子どもや若者の「理科離れ」が問題視されて久しいが、平成14年度には文部科学省が「科学技術・理科大好きプラン」を開始。
近年は、科学技術・理科・数学教育を重点的に行うスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の設置も増えてきている。


だが、その一方で、高校で物理を全くやらない生徒もいると聞く。しかも、国公立大志望でセンター試験を受ける進学校においても、物理を履修しないまま卒業する生徒がいるそうだ。

今、物理は必修じゃなくなっているのか。都内の高校教師にきいてみた。

「物理知らず」の高校生も存在する


「新課程では、物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎の中から3つが必履修となっております。またその上位科目として『基礎』のついていない物理、化学、生物、地学があります。文系コースのある例では、化学基礎、生物基礎、地学基礎を必修にしているために、物理を全く学ばない生徒がでてきてしまっているという現状があります」

かつては大学受験で選択されるのは「国公立文系志望→生物履修者が多く、次が化学」「国公立理系志望→物理か化学が必須+α」のイメージがあったが……。


「工学部や建築科など、受験科目に物理が必須の生徒も多いですが、一般的には理系は化学をメインで使って、物理か生物かの選択をします。どちらでも良い場合は、女の子は生物をとる場合が多いですね」

また、文系の国公立志望の生徒は、「基礎」とついた理科の科目を2つとる必要があるそう。その場合は、基本的には化学基礎、生物基礎の組み合わせが多い。ちなみに、学校のコース設定により物理基礎を取らせない生徒の場合には、生物基礎、地学基礎での受験となるそうだ。

科目数がコロコロ変わるのはなぜ


かつてはそもそも「基礎」を分けておらず、4つ全てが必修だった気がするが、なぜ3つで良いことになったのだろうか。
「かつては4科目、全てが必修で、その後、ゆとり教育になり、2科目を選べば良くなりました。しかし、これではまずいということになり、現在では4科目のうち3科目をとるのが必須となっています。
理系では基礎がつかない科目、例えば物理なら『物理基礎』の上位科目の『物理』が1つまたは2つ必要になります」

一番履修が少ない科目 実は「地学」


ところで、物理を全くやらない生徒がいる学校があるとは聞いていたが、実は一番深刻なのは地学だと言う。
「物理基礎、生物基礎、化学基礎の3つを必履修にしている学校は多いため、地学基礎は履修者がおそろしく低く、その上位の『地学』の検定教科書も少ないなど、問題があります。今、地学をおいているのは、受験に関係ない大学の付属校や文系重視の学校が多いのかもしれません」

物理や地学を学んでいないことで考えられる弊害はないのだろうか。
「生物、物理、化学は科学知識の基礎として必須ですし、地学を学ばない弊害も多くあります。地震や環境問題などは地学の知識が必須ですし、地学はもっとも身近で生徒も興味がわきやすい科目でありながら、生物、物理、化学の総合科目のような深みのある内容なので、理科の醍醐味ともいえる科目だと思います」

かつては4つが必修だったが、2つだけ履修すれば良い時期を経て、現在は中途半端な詰め込みへの回帰となっている。理科のあり方が揺れ動いている時期のようだ。

(田幸和歌子)