YouTuber・はじめしゃちょーはなぜ人気なのか。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

中高生に人気のコンテンツトップ3 ははじめしゃちょー、ワンピース、イッテQ


【オッサンのためのYouTuber講座】「はじめしゃちょー」中高生人気はワンピース並
『はじめしゃちょー Photo Book』

飯田 30代以上の人間にとってはYouTuberは嘲笑の対象だと思いますが、10代は普通に娯楽として楽しんでいます。このジェネレーションギャップを埋めるべく誕生した企画が「オッサンのためのYouTuber講座」。彼らは何をやっているのか? どのくらい人気なのか? なぜ人気なのか? をコネタ的に検証していきます。
 今回は「はじめしゃちょー」篇。彼がいまいちばん勢いがあるYouTuberです。スライムやニベアボディクリームを風呂いっぱいにして入る動画で有名ですね。



 どんくらい人気かというと、僕、最近、中高生にアンケートを採っているんですが、ジャンル問わず好きなものをいろんな角度から質問を投げて固有名詞を拾ってみたところ、言及回数のトップ3が、はじめしゃちょー、『ワンピース』、『世界の果てまでイッテQ』だったんです。

藤田 どうも、32歳にしてオッサン化が進行している藤田です。今回は、オッサンのサンプルとして感想を言いますが……マジで『イッテQ』ってそんなに人気あるんですか!?

飯田 そっちかよ!

藤田 基本からお訊きしますがはじめしゃちょーは社長なんですか?

飯田 フィリピンパブ的な意味で。

藤田 えええええ!? はじめしゃちょーは、社長じゃなかったのかー!! これはコネタだぁーー!

飯田 ……。

藤田 それはともかく、アップした動画のいくつかは、1000万再生超えていて、本当にすごいですね。しかも、家で作っているような動画でってところがすごい。
 で、ぼくも実際に見てみて――最初はYouTuberに偏見あったんですが――ぼくらが若い頃に楽しんでいたバラエティとそんなに変わらないんじゃないかと思ったりしました。

むかしのたけし軍団やダチョウ倶楽部に近い!?


飯田 そうですね。規制が今みたいにきつくなかった時代のバラエティ番組、深夜番組ノリに近いと思います。炎上覚悟でカラダを張ってバカをやる。ただ、予算のスケールは驚くほど小さいですけど。

藤田 四階からプリンを落として食べるとか、メントスをコーラに入れると爆発するから、メントスを棒にして入れたらどうなるか、とか、『電波少年』とかに似てるんですよ。逆に言えば、TVのバラエティが無茶をできなくなってしまったんだなと、ちょっとしんみりしましたね。

 はじめしゃちょーがメントスをコーラに入れて噴き出たとき、部屋に飛び散るので、口で抑えますよね。でも、あれって本当に危険じゃないですか。TVだとコンプライアンス的にできないのかもしれない。そういう、マジでヒヤッとする瞬間を感じられて、これは面白いなと思った。そして、同時に懐かしいと思った。

飯田 全盛期のたけし軍団とかダチョウ倶楽部みたいなもんですね。

藤田 昔は、爆発したり、水に落とされたり、坂を転げ落ちたり、たけし軍団がひどい目にあったり、めちゃくちゃだったんだなとw 実際、怪我したりしていたみたいですし、松村さんのエピソードとかヤバイですよw これはアメトーークで放送されていたから言ってもいいと思うんだけど、アイドルが上に乗っかる水泳大会の騎馬戦の馬をやりながら、我慢できなくなって水の中で自分で(自粛)とかw 相当ひどいw
 そういうバラエティがやんちゃだった時代の番組を見ているときに近い感じがした。だから、これが人気なのはよくわかる。YouTuberが新しいというよりは、求められているアナーキーな笑いをTVが提供できていないからこそ、という感じがする。
 あと、NHKの実験番組みたいなノリもある。音楽のせいかもしれないけど。

飯田 小中高生が好きなのはごく自然なことだよね。

藤田 「風呂」と「やたら食う」が多いという謎はあるのですがw 身体的に、共感しやすいってことなのかな。

飯田 あと親しみやすさという意味ではしゃべりが「なまってる」のがいい。
 はじめしゃちょー人気が『イッテQ』と並んでいるのがやはりおもしろくて、『イッテQ』はテレビじゃないとできないチャレンジをいまいちばんやってる番組のひとつだと思うんです。ただ両者は「カラダを張って限界に挑む」という意味では同じようなことをやっている。テレビ向きかそうじゃないかの違いがあるだけで。

藤田 『イッテQ』は、『電波少年』でいう、ヒッチハイクの旅みたいな感じなのかな。

飯田 近いかもしれない。むかし猿岩石を見ていたような視線にイモトを見ているのかも。

TVに出てこないから上の世代にはわからない


藤田 TVは、昔はニューメディアだったので好き勝手できたけど、今は保守的なメディアになっちゃったってことなのかもですね。日本におけるテレビは本放送の開始が1953年なので、かつては新しいメディアだったんですよね。
 新しいメディアは、権威や名声がなく、バカにされる代わりに、規制がなかったり自由であったりするので、その差を利用して人気を得て逆転したのち、権威化・保守化していくというパターンが、再度繰り返されているようにも見えます。

飯田 そうですね。かつてのテレビやラジオからYouTubeに移ったと(なおアンケートを見ているとニコ動は流行りとしては完全に終わっています)。
 テレビが表舞台だとすると、テレビでできない裏舞台がウェブにできている。しかも今までは何か新しいメディアとかジャンルから有名人が出てくるとマスメディアにリクルートされてブレイクするのが一般的だったけど、今はもう裏舞台(=YouTube)だけでトップの人間は十分食えるようになっているからマスメディアに出てこなくてもよくなっている。だからオッサンたちはよけいに存在を知る機会がなくてジェネレーションギャップが開く。まあ、はじめしゃちょーとHIKAKINは2015年末の紅白歌合戦に出てましたけども、主たる収入源はウェブにある。
 ただYouTuberの寿命ってたとえばVRとか、次の何かが流行るまでのものですよ。間違いなく。一部のトッププレイヤーは残るだろうけど、新しい娯楽が出てきたらまた移り変わっていく。その刹那な感じも込みでYouTuberの世界をウォッチするのは楽しい。

藤田 はじめしゃちょーは、YouTubeのPVからと、企業とのタイアップなどで収入を得ているんですよね? 個人で契約しているとすると、割がいい可能性は高いですね。
 その分、保証や生き残るノウハウの蓄積などはなさそうだ。人気がなくなってもゴリ押ししてどっかの情報番組とかに押し込んでもらえたりはしない、と。

飯田 そうですね。UUUMという会社と契約していて、タイアップとかはそこが持って来てくれるみたいですけど、人気がなくなったらそのかぎりではない。
 僕もフリーなんで立場はあまり変わりませんが。

藤田 はじめしゃちょーの年収を推測している記事がありましたけど、年収1億とか書いてありましたから、2~3年で飽きられても別に十分な額ではないかと思いましたよ、昨今の世帯平均年収などを鑑みると。

飯田 十分でしょう。

藤田 TVで活躍しているお笑い芸人たちの競争率、生存率だって、結構怪しいものじゃないですか、トップや中堅どころ以外は。小梅太夫さんとか、一世を風靡しても、TVで見なくなってしまう人は多い。一発当てるだけでもすごいと思うので、「一発屋芸人」と呼ばれる人たちをぼくは尊敬していますが。人気商売とは、そういう宿命なのかもしれないですね。過酷で悲しいけれど、だからこそ美しいというか。

飯田 実際ちょっと前まではHIKAKINがトップだった。同様に、これからずっとはじめしゃちょーのターンである必然性はなくて飽きられる可能性ももちろんある。
 しかもYouTuberって動画を定期的かつ頻繁に更新すること自体がファンを引きつけておく秘訣なんだけど、あんまりやると一発屋の芸人といっしょで飽きられるのも早くなるし、大変ですね。

江頭2:50をYouTubeに!


飯田 さらに「大人がなぜYouTuberに興味をもてないか」の理由として大きいのは、彼らの多くはあんまり言葉をもっていないんですよ。YouTuberのTwitterをみてもつまんないんです。動画の100分の1もおもしろくない。むかしはネット民ってテキストでおもしろいことするひとたちが主流(?)だったけど、いまは動画民とテキスト民が分かれていて、オッサン層は基本的に後者は好きだけど言葉を持ってない前者はスルーしている。
 ……それをあえて語ってみているのがこの記事でした!

藤田 テキストサイトが面白かった時代もありましたね! あのころも、なんかアナーキーな面白さがありましたね。
 動画って面白いものを見つけにくいんですよ。観るのに時間がかかるから、「見てみるか」ってなるまでの気が重い。その点、はじめしゃちょーは、動画の長さもコンパクトだし、画面を見てなくても大体わかるし、オチのところまで飛ばしてもいいやっていう、親切設計ですね。
 だからこれ見て、普通に面白いと思って笑って、はじめしゃちょー(とスタッフ)を評価する気持ちも十分にあるんですが、むしろ逆に、TVと芸人が不甲斐ないと思いましたよ。だって、江頭2:50さんとかがぜんぜん活躍できていない。

飯田 江頭さんはたしかにネット向きかも。

藤田 江頭2:50さんがYoutuberになれば、すごい稼げるんじゃないんだろうか。過去の動画の(違法?)アップロードでも、数百万再生はされていますから。エガちゃんは、Youtuber化してほしいw

飯田 「リハビリマーシー」みたいにはじめしゃちょーと江頭が組めばw

藤田 そうそう、江頭さんが、先輩としてね。

飯田 これからもときどきオッサンには未知のYouTuberやVinerの世界を紹介していきたいと思います。