さっと作って、つるっといただく。見た目にも涼しい夏の定番食、そうめん。
小学生のころ、このそうめんについて祖母から気になる話を聞いた。

「そうめんは古いほうが美味しいんだよ」

そう言いながら祖母は自信ありげな顔でそうめんを茹でていたが、「食べ物は新鮮なほうが美味しいって言うのになんで?」と幼心に思った。けれども幼い私にとってそんな疑問よりも目の前のそうめんのほうに関心は行き、その後も理由を調べることなく、気付いたら15年のときが流れていた。

しかし、つい先日その疑問は思いがけないところで解決された。
それは、たまたま手にとった『吉兆味ばなし』という本を読んでいたときのことだった。この本の著者は、あの高級料理店「吉兆」創業者の湯木貞一氏で、日本料理の基本的な調理方法から「吉兆」のこだわりまで細かく記されている。
ひとつひとつの料理についても本格的な解説がされており、そのなかには、そうめんについての記述もあった。

『そうめんを作るとき、油をつかっている、そのにおいが残っていることがあるから、そうめんが古いほど油気が抜け、新しいほど油臭いわけです。そうめんをゆでたら、水に落としますが、あの水を流し放しにして、その中で、両のてのひらでそうめんをもんで洗いますが、あれも油気をとるためです』

これを読んで「あのさっぱりしたそうめんの原材料に油?」と驚いたが、調べてみると油はそうめんに欠かせない材料だった。農林水産省の定めるJAS法にも、手延べ干しめん(そうめん)の規格として『小麦粉に食塩水を加えて練り合せた後、食用植物油又はでん粉を塗付して、よりをかけながら順次引き延ばしてめんとし、乾燥したもの』と記されている。

ほかにも油は、麺が乾燥するを防いでくれたり、麺同士がくっつきにくくしてくれたり、茹でても食感が残るようにしてくれたりなどなど、いろいろな役割を担っているようだ。
また、食用植物油であればその種類は問わないとされているため、オリーブの生産で有名な小豆島ではオリーブオイルを使ったそうめんも生産されているという。


さて、そんな重要な役割のある油だが、食べるときには厄介な存在になる。
みなさんはそうめんを口にしたときビニールのような香りを感じたことはないだろうか。あの、むわっとした香りの正体こそが、湯木貞一氏も本に書いている「油くささ」だ。これがあっては、あのさっぱりとしたそうめんの味わいを邪魔してしまう。
おばあちゃんの知恵はこれを取り除くための工夫だったのだ。

ちなみに、このような古くなったそうめんは“ひねそうめん”とも呼ばれ、高級品として取り扱われる。
スーパーやCMでお馴染みのそうめんメーカー、揖保乃糸も特級品のなかでもワンランク上の商品としてひねそうめんを販売しているほど。
だが、その味の違いはやはり食べてみなければなんとも言えない。まだ家に昔買ったそうめんが余っている方は、最近買ったそうめんと食べ比べてみるのもいいかもしれない。

ここで気をつけて欲しいのは、「そうめんは他の麺に比べ虫の付きやすい麺だ」とも言われているように、管理がむずかしいこと。古いそうめんをいただく際は、賞味期限と虫にご注意いただきたい。
(ろっくまん)