印鑑を押すときは、朱肉を使うもの。と、学んだのはいつの頃か。
どっちも同じ赤だし。と、書類に押す印鑑に赤のスタンプ台を使って怒られた新入社員は意外と多いらしい。

そこで、赤のスタンプ台と、朱肉。どう違うのかをシヤチハタさんに伺ってみた。

かつては指を切り、自らの血をもって印とした時代もあった。朱肉という響きにはそんな時代をうっすらと感じさせる。
同じ赤色だが、朱肉と赤スタンプはどう違うのか。ただ色味が違うだけなのだろうか。
「成分はもちろん、色も異なります。色合いはスタンプ台の朱色の方が朱肉に比べて、やや明るいオレンジっぽい色合いです。朱肉の方が重厚感を出す為に、朱赤に近い色合いとなっています」
それだけではない。
「朱肉は一般的に、印影の長期保管を目的としているため、色材に高級顔料を使用しております」
書類にしっかりと陰影を残すため、長期的に色の変わりにくい顔料を使用。
さらに、印材に負荷を与えない植物性の不乾性の油(油脂)を使用し、かつ印鑑につきやすい粘度を考えて作られているという。

一方、スタンプ台のインクは「長期保管よりは、素早く乾燥する事を主眼としておりますので、顔料の粒子を細かくして、紙面に入り込み易くしております」
さらに、ゴム印を使って捺印することをメインに考えられているため、素材はゴム材に影響を与えにくい材料を用いて作られている。
使われる素材によってインクの素材も変えているので、赤のスタンプ台に印鑑を使用するとノリが悪い、色が薄くつくといったデメリットだけでなく、印材を傷める危険性まであるそうだ。
そんな朱肉と同じ、油脂を使った顔料インクは、過去の歴史にもたびたび登場する。ラスコー・アルタミラ洞窟の壁画をはじめ、日本の重要文化財にも油脂を使った顔料インキが使用されている所から、色を長く保持できることは古くから知られていたらしい。

それでは、ネーム印などのインク内蔵式印鑑にも朱肉は使われているのだろうか。

「ネーム9などのネーム印に使用しています朱のインキは、朱肉とは違うインキです。ただ、朱油と類似の材料を使用した上で、連続して鮮明に捺印できる粘度に調整しております」
朱肉よりも素早く浸透。印影が乾燥する様に設定されており、ちょっとした受け取り印ならこの色合いでも問題ないようだ。

朱肉も高級なものになると、押しやすさや色味がぐっと変わるそう。いくつか揃えて、印影の違いで使い分けてみるのも。
(のなかなおみ)