第一印象は大事。これは人間関係だけでなく、新商品と私たちの間でも言えることなんです。
商品の“顔”といえば、そう、パッケージデザイン。今日本のコンビニでは毎週150~200もの新商品が発売されていますが、そのうち生き残れる商品はたった数%だといいます。まずは買って試してもらわないことにはリピーターが生まれるはずもない。既存の人気商品、数ある競合商品のなかで消費者の目を引きつけ、「買ってみようかな」と思われる“顔”をしているどうかは、新商品の最大の生命線なのですね。

そのため新商品の“顔づくり“に企業はめちゃくちゃ時間をかけ、試行錯誤をしているそうです。手元にあるペットボトルも、今つまんでいるこのお菓子も、熾烈な競争を勝ち抜いて私たちの手に収まっているんだな……と思うと、いやあ、なんだか感慨深いです。


さて、そんな新商品市場のなかで、「キリン 澄みきり」という新ジャンルが、昨年5月の販売から既に2億本を突破、人気になっているとか。競争の激しいビール業界で消費者に支持されたその“顔”は、意外に控えめな色とデザイン。一見控えめな見た目でヒットしたその秘密を探るため、カラーリストの土屋亜津子さんに取材をしてきました。

■“リセットタイム”の心に寄り添うカラー

土屋さんによれば、陳列棚で商品に目を止めてもらうには、なんと言ってもまずは「色」が重要とのこと。「では、人の目を引きやすい色は?」と尋ねてみたところ、答えは「赤」。高彩度の暖色は基本目立つけれども、なかでも赤は人を“興奮”させ、購買意欲を高める色なのだそうです。
確かにSALE関連の文字はほとんどが赤ばかり!(散財してしまうはずです……)。逆に青などの“沈静色”は、人を落ち着かせ、じっくり考えさせる理性の色とのことでした。

それでは、澄みきりのメインカラーであるシルバーはどうなの? シルバーは無機質、シャープ、洗練された、都会的、ひんやり冷たいといったイメージを与える色で、メタリックカラー(金属色)に分類されるとのこと。メタリックカラーのなかでも、ゴールドが主役の色だとしたら、シルバーは支える色。特に、澄みきりのような光のトーンが抑え目のシルバーは、人の心にスッと入ってきやすく、しっとりと気持ちに寄り添ってくれる色なのだそうです。

一言で形容するなら、澄みきりは“リセットタイム”の心に寄り添うカラー。
にぎやかに大勢で飲むビールというよりは、疲れて帰ってリラックスしたい夜、仕事のことから頭を切り替えたい瞬間、そんなひとりの日常にそっと寄り添ってくれるビール、といった佇まいなんですね! おいしさだけでなく、この絶妙な色合いがリピーターを多く生んでいる理由のひとつなのかも……!

■シルバーの定番には、「スーパードライ」もあるけれど?

ところで、シルバーデザインのビールといえば、アサヒの「スーパードライ」。あえて既存の人気商品と同じ色にした理由は? 味やクオリティに相当な自信があるから? そんな見方もできますが、実際に商品を並べてみると、印象の違いは歴然。スーパードライのシルバーは光沢感があり、缶のデザインも凹凸があってソリッド。対して、澄みきりはマットな質感で、デザインもつるんとしています。

また、スーパードライは「黒文字」で強い自信と主張を感じさせるのに対し、澄みきりは「白文字」ベース。白もしっかり主張はあるものの、こちらは何にでも染まれる柔軟さのある色です。
文字フォントも、スーパードライが角張った横文字なら、澄みきりは筆で書いたような曲線的な縦文字。すべてが対照的に仕上がっていたのでした。

さらに、澄みきりの中央にはキリンの聖獣マークが描かれ、黄色と赤色がほんの少しだけ入っています。これは“アクセントカラー”として理想的な5%程度の配分。赤は内に潜む「情熱」を、黄色はキリンのブランドカラーと「親しみやすさ」をそっと伝えている感じですね、という土屋さんなりの分析も。押しの強くない、都会的で落ち着いた佇まいだけど、ひそかに情熱と愛嬌を隠し持っている人……なんて想像してみると、ふむふむ、商品イメージがとっても掴みやすいです!

■時代に求められているのは「希望」のカラー?

土屋さんによれば、時代によって消費者に受け入れられやすいカラーは違い、流行色も次々と入れ替わる上に、最近では価値観の多様化から色の人気も細分化しているそうです。
そんななかでもここ10年以上、変わらず流行色に入っているのがメタリックカラー。「光」をあらわすその色は、混沌とした時代のなか、よりよい未来への希望を込めて……。その上でロゴや商品名の配色やバランスといった点がぴったりとハマり、澄みきりはここまでヒットしたのかもしれませんね、とのことでした。

今日もいろいろあったけど、凛とした静かな光を放つ澄みきりを飲みながら、今夜も頭と心をリセットさせよう。毎日いいことばかりじゃないけれど、そう悪いことばかりでもない。すっきり眠ったら、またあした自然体でがんばろう! パッケージデザインに潜むそんなやさしいメッセージを感じながら、皆さんも澄みきりを味わってみてはいかがですか?
(外山ゆひら)