矢部教授のマグネシウム電池事業化計画が特異なのは、その実現が近未来ではなく、数年以内に迫っていること。教授のロードマップはこうだ。
2013年に自動車用を開発し、2014年にケータイ用を開発。2015年に電車用と自動車用(大量生産版)の開発……。ちなみに、今年の「自動車用の開発」とは具体的にどんなことを行なっているのか?
「今、EV(電気自動車)がはやりつつありますが、使い勝手は決してよくない。そこで、携帯コンロのカセットボンベのように、マグネシウム電池をポンと自動車に装着する。
実はこの2月中旬、矢部教授は渡米してアメリカの自動車関連メーカーとの回路設計の打ち合わせに臨んでいる。
もちろん、日本の自動車メーカーも矢部教授のもとを何度も訪れるなど、関心がないわけではない。だが、「検討します」という回答から、いちいち時間がかかっているというのが実情だ。
車だけではない。現在と同程度の性能なら、必要なマグネシウム電池は、ノートパソコンには2、3グラムと1円以下。オートバイは300キロメートル走行に約5キログラムで約1200円。ソーラーに代わる家庭用電気になら、自動車と同じ16キログラムで1ヵ月もつ計算だ。
だが、使い終わったマグネシウム電池はどうするのか?
「リサイクルします。マグネシウムは発電すると、酸化マグネシウムに変わります。ところが、これにレーザーを当てると、再びマグネシウムに戻る。つまり、何度でも再使用が可能なんです」
矢部教授のロードマップを見ると、確かに、2014年に「マグネシウム再生工場稼働」と書いてあり、「もう準備に入っています」とのこと。
車を動かせるほどパワフルで価格も安く、再利用も可能。まさに“夢の電池”といえるのではないだろうか。
(取材・文/樫田秀樹、撮影/五十嵐和博)