
その同店を営むのが、日本への留学経験もあるフランス人、クリストファー・ワグナーさんだ。ワグナーさんは同店オープン前からも、ジャパンエキスポなど各地イベントで、飲食ブースとしてお好み焼き/たこ焼きを出展させ、フランスにおける両者の認知度を精力的に高めてきた。
そんなワグナーさんにフランス人視点から、実際フランス人は、和食についてどう思っているのかを語ってもらった。

――今パリにはいたるところに日本食レストランがありますが、昔からポピュラーでしたか?
今から60年前、パリで和食を食べられる場所は「たから」というレストラン1軒だけでした。その後、少しずつ増えていきましたが、それらは在仏日本人のためのものであり、フランス人が普段食べに行くところではありませんでした。値段も高いため、例えば大きな会社が、趣向を変えた接待をしようとした時に選ばれる場所でした。そのため味も、フランス人には受け入られていませんでしたね。
その後、和食への関心が高まってからは一気に市民権を得て、2000年代になってからは市内にレストランが1500軒ほどあります。特にすしを提供するレストランは、パリでは供給過剰気味かもしれません。
――海外の和食レストランは、本国のものと少し変わったものも多いです。
3つに分類できます。1つ目は高級かつ高いクオリティで、正統派の和食を提供するレストラン。2つ目は中国人、ベトナム人、ラオス人、カンボジア人などが主に経営する、価格を安く抑える代わり、質もそれほど求めていない食堂。3つ目が、さまざまなアレンジの巻き寿司など、アメリカナイズされたジャジーな雰囲気漂うラウンジのような店です。
――正統派の和食と外国のアレンジが加わった和食を、フランス人は見分けていますか?
すべてのフランス人が、それら違いについて常に関心があるわけではありません。おそらくフランス人の6割は「アジア料理」として、ざっくり理解しています。またメニュー構成も日仏に違いがあります。日本の場合、すし屋はすし、焼鳥屋は焼き鳥、ラーメン屋はラーメンといったように、基本的には各店が専門的ですが、フランスでは、すし、焼き鳥、ラーメンがすべて同じレストランのメニューに載っています。もちろん日本から進出してきた店の場合は、日本同様に専門的ですが、フランスで興った店はバラエティに富んでいます。
――はしの使用に問題はないですか?
和食に馴染みがなかったかつては、多くのフランス人が、はしをうまく使えませんでした。ですが、和食自体が身近になったこともあって、今は皆、はしの使い方をよく知っています。以前だと、はしといえば中国風の長めのもののイメージでしたが、現在は日本風の小ぶりの箸をイメージするフランス人も多いですし、両者の違いを理解している人も増えました。

――専門であるお好み焼きと、たこ焼きについて教えてください。お好み焼きはフランス人に受け入れられていますか?
お好み焼きは年齢性別を問わずフランス人受けはいいです。フランスは多民族国家のため、お客様により宗教上、食材の制限は出ますが、お好み焼きは言葉通り、自分の好きなものを入れて、「お好み」で食べる料理です。具の幅も広いですし、それぞれに合った食べ方で、楽しめるところが良いですね。
――たこ焼きはどうですか?
仏北部は食材にタコを用いることが少ないので、それを理由に敬遠する人がいます。私の店では、タコの代わりにエビを入れたものもメニューに載せています。一方で南仏やスペイン、イタリア、ポルトガルは普段からタコを食べるので、その点では問題ありません。フランス人は、たこ焼きを知らない人がほとんどですし、「この丸いクレープのようなものは塩味なのか、それとも甘いのか」と聞かれることもたびたびあります。また、千枚通しで手早く生地を返していく様子は、多くの人が見入ります。
――今後どのようなことをしていきたいですか?
以前のフランスは和食といえば「すし」ばかりでしたが、最近は色々な料理を食べられます。お好み焼きやたこ焼きはもちろん、日本のおいしさを、もっとフランス人に紹介していきたいです。
(加藤亨延)