香川県の小豆島といえば、オリーブの産地として有名。最近では国際オリーブオイルコンテストでの受賞も多く、世界的にも注目を集めているのだとか。

牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
オリーブの収穫は9月下旬~12月中旬ごろ。品種や用途で時期が変わる

香川県産オリーブは、主にオリーブオイルと新漬け(※新鮮なオリーブを塩水に漬けこんだもの。10/10に解禁したばかりの季節限定品!)に加工されるが、オリーブをすべて無駄なく使うため、絞った後のオリーブ果実や葉などを活用した商品開発にも積極的だ。以前、「オリーブサイダー」を紹介したこともあるが、オリーブグルメはさらに進化しており、「オリーブ牛」や「オリーブハマチ」なるプレミア銘柄まで生まれていた。

牛やハマチがオリーブを食べて育つと、一体どんな味になるのか? 実際に香川県に行って、食べてきた。
まずは「オリーブハマチ」。香川県産のオリーブの葉の粉末を添加したエサを20日以上与えた養殖ハマチ、というのがその定義である。
エサとして与えるオリーブは全体の2パーセント以上であることが条件だ。2007年から試験が始まり、翌年には本格販売がスタート。2010年には爆発的ヒットを記録し、いまや香川県内ではスーパーでは普通に買えるほどポピュラーなものだそう。

今回は、高松市中央卸売市場から歩いて3分の場所にある大人気の海鮮食堂「いただきさんの海鮮食堂」 でオリーブハマチをいただくことに。まずは、刺身で食べてみると、脂がほどよくのって肉厚。シャクッとした適度な歯ごたえがありながら、魚特有の臭みやくどさが一切なく、さっぱりとした味わいで実に美味! 
牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
「オリーブハマチ刺身」(580円税込)。生魚が苦手な人にもぜひ食べてほしい。刺身観が変わってしまうかも!

牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
オリーブハマチの漬け丼「漁師丼」(700円税込)は一番人気のメニュー。こちらも美味

ちなみにここまで味わいが変わるのは、オリーブに抗酸化作用の強いポリフェノールの一種が含まれているから。
オリーブを含むエサを食べることで、酸化・変色しにくい肉質になるのだという。

もともとオリーブハマチは、カンパチと競合してハマチ人気が低調になったことが誕生のきっかけ。カンパチは変色しづらいため、ホテルなどで大量に使う際にも使い勝手が良い。そこで、ハマチの変色しやすさもなんとか解消したいと試行錯誤した結果、オリーブに行きついたのだとか。

オリーブハマチ養殖の第一人者「島野養魚」代表の嶋野文太さんにも会ってきた。ちょうどいけすのオリーブハマチにエサをあげているところで、この日のエサは北海道産のサンマにオリーブの葉の粉を混ぜたものだという。
いやー、いいモノ食べてるなあ。
牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
(左)「島野養魚」代表の嶋野文太さん。イケメンです(右)この時期(取材時の10月半ば)はいけすには約3万匹のオリーブハマチがいた

香川県のハマチ養殖は、毎年4~5月ごろに1~2キロの若魚を購入し、半年ほどかけて4~5キロにまで育てるスタイル。オリーブハマチのシーズンは9月半ばから1月上旬。瀬戸内海は水量が少ないため気温に左右されやすく、冬の海水温も結構下がる。年が明け寒くなるとハマチがエサを食べなくなり、オリーブハマチの生産、出荷ができなくなる。脂ののってきた今が、まさに食べごろだ。


続いては「オリーブ牛」。こちらは、香川県小豆島のオリーブの絞り果実を与えて育てた讃岐牛のこと。オリーブに豊富に含まれるオレイン酸により旨味が増し、抗酸化成分によってヘルシーなのが特徴だ。

今回は、宿泊したホテル「チェレステ小豆島」 で、オリーブ牛のステーキを食べてみた。脂身はあっさりしつつも、甘みと旨味がたっぷり。やわらかい肉質で、コースの終盤だったが軽く食べられた。

牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
オリーブ牛のステーキ。「チェレステ小豆島」では、オリーブハマチやオリーブパスタなどを使ったオリーブ尽くしのコースが食べられる

今では市場の評価も高いオリーブ牛だが、誕生までには苦労が多かったようだ。まず、牛にオリーブを食べさせることに一苦労。最初はオリーブオイル搾油後の果実をそのまま与えてみたのだが、牛たちはまったく食べてくれなかったそうだ。まあ、それもそうだろう。私も今回、木からオリーブを採ってそのまま食べてみたが、ちょっとビックリするくらい苦くておいしくなかった。最終的には干し柿にヒントを得て、天日干しにすることで甘みを出したところ、牛も喜んで食べるようになったそうだ。

牛や魚は"オリーブ"をエサに美味しく育つ!? 香川県のオリーブ産業をレポート
(左)小豆島オリーブ牛の生みの親である「石井農場」の石井正樹さん (右)オリーブの絞り果実を食べる牛たち。いまや普通の飼料よりオリーブを好んで食べる

オリーブをエサに与えることで、味以外にも嬉しい変化がいろいろあったという。オリーブ牛の生みの親である石井正樹さんいわく、
「牛が健康になった気がする。前より牛の毛艶がよくなったし、牛舎のニオイも薄くなった」
いわれてみれば、確かに牛舎にありがちなニオイをほとんど感じない。どうやらオリーブには消臭効果もあるようだ。現在はオリーブ牛の生産者も増え、香川県全体で年間1500頭を出荷。今後は2000頭くらいまで引き上げるのが目標だという。

オリーブハマチにしても、オリーブ牛にしても、エサ1つでここまで味わいが変わることに驚かされた。そう考えると、私たち人間の体も、食べているものによって大きく変わるんだろうな、なんてこともふと思ったり……。

特産品を活用して生まれた香川の新・美味グルメ。とくにオリーブハマチは期間限定。旬のこの時期にぜひ一度は味わってみてほしい逸品だ。
(古屋江美子)