「ミシュラン」、そして「三ツ星」。日頃よく聞くこうした言葉。
だが、それがそもそもどんなものなのかよく分からない方もいるのではないだろうか。

かくいう私もそのうちの一人。実際のところ「星」にどれほどの重みがあるのか分かっていない。

そこで今回は、星つきレストランのシェフ本人に、

「シェフはいつ、どのように『ミシュラン・ガイド』に掲載することを知るのか」
「ミシュランの星とはシェフにとってどんな存在なのか」この2つを主軸に聞いてみた。

お話は、2012年西麻布でのオープン以来、5年連続で1つ星を獲得しているフレンチレストラン「アムール」後藤祐輔料理長。甘味、苦味、酸味、塩味、そして旨味という味の決め手として古くから伝えられている「五味」(ごみ)を大切にしながら、彩りと発想豊かなフレンチで日々、人々の想像と味覚を凌駕している。


「ミシュラン」星つきレストランに聞く ガイド掲載はいつ知らされる?
「アムール」の後藤祐輔料理長


まずは『ミシュラン』にまつわる素朴な疑問から投げてみた。

――シェフの皆さんは、いつどのように『ミシュラン・ガイド』に載ることを知るのですか?

「『ミシュラン・ガイド』日本版は毎年12月に発売されますが、その前の11月頃に、郵送で、ある手紙を受け取ります。それが、ガイドに掲載されるお店の料理人が招待されるレセプション・パーティーの招待状。その招待状を受け取った時が、料理人が初めて掲載を知る機会になります。ですから11月になると、その招待状がいつ届くのかと、そわそわしてしますね」

――そのレセプション・パーティーとはどんなパーティーなのでしょうか?

「ホテルでビュッフェ形式で開かれるもので、その席上で掲載店が発表されます。『どこどこの何という店が2つ星に昇格しました』とか『今年は3つ星は何店舗です』などとアナウンスされます。
ですからそのパーティーに行かないと、自分の店につけられた星が何個なのかわからないので、ドキドキしながら発表を聞いています。初めて紹介される店のシェフは登壇することになっているので、当日出席できるかその日の朝、改めて確認のための電話があります」

――掲載に至るまでに『ミシュラン・ガイド』の編集者が味の調査に訪れているというようなことも聞きますが?

「調査員が来ているのか来ていないのか実は正直、僕らも本当にわからないのです。ほかの客にまぎれて来ている可能性もあります。ただ開店1年目の時は、スーツの方が料理を食べてはひたすら私たちに質問を繰り返しノートにペンを走らせていたことがあり、『あの方々かミシュランの調査員じゃないのか』という話はしていました。ただ調査の内容は我々も詳しくはわからない、なかなか踏み入れられない聖域なのです」

ミシュランはシェフにとって最高の栄誉 


「ミシュラン」星つきレストランに聞く ガイド掲載はいつ知らされる?

――それでは料理人にとって『ミシュラン』の星というのはどんな存在なのですか?

「味の評価をするグルメサイトは日本にもいろいろありますが、海外、特にヨーロッパでは『ミシュランの星をいただく』ということはお客様からも、そして料理人側からも一目置かれる、大変権威のある称号なんです。イチ企業が始めたガイドブックではありますが、『ミシュラン』の生まれはフランスですから、フレンチの料理人にとっては気持ちとしては国から授与されるくらいの栄誉なことなんです」

――ではすでに料理人を志したときから『ミシュラン』をめざしていた?

「そうですね。そもそもここをオープンしたときもミシュランのとれる店を作ろうと始めましたし、それ以前にフランスで料理修行していたときも、星の数がそれぞれ違うレストランの門を叩き、格の違いというものを肌で感じてきました。
その格の違いは例えば内装や調度品のしつらえなどに表れます。本国フランスと日本とでは、採点方法が異なり、日本はお皿の上だけで決められますが、本国では料理だけではなく、そうした"しつらえ"など総合的な評価で星の数が決まるのです。日本版では評価の対象にはなりませんが、店ではそうした店内の雰囲気も気をつけるようにしています」


――「星をいただいている」というプレッシャーは?

「それはありますね。もちろん日々、それだけと戦っているわけではありませんが、星をつけてもらっている自負が、より美味しいものを作ろうという気概につながっています。星が1つから2つに上がるのは1割に満たない狭き門と言われていますし、逆に星を失う可能性だってある。ただ何が評価の分かれ目なのかわからないだけに、常に気は抜けませんね」

そんな名門が移転


そんな後藤シェフの「アムール」だが、6年目を迎えるにあたり、この秋に西麻布から恵比寿に移転することになったという(住所は渋谷区広尾1-6-13)

「今までのように一軒家で、お客様に愛していただいていたアムールの雰囲気も残しつつ、今回は新たな試みとして、『シェフズテーブル』を造りました。
キッチン自体は見えないものの、その真横の4席を半個室風に区切ったプライベートな空間です。私自ら料理をお出しし、その説明もするなど給仕をいたします」

新店オープン日は9月22日(予定)。大切な人との記念日にぜひ訪れてほしい。そして、「星」の格を目と舌で体感してほしい。