サッカー少年なら国の東西を問わず誰しも夢見る大舞台。
グアム。
常夏の島。人口17万の島に毎年90万人以上訪れる世界的リゾートも、ことサッカーに関しては世界最弱国のひとつだ。
FIFA(国際サッカー連盟)ランキング208カ国中、194位(2012/4/18現在。同日本30位)。W杯からはもっとも遠い場所に位置するこの小さな島が本気で上を目指し始めた。そして日本がその挑戦に大きな力を貸している。
近々、将来のサッカーグアム代表を育成することを目的とする「ナショナルアカデミー」が開設される。グアム初となった全島的トライアウトも実施され、イングランドから代表監督も招聘し、本気の様子が伺える。
グアムサッカー界の挑戦について男子代表監督兼グアムナショナルチーム統括テクニカルディレクターであるGary White氏に話を聞いた。
「グアムのサッカーは変わりますよ」
真っ直ぐ射抜くような目でWhite氏は語る。
5月から始まるナショナルアカデミーの内容は驚くほど充実している。U-8(8歳以下)、U-10、U12、U14に分かれて選抜されるメンバーは平日週5日間トレーニングセンターに招集される。
「4時からは栄養補助食を間食として出し、そのあとに学校の宿題をやります。毎日算数と英語の先生が常駐し、質問に答えられるようになっています。練習はそれからです」
学業にも力を入れていることに感心しているとWhite氏は続けた。
「子どもたちはサッカー選手として一生を終えません。サッカーを通じて責任あるコミュニティーの一員になってくれればと思っています。またアメリカには100以上の大学がサッカー奨学生を取っています。アカデミー生が奨学生となってレベルの高いサッカーを経験して戻ってくれば、それはグアムサッカー界にとってもプラスになるでしょう」
もちろん指導面も充実している。かつてバハマの代表監督として実績も積んでいるWhite氏が統括テクニカルディレクターとしてU8からフル代表にいたるまで全グアム代表のテクニックと戦術を監修する。また人工芝のピッチ3面に、フットサルコート2面、さらにはビーチサッカーのコートまで完備されている。FIFAランキング最下位近辺のチームとは思えない。
「過去10年間、グアムサッカー協会(GFA)は普及と施設の拡充に努めてきました。おかげで今やサッカーは野球、バスケ、アメリカンフットボールを差し置いてグアムのナンバーワンスポーツになりました」
しかし施設を整えるにもWhite氏のような代表監督を招聘するにもグアムのような小さな島にとって金銭的な負担はかなり大きいはずだ。
「日本サッカー協会(JFA)の支援があってこそなんです」
White氏によるとJFAは資金面や人材の派遣などでグアムのサッカー発展に大きく寄与している。一体なぜJFAはグアムを支援するのだろうか。
「グアムを弟のような存在に思ってくれているのだと思います。またあまり知られていませんが、JFAはグアムだけでなく、アジアの盟主としてアジア全域でサッカーの普及活動に力を入れているんですよ」
強化が成功すればグアムのサッカーは間違いなく強くなるだろう。それでもアジアオセアニア地区を勝ち上がってW杯に出場するというのは現実的ではない。White氏に具体的な目標を聞いてみた。
「地域で一番の選手育成プログラムを完成させることです」
力強く答えるWhite氏に現在地区で一番のプログラムを持っているのはどこか尋ねた。
「もちろん日本ですよ。ゲームで日本に勝つことは難しいかもしれませんが、強化体制だったら日本をも凌ぐ世界トップクラスのものが築けるはずです」
将来はJリーグの指導者になってみたいというWhite氏の語る表情は真剣そのものだ。
兄貴分を越えることによって恩返しを果たそうとするサッカー発展途上の小さな島の挑戦は始まっている。
(鶴賀太郎)