思い出などが凝縮されている。それを非常にわかりやすく、歌いやすい形で表現したものが演歌である、といえるでしょう」と、本田さん。「わかりやすく、歌いやすいからこそ、演歌は誰でも参加ができるし、参加したくなるんです」

この「参加しやすい」「参加したくなる」演歌の特長を生かしたNPO法人を、2011年に本田さんは立ち上げた。それが、「国際芸術音楽学会」である。活動の目的は、音楽を通じて公共の福祉に寄与すること。たとえば、本田さんが経営するスタジオ「よかすた」(神奈川県鎌倉市大船1-19昌和ビル4F)で演歌ファンが歌い、楽しんだお金をNPOの活動資金に回し、様々な形で社会的弱者支援、福祉支援等に充てている。

東日本大震災があって以降、自分たちも何かできないかと本田さんは考えていたという。「我々、音楽で生きている人間にできることといえば、やはり音楽を通じた活動しかないだろうと。演歌は、親しみやすい音楽だからこそ、ファンはCDで聴くだけでなく自分でも歌いたいと思う。参加したくなるんです。そして、演歌の世界に参加するようになったら、今度はもっともっと上手に歌えるようになりたいと思う。そんな演歌好きが演歌を歌い、練習し、楽しんだお金を災害復興や弱者救済に生かせれば、お金を出す側も幸せになれると思い、このNPO活動を始めました」

誰でも楽しめる演歌のリズムは、心臓の鼓動のリズムと同じだという。
「だから、人間の生理的にも受け入れやすい音楽というわけです」と本田さんは話す。聞けば、演歌には決まり事なども特に無いのだという。「若い方々にしてみれば、演歌はどの曲も似通って聴こえるかもしれませんね。しかし、キチンと聴けば、当然のようにどの曲にも個性があります。演歌には、こういうメロディでなくてはいけないとか、曲の構成、歌詞の書き方などにルールはありません。こぶしやビブラートも多くの演歌で用いられてはいますが、無くてはならないというわけではないんです」。わかりやすくて歌いやすい上に、自由度も高いのであれば、たしかに、誰でも参加しやすいジャンルの音楽といえる。

しかし、そんな演歌も、若い人たちにはあまり支持されていませんよね? 「実は、そんなこともないんです」と本田さん。「たしかに、若い方々が主に聴くのは、J-POPなどでしょう。ですが、たとえば人気アイドルグループの方がソロとして演歌を歌ったり、氷川きよしさん、ジェロさんといった若手演歌歌手も活躍していたりします。これらに興味を持つ若い方は非常に多いんです。演歌だけを聴く若い方はあまりいないかもしれませんが、J-POPなどと合わせて演歌を楽しむ若者が、いま増えていますよ」

そして、本田さんは、演歌の未来をこう見ている。
「演歌は、人生や思い出を歌うものです。若い方々はカッコ良さやオシャレなものに目が向きがちですが、やがて様々な経験を積んでいくと、人生や思い出を大切にするようになる。すると、演歌の良さがわかり、演歌に慣れ親しんでいく。演歌を多く聴くようになると、今度は自分でも歌いたくなります。参加したくなるのが、演歌の魅力ですから。そうして演歌は、これからもずっと日本人に愛され続けていくはずです」

インタビューには、本田さんの事務所に所属するアンジェリカさんも同席してくれた。アンジェリカさんは本田さんの実の娘で、CDも出しているアーティストだ。リリースしたCDの中には演歌歌手とのコラボレーション物もあり、親子二代で演歌に親しんでいる。「若い人たちにも、もっともっと演歌を楽しんでほしいです」とアンジェリカさんは話してくれた。

あのイチローも、メジャーリーグの試合で打席に入る際のテーマソングとして、以前には石川さゆりの「天城越え」を使用していた。演歌は、日本独自の音楽ジャンルである。異国の地で日本人として戦う姿勢を、もしかしたらイチローは表したかったのかもしれない。


1月25日発売の、本田さんの新曲「なごり雪」「待っててあげる」のCDをいただいたので、さっそく聴いてみると。アレ……。何コレ……。超いいじゃん……。今回の取材によって演歌のことを深く知った、筆者の心にスーッと染みる。聴きやすく、覚えやすいので、自然と口ずさむようにもなった。なるほど。これが、演歌が持つ“参加したくなる魅力”というものか。
(木村吉貴/studio woofoo)
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