筆ペンといえば、文字を描く道具…。正直、私はそんな考えしか持っていなかったのですが、筆ペンでこんなにも多彩な表現ができるんだ!と、あるイラストを見て思い知りました。
それは『北斗の拳』や『ジョジョの奇妙な冒険』、『聖闘士星矢』など、数多くの人気作品の作画やキャラクターデザインを手がけるアニメーター・羽山淳一さんの筆ペンによるイラストを見たときのこと。

躍動感に溢れていて、それでいて繊細でもあり…とにかく圧倒されました。羽山さんは、筆ペンで描いたイラストを自らのTwitterにアップしているので、その素晴らしい作品群に手軽に触れられるのも魅力。でも、もっとじっくり楽しみたいという人も多いのではないでしょうか? そこでうれしいニュースが! この度、羽山さんの筆ペンイラストを収録した著書『羽山淳一 ブラッシュワーク』(玄光社)が発売されたのです。

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集


表紙を見ただけで心躍ってしまう人もいるのでは? 昨年出版され、大好評だった初の著書『アニメキャラクターの作画&デザインテクニック』に続き、2冊目となる本書は、なんと、すべて描き下ろし! という贅沢な一冊です。

さっそく『羽山淳一 ブラッシュワーク』について、ご本人に取材。
すると「描き下ろしで一冊、という話をいただいたときは嬉しい反面、軽く眩暈を覚えました。“全部描くの〜?”ってゆう」といったお話が。

それも納得です。描き下ろしのイラストが100ページ以上に渡って掲載されているのですから! しかもキャラクター編、リアルロボット編、巨大キャラクター編、特撮ヒーロー編、オリジナルキャラクター編と5つのカテゴリー別に、『北斗の拳』『キューティーハニー』『キン肉マン』『超人ロック』『マジンガーZ』『ゲッターロボ』『ウルトラマン』シリーズ、『仮面ライダー』シリーズなどなど、30作品以上の豪華ラインアップ。

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
『キン肉マン』


また作品以外にも、羽山さんのインタビュー記事や、愛用している筆ペンの紹介ページ、さらには筆ペンで描くときの基本テクニックなどを写真と共にわかりやすく解説したページもあって、隅々まで見応えたっぷり。

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集


一冊を通してみると、キャラクターたちのイラストはもちろんのこと、それぞれのレイアウトの素晴らしさにも感動! レイアウトは果たして瞬時にイメージが浮かぶものなのか、どんなふうに決めて描いているのだろうか……。
羽山さんに聞いてみたところ、こんな回答をいただきました。

「レイアウトに関して、留意していることはいくつかあります。例えば…
(1) キャラクターを並べたときに“流れ”ができていること。
(2) 空間を感じさせるものになっていること。
(3) ただキャラクターを並べるだけでなく、シチュエーションを感じさせるものになっていること…などです」

なるほど。たしかに羽山さんのイラストからは上記の全てが感じられます。


アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
イラストを制作中の羽山さん


羽山さんからは、さらに詳しいお話も。

「(1)の“流れ”というのは、キャラクターの顔や体の向きや目線やポージングで、方向性を表現するものです。それによって“広がり”や「キャラクター同士の関係性」などを表現しているつもりです。これは(2)の成立にも通じることで、今回の本の中では、例えば…『イデオン』のカララとハルルの絵は、キャラクター同士の相容れない関係性を表しています。カララの方が手前に来て大きいのは、物語の中での存在感の大きさゆえ、です。キャラクターに対する思い入れ次第でそんなことはどーでもよくなったりもしますが。
『ゴレンジャー』や『キカイダー』なんかもキャラクターを並べることによって“流れ”を作ってますね」

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
『イデオン』


「(3)の“シチュエーションを感じさせるもの”は、画面の外をなんとなく考えるようにしています。キャラクターの見ている先に何があるのかとか、その表情や、そのアクションポーズの理由は何であるかなどを(ぼんやりとではありますが)想定するようにしています。単純に怒っている顔とか、笑っている顔とか、嘘っぽいなー、と。存在感みたいなものが表現できていれば、と思っています。こーゆーめんどくさいことを考えているので、よく知らない作品やキャラクターは描けなかったりします。でも、宮崎駿も“めんどくさいことは大事なこと”と言っていたので、やってることは間違ってないと思います。
ホントかなァ……。 とまぁ、無理やり理屈をつければこんな感じですが、ぶっちゃけ、感覚頼りのところが大きいです(ってゆう、ちゃぶ台返し)」

最後に、ちゃぶ台返しがくるとは(笑)! でも実際のところ、(1)(2)(3)も頭で考えるというよりは、羽山さんの中に既に感覚的に入っていることなのかも…と素人ながらに感じたのでした。

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
『超人ロック』  


『羽山淳一 ブラッシュワーク』は、前作『アニメキャラクターの作画&デザインテクニック』と比べると、より作品集に近い印象。羽山さんの筆ペン作品ならではの世界を存分に楽しめるのが魅力です。

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
『鋼鉄ジーグ』


完成した本書を見たときの、羽山さんの率直な感想とは…?

「印刷されてきたものを見たとき、率直に“ほわあ、キレイ…”と思いました。専門的なことはよくわかりませんが、インクも蛍光色を足した方法で原画の色の再現に尽力していただいたと聞いています。
密かな野望としては、原画展みたいなもので原画そのものを見ていただきたいと思っていたりするので、それに近いものを目指していただいたことに、私としてはとても満足しています。とてもありがたく思っています」

アニメ作家の秘密のテクニックを惜しげもなく披露!羽山淳一作品集
オリジナルキャラクター『片腕サイボーグ』


原画展も是非、実現してほしいものです! 最後に、羽山さんから読者に向けて、こんなメッセージをいただきました。

「幸運にも2冊目の本を出すことができました。筆ペンによる(いつもの「ぺんてる筆」ですよ)、ぶっちゃけファンアートです。日頃、私のTwitterでの投稿を見ていただいている方にはそれなりに楽しめるものになっているのでは、と。Twitterでアップしたもののリメイク的なものもあるので見比べてみるのも一興かと。ほぼ原寸での収録ですので、いつもの小さい画像 と違った何かが見えてくるかもよー。単純に雑に見えるだけかもしれませんが。とりあえず、手に取っていただけたら嬉しいです。もう少し興味を持てたなら買っていただけるとなお嬉しいです」

羽山さんのファンのみならず、アニメーターを目指している人、さらには80年代のアニメが好きな人にも、間違いなくオススメ。是非、体感してほしい一冊です。6月7日には書店「書泉ブックタワー」で発売記念として羽山さんのサイン会もあるそうなので、興味がある方はお見逃しなく!