「育児は大変。だから妻一人に任せるわけにはいかない。
仕事はできるだけ効率よく切り上げ、しっかりとした教育理念を持って育児にも積極的に参加しよう」。そう思っているお父さん、ご注意ください。イクメン病の気があります。

「マジメな人ほど『イクメン病』になりやすいんですよ」

そう話してくれたのは、「イクメン病」の名付け親、人気サイト「パパの悩み相談横丁」を運営する育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささん。そもそも「イクメン病」って何ですか?

「仕事も育児も目一杯やろうと、いつもギリギリの状態でがんばることによって余裕がなくなり、仕事も家庭も上手くいかなくなる人がいます。『なんでこんなに頑張ってるのに誰も評価してくれないんだ』という風に悩み始めたらそれはもう『イクメン病』です」

どうしてそういう状況に陥ってしまうのでしょうか?

「マジメな人は仕事も一生懸命やっていますから、さらに仕事を効率化させるのは難しいものです。
その結果、自分を追い込んでしまうのです。またマジメな人とは別に『イタメン』も『イクメン病』に陥り易いですね」
イタメンというのは、育児に積極的に参加している自分を他人から褒めてもらいたいために、ママと比べると大したことをしていないのに妙に自分のイクメンぶりに酔ってしまうような人のことを指す。

「『イタメン』は育児のおいしいとこどりだけをしがちです。たとえばお風呂に入れるにしても湯船に浸からせるだけで、体を拭いたり洋服の脱着など大変な作業は全部ママ任せだったり。そのくせ『お風呂担当』を名乗ったりするので、ママからは『イクメン気取り』と反発を買って関係が悪くなりがちです」

では「イクメン病」に陥らないようにするにはどうすればいいのでしょうか?

「忙しければ、無理に育児に割く時間を増やすことを考えるよりも、質を高めることを考えてみてはいかがでしょうか。せっかく早く帰っても仕事が気になって上の空だったり、ケータイをいじりながら子供の相手をしたのでは子供は楽しくありません。
たとえ3分程度の短い時間でも、子どもが楽しく過ごし、その余韻に浸ってくれたら、実際の時間の何倍にもパパの存在感はグッと高まります」

どうすれば短時間でパパの存在感を高められるかというノウハウは、おおたさんの近著『忙しいビジネスマンのための3分間育児』に詰められている。

同書には子供の心に響くフレーズ集や、パパならではの遊びのアイディアに加え、勉強に興味を持たせる方法や、忙しくてどうしても時間がとれない時に子供を喜ばせることのできる手立てが具体的に書かれている。子育て中の筆者は思わず「リビングにさりげなく置いておきたいおすすめアイテム」と「子どものハートをつかむ究極のマジックワード」をメモにとってしまったほどだ。

しかし忙しいビジネスマンが子育てでひとつだけ気をつけるとすれば、それはテクニックやノウハウではないとおおたさんは言う。

「それはママを笑顔にすることです」

ママが中心に子育てを担当している場合、どんなに短時間に命をかけて頑張ってもママの日々の大変さには到底及ばないもの。そして子供に対して影響力絶大なママのコンディションをよくすることが、間接的ながらも大切な子育てだといえるといいます。


「『イタメン』の大きな問題は、いい気になってイクメン面していることだけではあり ません。おいしいところ取りしかしていなくせに育児をしているつもりになっているということは、ママの日頃の子育ての大変さの全体像をまったく理解してないということであり、そうしたところにママたちは呆れ果てるのです」

「ママたちは日々大変な思いをして自分の子どもを育ててくれているので、そのことに 対する感謝と尊敬、そして愛情をしっかり示すことが大切です。具体的には、ママがやりたくない力仕事やトイレ掃除など"汚れ役"を積極的にやるのはいいですね」

夫婦関係がよくなり、ママがいいコンディションで育児をすることをサポートできたら、それも大きく育児に寄与することになるのだ。
共働き家庭が増えているにも関わらず、待機児童の問題など育児をめぐる環境はかならずしも整備されているとはいえない。イクメンを目指すパパも楽ではないが、仕事が忙しすぎて育児育児ができないとこぼすパパたちに一言いいたいとおおたさんは言う。

「今の時代、忙しく充実した仕事があって、愛する子供がいて、自分が育児をしなくてもその子どもの世話をしてくれるしっかりもののママがいるなんて、奇跡的なくらい恵まれている人ですよ。
そのことに感謝して、限られた時間の中でも、集中して育児に取り組んで欲しいですね」
(鶴賀太郎)