大阪・日本橋に、猟銃が入った自動販売機を置いている店がある。ここは「山小屋風居酒屋 KEMONO(ケモノ:以下、KEMONO)」というジビエ専門店。
「興味をもって入って来てくれる方もいれば、インパクトがあり過ぎて抵抗を感じる方もいるみたいです 」(森島さん、以下同)
店内は古い山小屋をイメージして壁はトタン。模造銃や薬きょう、熊や鹿、猪のはく製も飾られている。
「『ジビエ専門店』っていう雰囲気を出したかったんです」
熊肉ですき焼き!?
取材当日にいただいたのは「熊のすき焼き」(時価)。赤身の熊肉とともに、スーパーではあまり見かけないキノコや野菜が大皿に盛り付けられている。たとえば鮮やかなピンク色のキノコは「トキイロヒラタケ」、緑の山菜はセリである。
「店で仕入れるのではなく、なるべく猟師さんが山で採ってきたキノコや山菜を使います。山で採れるものを主張していきたい」
自家製の「わりした」が良くしみた熊肉は柔らかく、脂にはほのかな甘みがある。香り高いセリがアクセントになっていた。
「熊の旬は秋ですね。夏も捕れるのですが、脂がのっておいしいのは冬眠に向かって脂をたくわえる秋なんですね」
熊の他に「KEMONO」で扱っているのは鹿や猪、あなぐま、キジ、マガモなど。秋から冬にかけての時期には種類豊富なジビエが獲れ、おいしいのだという。
大好きなジビエで猟師さんを応援したい
2017年の12月末にオープンした「KEMONO」。オーナーの森島さんはジビエ好きで「猟師さんの友達がいて、肉をもらったりした」という。ジビエのおいしさを、より多くの人に伝えたいと思いお店を立ち上げた。またジビエブームで注目が集まっていること、野生動物による被害に悩まされる自治体の、ジビエを特産品にしようという気運が高まってきたこともチャンスと考えたようだ。
ディスプレイされているベストには「広島県」と書かれているが、実際に広島県の猟師からもらったものだという。
「肉は北海道から九州までの猟師さんから直接仕入れていますが、グループ会社で立ち上げた処理施設のある、広島県福山市から仕入れることが多いですね」
処理施設とは聞き慣れない名前だが、ジビエ専門の解体処理加工施設で、肉を猟師から買い取り、店舗などに販売する役割もあるという。猟師が自分で販売すると、違法になってしまうそうだ。「KEMONO」では多くの肉を、グループ会社の処理施設から仕入れている。
「福山市には猟師さんがたくさんいたけども、立ちあげる前までは処理施設がないから、猟師さんは肉を売るところがなく困っていました。儲からなければ後継者が育たない」
処理施設で猟師と消費者をつなげて、猟を活気づけられたらと森島さんは考えている。また、処理施設を通した新鮮な肉は臭みがなく、おいしいと自信をもっている。
「ジビエは家畜ではなく、猟師さんが命を賭けて獲ってくるもの。だからどうしても値段が高くなってしまうものなんです。
女性だけの来店も
ブームとは言え、まだまだ食べたことがない人も多いジビエ。
「『ケモノ臭いんでしょ』という方や『興味があるけど初めて食べる』というお客様が多いのですが、おいしく食べてくれる人がほとんどです」
臭みのない「KEMONO」の肉は、ジビエ好きな人ばかりではなく「ジビエ初心者」にも食べやすく、繰り返し来店する人も少なくないという。オープンからまだ1年に満たないものの、すでに常連客がいるそうだ。女性だけでの来店も増えてきたという。
また、日本橋という土地柄、外国人の観光客が来店することがある。ジビエの本場、フランスからの観光客が、滞在中何度も店に来たそうだ。しかし、オーナーの森島さんはインバウンドを狙わず、まずは日本に住む人に広まってほしいと考えている。
「新鮮なジビエが豊富にあり、専門店として他店とちがうと自信を持ってやっています」
今後は、大阪を中心に新しく出店していこうと計画中だという。
(谷町邦子)
【山小屋風居酒屋 KEMONO】
大阪市中央区千日前1-6-6 明日香ビル1F
電話:06-6213-2323
定休:水曜日
HP:https://kemono-pub.com/