セルフレジは人々の未来をプラスに導くのか。
日本でも年々広がるレジの無人化。
セルフレジには、従来のバーコードを1点ずつ読み取る方式のものから、衣料品店「GU」が導入したICタグを用いて一気に精算する最新式のものまで、さまざまだ。
セルフレジ増加で反対デモ フランスでは何が起こっているのか

セルフレジが広がる背景には、店側のレジを機械化することで人件費を抑えられる利点と、消費者側の品数が少ない場合のレジ時間の短縮や購入品のプライバシーを保てる点との合致がある。もちろん高齢者にとっては、慣れない操作に不便を感じることはあるが、社会全体の傾向としてレジの無人化は確実に広がっている。将来レジ係という職業が消滅する日も近いかもしれない。

これら機械による人の職業の代替は、人工知能の研究を行う英オックスフォード大学マイケル・A・オズボーン准教授が2013年に、論文として発表し話題になった。同論文では、レジ係の他にタクシー運転手、保険契約の審査員など多岐にわたる職業が、将来的になくなる可能性が高いと予想している。


機械化を便利に感じる一方で、機械および人工知能による代替は、私たちの将来にどのような変化をもたらすのか。フランスではこの功罪について、議論が広がっている。


セルフレジが奪うフランスの雇用


2017年1月、仏大手スーパーマーケット「オーシャン」の労働組合CFDTは、仏北部リール近郊、同北西部シェルブール、パリ北西部セルジー・ポントワーズの3旗艦店舗において、セルフレジの増加に反対するデモを行った。同組合は「セルフレジの代替により、少なく見積もっても今後3年間で2000人以上のレジ係の雇用が失われる」と主張する。
セルフレジ増加で反対デモ フランスでは何が起こっているのか

日本と同様にフランスでも、セルフレジに限らず多くの分野で無人化が進む。パリ地下鉄では一部路線が自動運転化され、2017年1月からはバスの自動運転の試験走行がパリとリヨンで始まった。空港では自動手荷物預け機が、チェックインだけでなく乗客の荷物を流すところまでを無人化している。
(ただ現状では、無人化してもメンテナンス不足など日本と比べヒューマンエラー由来の不具合が多発するフランスにおいて、いつもシステムが問題なく自動で動くことは多くないが……)。

これらオートメーション化は反対意見ばかりではない。
フランス人からは「この国はストライキばかり起きるから、いっそのこと人間じゃなくロボットに代替させた方が、文句も言わず交通機関も止まることもなく動くから良いのでは」といった皮肉も耳にする。
セルフレジ増加で反対デモ フランスでは何が起こっているのか

実際、機械による人間の職業の代替が、社会全体の雇用に対して及ぼす影響については、まだはっきりしていない。「機械化が人間の職を奪う」とする説もある一方で「機械が代替したとしても新たな職種が創出される」とする説もある。どちらにせよ、機械およびそれを制御する人工知能の発達は、今後の世界において間違いなく1つのキーワードになるだろう。


仏大統領選ではロボットへの課税を訴える候補者も


近年欧州でも、機械化と人工知能についてはしばしば議論が行われており、人間と同様にロボットにも課税すべきという意見が出てきている。

例えば2017年2月、欧州議会はロボットに関する法律的枠組みをEUとしてどう扱うかについて、「ロボットへの課税は企業競争力と雇用に、とてもマイナスの影響を与える」と判断した。一方フランスでは、今年4月に始まる大統領選で1つの方向性を示した候補者がいる。左派・社会党から出馬したアモン前教育相だ。

アモン氏は、工業ロボットに課税をし、これを財源とすることでベーシックインカムを段階的に導入する、と訴えている。ベーシックインカムとは、全ての国民に政府が最低限の生活を送るのに必要な金額を支給するという考え方。
公約でアモン氏は、将来的に月750ユーロ(約9万円)の支給を実現したいという。
セルフレジ増加で反対デモ フランスでは何が起こっているのか

なぜ機械化とベーシックインカムの議論が不可分なのか。なぜなら、人工知能が人間の脳の能力以上にまで発達すれば、今ある職業のほとんどは機械により代替される。職業の大部分が機械に取って代わられれば、機械を所有する資本家以外は、収入を得る道がなくなってしまうかもしれない。その問題の解決方法の1つとして、国が生活に最低限に必要な金額を国民に給付する、ベーシックインカムの考え方につながっている。

ベーシックインカムは2017年1月、フィンランドで2000人を対象に試験的導入され話題となった。
まだ新しい政策であるため認知度は高くなく、議論も始まったばかりだ。

ベーシックインカムが今後はどのような形で受け入れられていくにせよ、人工知能または機械化が、将来私たちの生活を予想以上に変えていくことは明らかだ。日々、何気なく支払いに使っているセルフレジは、この新しい未来へつながっている。
(加藤亨延)