口元にご飯粒を付けていると「お弁当付けて、どこ行くのー♪」って、よくからかわれませんでした? そう、小さい頃に。牧歌的で、ハートウォーミングな思い出ですよね。

でも、大人になってもそんな人はいるらしい。それも、敢えてファッションとして。

というのも、食品サンプルを製造・販売する「株式会社 畑中」が、なぜかアクセサリーの製作にまで手を出しているらしく。
いや、それは良いですよ。しかしそのどれもが、あまりにもあまりにも。「ミートソーススパゲッティーのリング」、「ホットケーキのネックレス」、「ベーコンとスクランブルエッグのバレッタ」……。


どうしちゃったのか。何で、こういう事をしている? その辺を、同社に問い詰めました。
「そもそも“食品サンプル”自体、技術力として非常に高いものなんじゃないか? と思っていたんです。ただここ20年、業界全体が値段競争に入ってしまい、物に見合った価格設定になっておりません。もう、各社が疲弊しているんですね」(同社・畑中氏)
だからこそ、新境地を開拓したい。しかし、どうすれば良いのだろう? 言っても、専門家は視野が“深く狭く”になりがちだ。


しかして転機は、会社ホームページを起ち上げた5年前に訪れた。
「より激しい競争に巻き込まれそうな気がして、インターネットの世界は敬遠していたんです。でも、もうそんな事も言っていられない。そこでホームページを開設すると、業界外から発注が寄せられました」(畑中氏)
まずは、医療業界からコンタクトが。「カビの生えた食品サンプルを作れませんか?」、「歯のサンプルを作れませんか?」と、今までにない発注が寄せられたのだ。食品サンプル製作による技術力を持ってすれば、それらの発注には確実に応えることができる。
また、業界外は確実に「資金」も持っていた。
「こういうニーズがあるとは、思いもよりませんでした。業界の外には、無限の可能性があったんですね」(畑中氏)

それを証明するのは、同社の現時点における仕事相手。もう、ほぼ「デザイン業界」になってしまっている。この現状は、完全に想定外だった。
「諏訪綾子さんや清川あさみさんとの仕事により、完全に視界が広がりました」(畑中氏)

そこで同社、今度はショップを起ち上げた。
通常の食品サンプルはもちろん、アクセサリーにまで及ぶ商品展開が特色の「FAKE FOOD HATANAKA」のオープンである。
そして、これが大成功。2年前の開店以来、業績はずっと右肩上がりだというのである。前述の「ミートソーススパゲッティーのリング」、「ホットケーキのネックレス」といった商品たちには、確かなニーズがあったのだ。
「主に10代後半から20代の女性に注目していただいております。正直、『出せば売れる』という状況ですかね……」(畑中氏)
同社が心掛ける点は、「コーディネートに気をつければ、ちゃんとファッションとして成立する」というライン。
だって、決して“おもちゃ”ではないのだから。また「食品サンプルのみを使用する」という点にもこだわっている。ゴールドを散りばめてしまったり、妙な脱線はご法度。

そんな同店が販売した第1号商品は、『目玉焼きのピアス』と『ベーコンとブラックペッパーのピアス』である。
「特に『ベーコンとブラックペッパーのピアス』は、ショップの歴史に残る人気アクセサリーです。またファッションとして成立するという意味でも、当社のコンセプトをわかりやすく体現していると思います」(畑中氏)
ちなみに同店が手掛けるのは「リング」、「ネックレス」、「カチューシャ」、「ピアス」の4本柱。


ここで私が注目したいのは、「カチューシャ」である。特に『ベーコンとスクランブルエッグのカチューシャ』は、出色だ。なぜなら、頭に朝食をそのまんま乗っけてるようにしか見えないから。しかしそれも、“至近距離から見ると気付く”というレベル。遠くから見ると、もしかしたらナチュラルかもしれない。印象的な色使いを活用すれば、コーディネートの肝になるかも!
「初めは作っている我々も『こんなの、買う人いるのかな?』と半信半疑だったのですが、話題作りの意味も含め販売しました。でも、売れるんですね。今では、こういう商品にニーズがあることをわかっています」(畑中氏)
何しろ12,800円(税込み)という価格で販売された『フルーツのネックレス』でさえ、すぐさまソールド・アウトになってしまったのだから。そのニーズ、疑う余地なし!

この予想を遥かに超えた受け入れられっぷり、なんと海外にまで波及している。イギリスのテレビ局やカナダの雑誌、はたまだドイツやフランスのメディアから「紹介したいので、サンプルを送ってくれ」と、世界を股にかけた問い合わせが寄せられているというのだ。
「海外では、“faked jewelry”なんて呼ばれているらしいです」(畑中氏)
つい数年前まで「物に見合った価格設定ができない」と嘆いていたのに、今やジュエリー扱い! “綺麗さ”、“可愛さ”でのみ判断する海外の価値観からすると、同店のアクセサリーは宝物に見えたのかもしれない。

しかし、勝って兜の緒を締める。
「コンセプトに追従し、同じようなアクセサリーを作り始めるメーカーも出て来ると思います。他社にパクられた時、ウチは遥か先を行っていなければいけません」(畑中氏)
道無き道を行く者の宿命だ。

最後に一つ、嬉しい情報です。ソールド・アウトが連発される同社アクセたちだが、ショップに連絡すれば特別に作ってくれるらしいのです!
「というか今や、仕事の内容はほぼその発注との追っかけっこになってます(笑)」(畑中氏)
気になるアクセサリーを見つけたら「あれ、実は欲しかったんですけど……」と問い合わせてみるのも手かも。

じゃあ、私は『お好み焼きのカチューシャ』をお願いします!
(寺西ジャジューカ)