台湾のロケット花火祭りに参加してみた 恐怖と好奇心でドMに目覚めていく【動画あり】
飛び散るロケット花火

突然友人から「ロケット花火が飛んでくるお祭りに行かない?」と誘われた。祭りというのは台南の鹽水という場所で行われる「鹽水蜂炮」という祭事である。

現在私は台湾の台中に住んでいる。最初は「危険そうだし、台南までは遠いし行かない」とその友人に返事をした。しかし偶然にも数分後に別の友人から再び「台南の祭り行かない?」と誘われた。そこまで友人たちが行きたがる鹽水蜂炮とはどんな祭りなのだろうか……。

台湾宗教文化資産のサイトで調べたところ、起源は19世紀末中国清朝当時に遡るという。当時、鹽水には伝染病が流行り、医療も整っていなかったため死者が続出していたそうだ。そこで、民衆は神さまである「関聖帝君(三国志に登場する関羽が神格化した神さま)」に言葉を仰いだ。すると関聖帝君は、元宵節(旧暦1月15日、日本でいうところの小正月にあたり、元宵節を迎えて正月が終了する)の夜、神輿を先頭にその後ろに爆竹を鳴らし、夜明けまで街を練り歩けば疫病は治まると民衆に告げた。その後、本当に疫病の流行が治まったため、その後も毎年恒例の行事として、元宵節の夜に関聖帝君を迎え、街中を巡回するようになったそうだ。
台湾のロケット花火祭りに参加してみた 恐怖と好奇心でドMに目覚めていく【動画あり】
関聖帝君の神輿

いろいろ調べているうちに「そんなに有名なの? 日帰りできるなら行こうかな。滅多にない機会だし」という気分になり、行くことを決意。台湾を代表する危険な祭りに参加してきた。
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今回の参加者(一番左が筆者)


祭りに必要なものはフルフェイスのヘルメット!


今年の鹽水蜂炮は2月18日と19日(旧暦1月14日、15日)に開かれた。世界三大民俗祭りの一つにも数えられるほど台湾を代表する宗教的なお祭りだ。元宵節の夜、関聖帝君の神輿が大勢の民衆と観光客に囲まれながら街中を練り歩く。神輿が店や家の前を通ると、当番の人が砲台(砲城)を路上に運び出し一斉に火を放つ。台湾の人はロケット花火に当たり続けることで、この一年の無病息災と商売繁盛を祈るのだ。

ロケット花火が直撃する可能性があるため、当然服装にも気をつけなければならない。会場はフルフェイスのヘルメットをかぶった人だらけ。なぜなら顔の負傷を防ぐ装備は必須だからだ。さすが台湾の奇祭……。さらにそこへ首を保護するためのタオルを巻く。
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フルフェイスのヘルメットにタオルで備える参加者のおじさん

下半身はロケット花火の衝撃に耐えうるような服装、例えばジーンズを二枚履きにしたりする。ただし、この時期の台南は暑いため、私はジーンズ一枚で参加した。上着は綿や羊毛など燃えにくい素材を選び、汚れてもいい靴をはく。手をやけどから守る手袋も必要だ。これらのアイテムは会場付近で販売されていて現地調達も可能だった。


セクシーポールダンサーは神さま向けのエンタメ


祭り会場付近では、そこかしこで普通の花火や爆竹が炸裂していた。当然、気分は否が応でも盛り上がってくる。赤ちゃんや子供もいて正直驚いた。さらに歩くうちに、小さなお寺をいくつか見かけた。そしてお寺の前には小さな神輿が置かれている。神輿が街を練り歩き、ところどころで止まり、ロケット花火をこの神輿目掛けて発射するためだ。

さらには野外のクラブかと見紛うほどキラキラと光るド派手な車が、大きなスピーカーを積んで音楽ガンガン鳴らしながら、ポールダンスをするセクシーなお姉さんを乗せている。これは祭りとどんな関係があるのかと一緒に参加した台湾人の友人に聞いてみると、この踊りも神への捧げ物だという。「いや、これは明らかに人間の男性が楽しんでいるだけなのでは……。それなら女神向けのイケメンダンサーもください!」など疑問を感じつつ見学。伝統的な祭りとアンマッチな雰囲気も台湾ならではだ。
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車の上でポールダンスをするお姉さん

途中で人だかりができているので覗き込むと、やんちゃそうな若者から年配者まで、大きな竹に吊るされた壺を目掛けて大きな爆竹を投げていた。爆竹を販売している店員さんに話を聞くと、爆竹を投げて竹に吊るされたツボの穴に入れる運試しのゲームだという。その穴に見事に入れば賞金が貰え、さらにこの一年幸運に恵まれるそうで、みんな必死になっていた。爆発音はかなり大きく、投げた爆竹が人混み落ちることもある。近くを通るのも勇気がいる。


こうして民衆はドMに目覚めていく



しばらく行くと、今度は学校の敷地に花火が鈴なりになったナイアガラの滝のような仕掛けとロケット花火の発射台が置かれていた。いよいよ本番である。傍の大きなステージでは司会者の説明が一通り済むと、ロケット花火にいよいよ火が点けられる。すると火花を浴びるため信心深いドM(?)の皆さんが集まってきた。そしてロケット花火は、轟音ともに目を輝かせる彼らめがけて斉射されたのだった。
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祭り会場で仕掛けられたナイアガラの滝の花火

一緒に行った友人と私は、祭りのためだけにフルフェイスのヘルメットを買うのは高いという理由で、2人で1つだけ買い交互に被り合おうと約束していた。ロケット花火が届かない場所で一人は待機し、順次交代する作戦だ。
しかし、ヘルメットを被ったところで、ももや腕などに何度もロケット花火が当たって弾けるため、思ったよりかなり痛い……。
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透明の波板を装備した人々

花火からの退避先を求めて人の影に隠れようとするも、そこかしこからロケット花火は飛んでくるため避けられない。会場には消防服を着て対策万全の人や透明の波板を楯として用意した人もいた。彼らは周囲の参加者から人気で、皆その影に隠れようと移動するのだ。当初は私も及び腰だった。しかし後半になるとさらなる恐怖への好奇心が止まらず、どんどん前の方へ進んだ。

「最前列付近は一体どれくらいの恐ろしさなのかしら?」

先ほどまでは「ドMの皆さん、よくやるよね」と若干上から目線の私だったが、みんなで花火に打たれ続けるうちに知らない人たちとも不思議な一体感を感じてきた。大勢で恐怖に耐える面白さがこみ上げてきたのだ。ふと気づくと私も次のロケット花火の神輿をめがけて皆と一緒に走っていた……どうやら私もドMだったようです!
(さっきー)